【三年生座談会】星稜高等学校(石川)【前編】
2014年夏、石川大会決勝戦で起こった大逆転劇を記憶している読者はきっと多いに違いない。最終回の攻撃を迎えた時点で試合は8対0と小松大谷が大量リード。ところが9回裏に星稜が打者13人の猛攻で9得点。高校野球史に残る、奇跡の大逆転勝利をおさめ、星稜は2年連続の甲子園出場を成し遂げた。
今夏、星稜は石川大会準々決勝で再び小松大谷と激突。ところが結果は最終回に3点差をひっくり返されてのサヨナラ敗戦。1年前のリベンジを食らう形で目標としていた3年連続の夏甲子園出場を逸してしまった。
今回はその両方のゲームを知る4名が恒例の3年生座談会企画に登場。星稜高校野球部で送った日々を振り返ってもらった。
左から福重 巽選手、佐竹 海音選手、谷川 刀麻選手、竹谷 翔吾選手(星稜高等学校)伝説のゲームを知る星稜戦士たち「こんにちは! よろしくお願いします!」座談会の会場となった放課後の教室に元気な挨拶と共に登場したのは 谷川 刀麻選手(主将・投手)、佐竹 海音選手(副主将・外野手)、福重 巽選手(副主将・外野手)、竹谷 翔吾選手(外野手)の4名だ。
谷川 刀麻選手(主将・投手)
――夏の敗戦から約2か月が経過しようとしています。今、あらためて高校野球生活を振り返った時にどのような思いが湧いてきますか?
谷川 刀麻(以下、谷川) 自分は、1年からベンチに入らせてもらい、1、2年と甲子園に出場できたのですが、3年生の時に思うような結果が出せずに終わってしまった。悔しいという思いが今でもあります。
佐竹 海音(以下、佐竹) 3年間、終わってみれば早かったですね。現役の時は毎日ちゃんと頑張ってたつもりだったんですけど、今、振り返ると、もっとできたんじゃないかという思いが湧き上がってきます。
竹谷 翔吾(以下、竹谷) 自分は二年生の時に甲子園に出させてもらったんですけど、自分たちの代で甲子園に出れなかったことがとにかく悔しかったですね。
福重 巽(以下、福重) 悔しい思いも、嬉しい思いもたくさん味わえたけど、今、振り返ると、楽しかった印象の方がはるかに強い。笑っていた時間の方がはるかに長かったなと思います。
[page_break:チームの合言葉は「必笑」]チームの合言葉は「必笑」竹谷 翔吾選手
――星稜高校野球部のスローガンは「必笑」。練習、試合を問わず、いつだって笑顔を絶やさないことが星稜ナインの合言葉ということですが、決まった経緯や当時と今の心境の変化を聞かせてください。
谷川 必笑のスローガンを掲げるようになったのは、僕らが1年生の秋ですね。
福重 チームをひとつにするための手段として、メンタルトレーニングの先生がくださったアドバイスがきっかけでした。
竹谷 でもいざ笑えと言われても最初から簡単に笑えたわけじゃなかったよね。
佐竹 最初はみんな無理矢理。その時の感情は一切関係ない。とにかく何があっても笑う。
竹谷 笑顔が消えてると、周りから「おい!おまえ笑ってないぞ!」という突っ込みが入るし。
谷川 一学年上の先輩たちが中心になって決めたスローガンだったし、最初のうちは正直、「なに馬鹿らしいことやらしてんだよ!」と内心思ってたけど(笑)
福重 でも不思議なもので、無理矢理にでも笑い続けているとだんだん自然な感じになっていくんだよね。
谷川 試合でも無理矢理笑ってたらなんだか楽しくなってくるしね。
福重 怖い先輩がやたら優しくなったようにも感じられたし(笑)
佐竹 ひたすら笑っていると自分がプラス思考になれているような感覚も湧いたよね。
4人は「この合言葉が無かったら去年、甲子園にもいけなかったと思う」と口を揃えた。最終回を迎えた時点で小松大谷に大量8点のリードを許した昨夏の石川大会決勝においても、星稜高校野球部から笑顔が消えることはなかった。
佐竹 笑顔を作りつつ、「明日から新チームか…」みたいな思いが頭の中をよぎったのは事実ですが、負けたくないという強い気持ちはあったし、あきらめる、という気持ちはなかったです。
佐竹に同調するようにこくりとうなずく3人。
――あの試合、「これは逆転できる! ひっくり返せるぞ!」と心の底から思えたのはどの時点ですか?
