履正社vs東海大仰星
本塁打を放った安田尚憲(履正社)
清宮 幸太郎(早稲田実業)、岡田 悠希(龍谷大平安)、福元 悠真(智辯学園)...とスラッガーが多い1999年世代。また楽しみなスラッガーが出てきた。その名は履正社・安田 尚憲(レッドスター・ベースボールクラブ出身)。188センチ92キロと、清宮にひけをとらない体格を持った選手である。
安田の見せ場は1回表に訪れた。二死から3番四川 雄翔の中前安打で出塁し、二死一塁で打席が回ってきた。甘く入ったストレートだった。振り抜いた打球は、ライトスタンドの場外に飛び込む豪快な本塁打となった。この本塁打に履正社ナインも驚き。こんな左打者がいるのか!と驚きを隠せなかった。 その安田の憧れが松井 秀喜と聞いて、なるほどと思った。頑強で骨太な体格、まだ洗練はされていないが、ごつごつとして力強い動き。バットを立てて構える姿、小さなステップをして踏み出す姿は確かに松井を意識しているように感じる。むしろ松井を目指していい選手である。
安田はスポーツ一家であり、ご両親がアスリートとして活躍していた。父の功(いさお)さんは、大阪薫英女学院の陸上部の監督として、2014年、高校駅伝初優勝に導いた名指導者。母もやり投げの選手として国体に出場するほど。 そして兄の安田亮太さんは、三菱重工名古屋野球部の主将として活躍していて、前田健太投手の一学年上で、バッテリーも組んでいた選手だ。
やはりスポーツ一家に生まれた影響か、アスリートとしての意識は高く、188センチもあるのは、まさに天性だが、入学から9キロ増量したのは、ただ闇雲に取り組むだけでは実現できない。
秋が終わってから1日5食取るなど、食事量を増やしたり、筋力トレーニングも、上半身、下半身とバランス良く取り組んできた。率いる岡田監督も「人間的に真面目で素晴らしい」と評価するように、自分のこれまでの取り組みを理路整然と話す姿を見て、頭の良い選手と感じた。 安田は昨秋が終わってから本塁打を量産し始めた。そのきっかけは打撃フォームの矯正にあった。「踏み込む左足を開かずに打つようになったんです」今まで安田は踏み込んだ右足が開いた状態で打っていた。そうすると引っ張った打球がファールになったり、また外角へのボールが対応できない。そして下半身でため込んだ力をロスしていると気づいた。そこで、打撃練習は逆方向へ打ち返す意識で、開かずに打つようにしたのだ。そのポイントをつかんだのはこの春から。ボールを手元まで呼び込んで、足の開きを抑えて、腰の回転をフルにボールに伝えられるようになったことで飛ばすコツをつかむように、また一冬の間に肉体改造を行ったことで、より打球が飛ぶようになった。昨秋まで16本塁打。この春になってから、今日の本塁打で14本目となり、節目の通算30本塁打を達成したのであった。
先発・西村(東海大仰星)
この勢いで履正社は、4回表、一死二、三塁から6番石田が一塁手のミットの横をするりと抜ける安打を放ち、追加点。7番筒井太成は浅い中飛。これを三塁走者の安田が好スタート。見事に生還し、貴重な4点目。一塁走者・石田龍史は二塁へ進み、8番竹田が右中間を破る適時二塁打で5対0とする。東海大仰星の先発・西村達也は、130キロ前後の速球、スライダー、カーブをコントロール良く投げ分ける投手だが、少し甘く入ったところを逃さない履正社打線はさすがだった。その後も追加点を入れ、8対0とした履正社。
安田は5回表にも痛烈な右前安打を放ったが、実に鋭かった。履正社の左打者といえば、吉田 有輝 (明治大)など体格はそれほど大きくなくても、小力のあるプレーヤーだが、安田の場合は純粋に、長距離打者の素質を秘めた選手。試合後の取材では、彼の家族構成やこれまでの取り組みに話題が集まったが、履正社のOBを振り返ると、岡田 貴弘(T-岡田・インタビュー)以来の左の長距離打者になるのではないか?と期待をしたくなる。岡田は通算55本塁打だったが、安田の場合、2年春で30本塁打に達しているのだから、岡田越えの本塁打も期待されるだろう。現在のポジションはサード。強肩を生かした三塁守備が魅力だが、岡田監督は「まだまだ30点の守備ですよ。これまではファーストでしたが彼の将来を考えて、やっぱりサードができるようになってもらいたいですね」と打撃だけではなく、三塁守備の上達も期待していた。
安田の代は強打者が多く注目されているが、「清宮や岡田に負けたくないですね」と強い対抗心を燃やしていた。今後も自慢の長打力を見せるか楽しみでならない。
投げては右腕・竹田祐(2年)が好投。182センチ82キロと実に恵まれた体格を持った投手。ノーワインドアップから左足をバランス良く上げて、右足の膝を適度に曲げてバランス良く立ち、ゆっくりと沈み込んでいきながら、内回りのテークバックから振り下ろすオーバーハンド。コンスタントに135キロ前後(最速137キロ)を計測。スライダー、カーブを投げ分けるオーソドックスな投手だが、制球力が安定しているので、ゲームメイクが上手い投手だといえるだろう。この日は「思い切り腕を振ること」を意識。腕を振ってコントロールできるのがこの投手の優れた素質であり、サイズも恵まれているので、今後も追いかけていきたい選手。高校3年までには「150キロ」を到達したいと語る竹田。安田とともに注目したい逸材だ。
最後に日米5球団のスカウトが注目する左腕・山口裕次郎(3年)だが、このスカウト注目の枕詞が似合う投手になるまでしばらく時間が必要と感じた。腰の故障明けなのか、腕が振れていない。腕が振れていないというのは下半身主導で動きながら、体幹を上手く使って、鋭く腕が振れていないのだ。一死満塁から適時打を浴びたが、どの打者に合わせられているのを見ると、ストレートもぐっとくるような勢い、打ち難い角度があるわけでもなく、しっかりとタイミングを合わせやすいフォームとなっていた。彼が覚醒すれば、かなり分厚い投手陣になることは間違いない。夏までプロのスカウトが注目する大器の片りんを見せたとき、大きくクローズアップしていきたい。
(取材・写真=河嶋 宗一)
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