イブラヒモビッチも?ミラン大量補強と本田圭佑の立場
「パラメトロ0」。アンチミラニスタの間ではこの言葉が流行っている。日本語にすると「移籍金0」という意味。ここ数年、ミランはこの移籍金0(本田圭佑もその一人だ)、もしくはレンタルで手に入れた選手ばかりでチームを作ってきた。もちろんタダで手に入れたからといってその選手が使い物にならないというわけではないが、それでも最近のミランの低迷とは無関係でないだろう。
それを揶揄してネット上では様々な"お遊び"が行なわれている。例えばミランの選手たちが「我ら移籍金0」と書かれたミランのチームマフラーを掲げていたり、ガッリアーニ副会長を騙ったフェイスブック上では「君は30代で移籍金0、よしミランに来い、君は20代で移籍金がかかる、失せろ!」などという書き込みがされたり......。
しかしミランもタイ人ブローカー、ミスター・ビーをビジネスパートナーにしたことでやっと選手補強にお金を使えるようになった。ただし久しぶりに本格的なカルチョメルカートに参加したからか、どうも勘が狂ってしまっているようだ。移籍市場が開いた当初は、狙っていた選手獲得にことごく失敗している。
その中でも一番失笑を買ったのは、モナコ所属のフランス人MFジョフレイ・コンドグビアの一件だ。
コンドグビアは長身でパワフル、おまけに見事なテクニックを持つ若手で、ヨーロッパの多くのチームが関心を寄せていた。その中にはライバル、インテルの名前もあった。それでもガッリアーニは何度もモンテカルロに行き、コンドグビアや彼の代理人、モナコの副会長などと会食を重ね、ついには獲得ほぼ確実の感触を得た。それが6月18日の夜のことだ。
ところが契約直前にインテルが最後のどんでん返しを狙ってモナコに行ったという噂を聞き、翌19日、ガッリアーニはプライベート機でまたモナコに舞い戻り、インテルが代理人らと話をしている同じレストランに乗りこんだのだ。笑いながら共にレストランを出てくるガッリアーニとインテル幹部の姿がパパラッチされている。
インテルも牽制できたとすっかり安心したガッリアーニはミラノに戻ると、契約の書類を揃えて翌20日にコンドグビアの元に行った。しかしそこで彼を待っていたのは衝撃の事実だった。コンドグビアはガッリアーニがいなかった空白の数時間にインテルと合意してしまったのだ。ちなみにミランは同じ20日にやはり獲得確実とされていたもう一人の選手、コロンビア代表FWジャクソン・マルティネスもアトレティコ・マドリードに奪われている。
そんなミランもここに来てやっとメルカートで結果を出すようになってきた。ローマからイタリア代表MFアンドレア・ベルトラッチを、セビージャからコロンビア代表FWカルロス・バッカを、そしてブラジル人ストライカー、ルイス・アドリアーノを獲得した。本田圭佑のライバルが続々と出現だ。
それでなくても本田の置かれている状況は厳しいものがある。ミランが4−3−1−2のシステムを採るならば、本田がこれまでプレイしていた右サイドアタックのポジションは消滅し、彼の居場所はトップ下だけになる。トップ下は本田の本来のポジションであるが、このポジションにはすでにボナベントゥーラがいる。
おまけに現在、ミランはズラタン・イブラヒモビッチ(パリ・サンジェルマン)を呼び戻すことに必死になっている。これが実現すればミランのピッチでの様相は大きく変わる。前線はイブラヒモビッチ中心に再構成されることになるだろう。一部では本田はすでに構想外だなどという噂も飛び交っている。
しかしミランには本田を放出したくない事情がある。タイ人のミスター・ビーをビジネスパートナーに迎えたミランは、アジアでのマーケティングを強化しようとしている(この夏には中国でのトーナメントも行なわれる)。アジア人選手の本田はアジア戦略には欠かせないというわけだ。本田自身が移籍を望まない限り、本田は今後もミランのユニホームを着続けるというのが、ミラン関係者の見方である。
ミハイロビッチ新監督の下、本田にとってはかつてないほど激烈なポジション争いが待つ1年となる。
利根川晶子●文 text by Tonegawa Akiko