【柏vs大宮】首都圏の郊外人気エリアに移住者続出…注目が集まるワケ
オフィス需要が都心から郊外へと進んでいる。近年、とりわけ注目されるのが埼玉県さいたま市の大宮、そして千葉県柏市だ。大宮は都心から約25分、柏市はつくばエクスプレス沿線の柏の葉キャンパス駅の場合、都心から約30分と、どちらも自宅から勤務地までドア・ツー・ドアで1時間通勤圏内ということが大きい。
まず柏市から見てみよう。不動産業界的には「俄然、注目度が高い」(国内金融機関の不動産担当者)という。なぜか。
現在、千葉県柏市では、JR柏駅周辺とつくばエクスプレス柏の葉キャンパス駅周辺で「柏の葉スマートシティ」と称する再開発事業が進んでいる。未来型の都市開発である「柏の葉スマートシティ」は、官民学協同の事業、モデル都市開発との側面もある。未来型のビジネスを志向するIT企業をはじめ、大学との共同研究を要する業態にとっては実に利便性がいい。東京大学や千葉大学のキャンパスもある。
「千葉大柏の葉キャンパスでは人工光型植物工場で知られている。農業の企業やNPO参入増はもう時間の問題。この分野での研究で知られる千葉大との連携を考えれば柏の葉キャンパス駅周辺のオフィス需要は今後更なる増加が見込まれることは間違いない」(前出の担当者)
もっともこういった状況をいち早く見越してか、柏の葉スマートシティへのオフィス需要は高い。地場不動産業者によると、「今から(柏の葉スマートシティに入居する貸しオフィスへの入居は)極めて困難だ」という。貸しオフィスのほとんどが満室といった状況である。そのオフィス坪単価3万1250円(2015年3月時点)は、周辺相場の約3倍、都心丸の内よりも高額にもかかわらず、だ。
最近、柏の葉スマートシティに転居して来た40代男性は、「職住近接の地としてはうってつけ。都心までのアクセスもよく暮らしやすい」と語る。かつて都心周辺郊外のオフィス、再開発地といえば都心へのベッドタウンというイメージが強かったが、柏の葉スマートシティの場合、再開発意図とは別に、「ウィークデイは郊外で職と住、休日は都心へ」というライフスタイルを求める向きのニーズに合致したといえよう。
関東圏で不動の地位を得た大宮は再開発ラッシュ?他方、大宮は旧来からある「東京のベッドタウン型」の街だ。2014年こそ、地価総平均は2.09%の伸び率を見せ上昇したものの、2009年以降は50万円台を推移しており、全体には下落傾向が著しい。これについて大手ディベロッパーの営業マンは次のように話す。
「大宮駅周辺の再開発は進んでいるものの、職は都心、住は郊外という従来の都市開発ではそのアクセスは“郊外から都心へ”と極めて一方的です。通勤ラッシュに揉まれ、帰宅もそう。そうした要因も含めると、埼玉県では大宮、浦和、東京都では町田といったエリアも同様でしょう」
だが、大宮人気も侮れない。丸井、高島屋、ビッグカメラ、ダイエーといった百貨店をはじめとするショッピングモールも充実、「さいたま市宇宙劇場」、吉本興業の「大宮ラクーン吉本劇場」といったプレイスポットもある。加えて、今や観光資源としての色彩も帯びている多目的ホール「さいたまスーパーアリーナ」へも電車で2分という立地だ。
こうした環境から、再開発以降、「わざわざ渋谷や池袋まで足を運ばずとも十分楽しめる」という声が出はじめ、北関東の若者の間で人気が出ている。大宮駅の東口から氷川神社へと続くストリートには、おしゃれなカフェや美容院、セレクトショップなどが立ち並び、吉祥寺や下北沢など都内の若者が集まる街と同程度に洗練されるようになった。
「大宮駅周辺では再開発が行われていますが、大型複合商業施設が建設中で、2020年までには完成する予定で、今後2〜3年後は不動産価格もかなり上昇するでしょう。2013年に『関東の住みたい街ランキング』で大宮が3位にランクインして以来、人気が高く、とくに若いファミリー層や、独身者向けワンルームの賃貸相場は2013年以降は毎年、7〜10%づつ上昇していってます」(埼玉県内の不動産業者)
都市再開発の成否は人が流入し定着することで決まる。大宮にみられる旧来からの職は都心、住は郊外という“ベッドタウン型”か。それとも柏の葉スマートシティにみられる“職・住郊外、レジャーは都心”型か。大宮と柏の“新旧対決”の結果次第では、これからの都市開発モデルの考え方が大きく変わることは間違いない。
(取材・文/秋山謙一郎)