竹谷 岩下(大輝・現千葉ロッテマリーンズ)さんの2ランで2点差に迫ったときですね。あの2ランで一気に現実味が出てきました。
福重 自分は途中でベンチに退いたので、あの回の攻撃は関わってはないんですけど、「お願いやから逆転してくれ!」ってずっと祈るような気持ちでいましたね。追い上げながら、竹谷と自分はベンチで笑顔を作りつつも泣いてて。逆転したときは鳥肌が立ちました。高校生活で間違いなく一番印象に残る試合です。
谷川 あのような試合を体験出来たのは一生の財産。星稜に入ってよかったなと心から思いましたね。
[page_break:小松大谷に断たれた夏の石川大会3連覇]小松大谷に断たれた夏の石川大会3連覇福重 巽選手(副主将・外野手)
谷川が主将に就き、夏春連覇を目指し昨年の8月に始動した新チーム。ところがセンバツ出場を逸し、春の県大会も二回戦敗退。思うような結果が出ない日々が続いた。
谷川 春は相当自信があったので…すごく悔しかったです。
そして迎えた最後の夏。前述の通り、小松大谷に昨夏のリベンジを食らう形で3年生の高校野球生活は幕を閉じてしまう。
――小松大谷戦は最終回を迎えて3点リード。チームはどのような雰囲気だったのでしょうか。
佐竹 去年のことがあるので、最後まで気を抜いたらだめだ、という気持ちは間違いなくありました。
福重 「最後まで気を引き締めろ!集中!」という声はずっとベンチで飛んでました。
谷川 去年はうちのキャプテンが先頭で出塁したことが大逆転へのとっかかりとなったのですが、今年は小松大谷のキャプテンが先頭で出塁したんですよね。その時に「何か起こるんじゃないか…」という気持ちが湧いてしまったんですよね。
――ノーアウト満塁となった場面で谷川君がこの試合3度目となるマウンドに上がりましたね。
谷川 伝令が来て。ひとつひとつアウトをとっていこうと。みんなの顔がしっかり見えてたんで、大丈夫だと言い聞かせて。ノーアウト満塁でも絶対に切り抜けるんだという気持ちで、三振をとりにいきました。でも力んでしまい、ボールが真ん中に入ってしまった。
3対3の同点に追いつかれ、なおもノーアウト満塁。小松大谷の4番・西田 将大の放ったフライはレフトを守っていた福重のもとへ飛んだ。
福重 打った瞬間は、こすった感じだったので、ホームに投げたらもしかしたら間に合うかもと思ったんですけど、思いのほか打球が伸びて、どんどん下がっていくはめになって、間に合いませんでした。
――昨夏のサヨナラ返しとなる犠牲フライ。思い出したくないかもしれませんが、もしよければ、試合が終わった直後の心境を教えてください。
福重 整列の時点では負けた実感があまり湧かなかったんですけど、ベンチの後ろに引っ込んだ時に、みんなうわーっと泣き出して。そこでようやく、「あ、おれたち負けたんだ」という実感が湧いてきて。「去年の逆じゃないか。おれたちやり返されたんだ」と。
竹谷 自分はライトを守ってたんですけど、負けた瞬間は何が起こってるのかよくわからなくて。「え、負けたん?」と。みんなが泣いてる姿を見て、高校野球が終わったことを実感、悔しいという思いがこみ上げてきました。
佐竹 自分は最後ベンチにいたんですけど「まじか、こんなことあるんや…。野球ってこわすぎるやろ…」という思いが湧き上がりましたね。
谷川 ベンチから出たらみんながナイスピッチングと言ってくれて。絶対に泣かんとこうと思ってたんですけど、泣いてしまいました。「3年間、精一杯やったつもりだったけど、実際はもっとできたんじゃないか?」という思いも同時に湧き上がってきましたね。
甲子園には惜しくも届かなかったものの、選手たちが、「一生の財産となるような試合ができた。星稜に入ってよかったなと心から思った」と話していたように、高校野球3年間は、彼らにとっての宝物となったことは間違いない。
(取材・写真=服部 健太郎)