報徳学園高等学校(兵庫)
兵庫県を代表する名門校・報徳学園といえば、守備。今回はいかにして高い守備力を築き上げているのか、指導者の理念に迫るとともに、報徳学園独自の守備のトレーニング法も教えていただいた。
甲子園に最も近い強豪・報徳学園甲子園まで約6km。全国で最も聖地に近い強豪が報徳学園だ。毎年守備力を中心にバランスの良いチームを作り上げ、激戦区兵庫の中でも優勝候補筆頭として名前が挙がる。“逆転の報徳”という異名も、苦しい試合展開を粘り、終盤勝負に持ち込める安定した守備力があればこそ。伝統的に守備が良いのは、もちろんそれだけの練習を積んでいるから。
永田 裕治監督(報徳学園高等学校)
20年以上チームを率いる永田 裕治監督によれば、守備練習で大事にしていることは、「1球に対する気持ち。常にツーアウト三塁で守っている形」だとして、エラーしたら点が入るというプレッシャーの中でノックを行っている。
球際の強さについても「練習しかないでしょうね。試合を想定した練習の。持って生まれたやつは最初から上手いんですけど、うちは叩き上げ」と選手を鍛え上げる。入部に関しての制限は無く希望すれば誰でもユニフォームを着ることが出来るため、3年生が引退しても部員は100人近い。 「突出したスーパースターの選手はいないので。まずはディフェンスが1番。それと走塁」と計算の立つ部分からチーム作りを進める。
試合形式のシートバッティングは無死一塁、又は無死一、二塁から始めるなど動く局面からスタートし、通常のノックももちろん行うが、それ以上に力を入れているのがランナーありのケースノック。それも単に「無死一塁」ではなく「守備側2点リード、無死一塁、バッター2番」と細かく場面を想定して行う。永田監督は1歩目の速さについても「キャッチャーの構えやバッターのスイングを見て、打球が来る前にしっかり準備しておくこと」と話していたが、毎日これを訓練しているわけだ。
二塁手・小松田 卓宏(報徳学園高等学校)
セカンドを守る小松田 卓宏(2年)は「1歩目を大事に。ノックでもインパクトの瞬間を空中で迎えて、どちらにでも動けるようにしています」と心がけ、始めの3歩を強く踏むことを意識しているというショートを守る河野 翔吾(2年)は「動きが遅かったんですけどボールまで最短距離で行けるようになりました」と成長を実感。小松田が旧チームではサードを務めていた他、河野もショートの他にセカンド、サードの経験もあり内野ならどこでもこなせる。
ただ「伝統的に守備はいいんですけど、守り勝ったという試合は今年とその前のチームは無いですね」というのが永田監督の最近の悩みで、現役時代に甲子園出場を果たした報徳学園OBの大角 健二部長も「例年と比べて試合の中での守備の対応力」を課題に挙げる。
守備力向上のため報徳学園では連日多くの時間を守備練習に割くが、ノックなどの実技だけなく、トレーニングにも目を向けている。
注目記事・10月特集 今こそ鍛えたい!守備のキホン・2015年秋季大会特設ページ
[page_break:報徳学園が誇る守備用トレーニングを一挙紹介!]報徳学園が誇る守備用トレーニングを一挙紹介!ちょうど1年前から藤田 博之トレーナーを招いて取り組んでいるのが守備用のトレーニングだ。守備力を何よりも大事にする永田監督が、ノックなどの基本練習と合わせてトレーニングにも目を向け、実力アップを図っているのだ。あまり語られないこのトレーニングの中身について迫っていこう。
シャドウスローイング 1
シャドウスローイング 2
シャドウスローイング 3
シャドウスローイング 4
チューブを使った野手版のシャドウピッチング(シャドウスローイングとした方が適切かもしれない)。テイクバックの姿勢から投げる直前のモーションまで。捕ってから投げるまで頭がブレないよう、腰が先に行かず肩や肘と平行に移動するよう意識して行う。送球が安定するため、スローイングに不安のある選手が行うと効果あり。写真1、2の金丸 星磨(2年)はキャッチャー、3、4の河野はショート。もちろんポジションによって動きの大きさは異なる。
