2014年上半期の自動車販売台数は、トヨタ自動車が509.7万台で3年連続の首位。しかし、独フォルクスワーゲン(VW)が506.6万台と、その差わずか3万台まで肉薄している。VWが中国など新興国市場で大きく勢力を伸ばしている現状をみると、今年中に世界トップの座は交代することが濃厚だろう。

トヨタの豊田章男社長は、台数は追求しないと明言し、堅実経営に舵を切っている。だからといって、この首位陥落を甘くみてはいけない。

いま起きているのは、自動車業界の世界的なパラダイムシフトだ。長らく続いたGMやフォードなどによる米国覇権の時代を、日本勢はトヨタ生産システムなどの日本式イノベーションで覆した。そこに欧州勢はM&A戦略、マルチブランド戦略、プラットフォーム戦略など大胆な方策を打ち、いまそれが花開いている。

その事実を「台数主義には与しない」と直視せずにいると、日本勢に追いつかれ、追い抜かれた米国勢の二の舞になるのではないか。

ただ、実はトヨタも守り一辺倒ではない。来年は攻めへの転換の年になるかもしれない。その戦略は大きく3つある。

1つは、2012年から凍結していた、新工場の建設。メキシコ、中国、そして東南アジアのどこかに、3カ国4工場ぐらいの建設を決定する可能性がある。2つ目は、トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャーという、自動車の基本フレームであるプラットフォームやエンジンの刷新。3つ目は、トヨタの戦略的コアであるハイブリッドシステムをさらに進化させた次期プリウス。これが15年末に出る予定で、ここに先ほどの新プラットフォームも搭載されるはずだ。

あとは、これらの“攻めの戦略”を多忙な章男社長に代わって取り仕切る「番頭」が出てくれば、トヨタの巻き返しが期待できるだろう。

(ナカニシ自動車産業リサーチ 代表兼アナリスト 中西孝樹 構成=衣谷 康)