FC東京の新鋭FW、武藤嘉紀(22歳)の勢いが止まらない。

 8月30日に行なわれたJ1第22節の鹿島アントラーズ戦では、1点ビハインドで迎えた後半42分に起死回生の同点ゴール(試合は2−2の引き分け)。これでW杯による中断期間が明けた最近8試合で6ゴールの荒稼ぎである。

 Jリーグで乗りに乗るアタッカーを、日本代表のハビエル・アギーレ監督も放ってはおかなかった。武藤は先に発表された日本代表メンバーにも初選出され、その注目度は高まるばかりだ。

 まずは、武藤の経歴について簡単に紹介しておこう。

 FC東京の育成組織で育った武藤は慶応大に進学。3年まで大学でプレイしたあと、今季から古巣であるFC東京入りした。慶応大は中退したわけではなく、現在も経済学部4年に籍を置く。ちなみに単位は3年生までにほとんど取得済みで、慶大生とJリーガーの二足のわらじを履(は)くことも卒業には支障がないとのことだ。

 肝心のプレイスタイルに話を移せば、最大の魅力はキレのいいドリブル突破。主に左サイドでのプレイを得意とし、スピードだけでなく、ときには体を寄せてきたDFをはね飛ばすように突き進む力強さも兼ね備えている。

 現在はFC東京で2トップの一角としてプレイすることが多く、ゴール前で勝負する機会が増えていることも得点増の要因となっている。

 左サイドを主戦場としながらも、2トップに入ればゴールも量産する。さながら、そのプレイスタイルはポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウド(レア ル・マドリード/スペイン)に重なる。4−3−3をはじめ、いくつかのフォーメーションを使い分けると公言するアギーレ監督にとっては、非常に重宝する選 手となるはずだ。

 現在、さまざまな形からゴールを量産している武藤だが、思えば記念すべきリーグ戦初ゴールには、彼の魅力がすべてつまっていた。4月19日に行なわれたJ1第8節、セレッソ大阪戦(2−0)でのことだ。

 左サイドのハーフウェイライン付近でボールを受けた武藤は、DFに後ろからつかまれながらも引きずるようにして振り切ると、一度パスを出し、ゴール前に 走り込んだ。そして、ペナルティーエリアに入るところで再びボールを受けてドリブルで進み、冷静にGKの股間を抜いてゴールを決めている。

 力強いボールキープ、基本に忠実なパス・アンド・ムーブ、スピードのあるドリブル、落ち着いたシュート。武藤自身、「自分のいいところが凝縮されたゴール」と自画自賛する会心の一発だった。

 当時の武藤曰く、「これまで(開幕戦から試合に出続けながら)点が取れなくて少し悩んでいたところもあった」。だが、その3日前に行なわれたナビスコ カップのヴィッセル神戸戦(3−0)でプロ初ゴールを決めたことで、「吹っ切れて、シュートのところで落ち着けるようになった」と語っている。ゴール量産 の予兆は、すでに4カ月前からあったわけだ。

 今季8点目を決めた鹿島戦も、「(FW渡邉)千真くんが体を張ってくれたので(こぼれてきたボールを)決めるだけだった」と本人はそっけなかったが、武藤の能力を知るには十分すぎる試合だった。

 鹿島の出足のよさに押されていたFC東京は0−2で前半を終了。だが、後半開始早々、武藤がスピードを生かしてDFラインの背後へ飛び出し、浮き球のパ スをトラップしたところに相手DFの足がかかってPKを獲得。これをエドゥーが決めて1点差に迫ると、その後も武藤は左サイドからドリブルでカットインし てシュート。さらには左サイドからのクロスにゴール前で合わせてヘディングシュートを放つなど、積極的にゴールへ迫った。

 圧巻だったのは、自身のゴールで同点に追いつき、なおも勝ち越しを狙ったロスタイムのプレイだ。

 自陣に戻って守備態勢を取り、自らボールを奪い取ると、味方とのパス交換を挟んでドリブルで疾走。これは惜しくも決勝点にはつながらなかったものの、試合の最終盤でも衰えないスピードとスタミナ、加えて最後まで諦めずにゴールに向かう勝利への執念をもうかがわせた。

 本人は「ひたむきに泥臭くプレイすることを心掛けている。それが毎試合のパフォーマンスにつながっている」と語るが、まさにそのとおりなのだろう。鹿島 戦は代表メンバー発表後、初の試合だったが、「モチベーションはいつもと変わらない。代表を意識してしまうと力が出せない。自分のプレイをしていこうと 思った」と話したように、力みから空回りするようなところはまったく見られなかった。

 さて、いよいよ週明けの9月1日からは日本代表のトレーニングがスタートする。武藤にとっても代表選手としての第一歩である。

「ケガもなく、コンディションはいい。あとは委縮することなく、自分の特徴であるドリブルや裏への飛び出しなどを出せたらいい。(日本代表は)みんな、憧れの選手。いいところを盗みたい」

 期待の新星は、ピッチ上でむき出しにする闘志とは似つかわしくないほどの甘いマスクに穏やかな笑みを絶やさず、あくまで謙虚にそう語る。

 だが、今の武藤なら新生・日本代表を象徴する存在になれるはず。そんな期待をさせるだけの気配が十分に漂っている。

浅田真樹●文 text by Asada Masaki