【メディシンボール】足をしっかり開いてメディシンボールを使ったキャッチボールを行う。太ももや股関節周りの筋肉を中から鍛えることで、下半身の安定につながる。50回3セット。見た目以上にキツイ。
【太ももをほぐす】トレーニングというよりはほぐすためのマッサージ。足が張っていると踏ん張りが効かなくなり守備なら上体だけの手投げ、打撃なら下半身を使わない手打ちになりがち。太ももの内側や外側は踏むのではなく足でこするようにしてほぐす。
足首のトレーニング 1
足首のトレーニング 2
仰向けになり足首を立てる→寝かすを繰り返す。野球のプレーの中でつま先からかかとまで足の裏全体を同時に着くという動きはまず無い。ピッチングにしろバッティングにしろ非常にわずかではあるが時間差が生じている。細部の動きの質を高め着地してからの力をしっかり伝えるためのトレーニング。20回2セット。
注目記事・10月特集 今こそ鍛えたい!守備のキホン・2015年秋季大会特設ページ
[page_break:理想の守備ができていた2009年を目指して]上半身は固定して下半身を速く小さく動かす 1
上半身は固定して下半身を速く小さく動かす 2
頭の位置は極力変えず下半身のみ素早く左右を入れ替える。この時、目線はパートナーが出した手の高さからブラさず、手は自分の目の前に棚がありそこに置いているようなイメージで動かさない。大きくジャンプすれば誰でも出来るが、いかに小さなジャンプで最小限の動きで出来るかが重要。効果としてはコンパクトなスイングでも強い打球が飛ばせたり、内野手なら小さなモーションで力強い送球が出来るようになる。
左右の入れ替えの他、その場で小さくジャンプしてエビ反り(もちろんこの時も極力目線は変えず動かすのは下半身だけ。お尻を後方に突き出し、すぐまた最初の姿勢に戻る)、前後の入れ替え(走る時の動きに似ている。右手と左足を出した状態から左手と右足を出した状態に。注意点は上記と同じ)などもある。各種目10回。
【速読トレーニング】速読トレーニングの一種。左右に広げた指を目で交互に追う。左右の他にも上下、前後、斜めなど様々なバリエーションで行う。各10回。ほとんどの情報は視覚から入るため効果範囲は守備のみならず全てのプレーに及ぶ。例えば140km/hのストレートを135km/hに感じることが出来ればそれだけ打者にアドバンテージがある。まだ始まったばかりで、効果が表れるのはこれから。守備強化が目的だが、体幹部分、下半身も強化しているので、打撃も力強さが出てくるようだ。
理想の守備ができていた2009年を目指してキャプテン・多鹿 丈一郎(報徳学園高等学校)
選手たちに話を聞いてみると、キャプテンの多鹿 丈一郎(2年)は72キロあった体重が、走り込みにより入学して3ヶ月足らずで65キロまで落ちたことがあった。しかし今の体重は72キロ。数字上は入学時と同じだが、トレーニングを積んでいる分その質は明らかに違うだろう。試合観戦に訪れた父母からも「今年はでかい子が多いな」という声がよく聞かれるという。
多鹿も「みんな打球の速さが変わってきています」と実感しており、チームの目標は「甲子園出場」ではなく「春夏連覇」。1年時から注目を集めていた左腕エース・主島 大虎(2年)を擁し「ピッチャーを中心に、ランナーを出しても最少失点で切り抜けて粘り強くやる」のが持ち味だというが、永田監督は主島について「能力はあるけどまだ出し切れてない投手」だとし、現チームの守備には「まだまだ。全然。課題だらけ」と満足していない。
歴代の中でも永田監督が守備に絶対的な自信を持っていたのが2009年の代。「打てないけど守れるチームで、ほとんどエラーは無かった」という守備力を武器に、選抜では今村 猛(現広島)を擁する清峰に準決勝で敗れはしたが、ベスト4入りを果たした。
現チームの課題は守備だが、当時は無かった専門家によるトレーニングも取り入れ、旧チームから残ったメンバーも多く期待値は高い。この秋は兵庫大会を順調に勝ち上がり、近畿大会出場を決めた。まだ完成形ではない。これからも実戦に近いノックと守備用のトレーニングで鍛え上げ、その成果は球春到来と共に披露する。
(取材・文=小中 翔太)
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