■J1への距離が縮まったシーズン

2013年11月10日に行われた第40節。岡山は6位の徳島との勝ち点差を『4』に詰めて直接対決を迎え、サポーターも大挙して瀬戸大橋を渡ってプレーオフ進出を懸けた大一番へ臨んだ。しかし、結果は0-2の完敗。徳島の地で力不足を痛感させられ、悲嘆にくれた。

喜びに沸く徳島陣営の反対側で、涙を流すファジレッドの選手たちにサポーターがエールを送る光景が広がる。「あのサポーターたちの笑顔が見たくてクラブを運営しているんだという想いは強くなった。来年こそは、もう待ったなしでプレーオフに残りたい。みんながそのためにはどうしたらいいかを本気で考えるようになった」と、立ち上げからクラブにかかわってきた小川雅洋統括本部長は語る。

クラブが株式会社化してJリーグ参入を目指してから10年が経ち、そしてJ2で5年間を戦った岡山は、クラブ全体でJ1への想いを抱くようになった。13年はプレーオフ進出へ届かず悔しさしか残らない結果となったが、それもJ1への距離が縮まったからこそ芽生えた感情だろう。岡山にとって『J1』は決して夢ではなくなった。

2013年シーズンは喜怒哀楽に富んだシーズンだった。

■成果と課題を精査してチャレンジを続ける

開幕から11試合無敗を続けて一時は2位にもランクしてチーム全体が高揚感に包まれた中でシーズンを進めたが、エース・荒田智之の得点がストップすると失速した。多くの引き分けを重ねて勝ち点が伸びなかった前半戦を終え、後半戦は得点力アップにチーム全体で取り組んだ。

「守って守って1点を取る戦いをすれば負けない試合はできるけど、それではたくさんの試合を勝ち切れない。もっとチャレンジして質を高めていかないといけない」と影山監督は話して攻撃へ舵を切ったが、このチャレンジは同時に失点も増える弊害を生んだ。

後半戦は前半戦よりも得点数と勝利数の増加に成功したが、得点数よりも失点数が膨らみ、勝利数よりも敗北数の方が増えた。チャレンジを試みたチームはバランスを見失って、築いてきた堅守が崩れてしまい、初めて前年を下回る10位でフィニッシュすることとなった。

13年を一括りにすると得点力アップを目指したチャレンジが失敗に終わったことは確かだが、このチャレンジはまだ終わっていない。成果と課題を精査してさらにチャレンジを続けていくことが重要だ。

13年は念願だった練習場が完成し、第27節のG大阪戦はチケットが売り切れてkankoスタジアムは超満員に膨れ上がった。クラブは歴史を重ねながら確実に規模を大きくしている。J参入一年目の09年は最下位に終わり、一番下から着実にステップを昇ってきた岡山は、チャレンジを成功させる土壌を育んできた。影山体制で5年目となる14年に一つの集大成を迎える。

■目標は明確だが手段は抽象的

岡山は15日に10人の新加入選手を発表して2014年のスタートを切った。

その席上で影山監督は新シーズンへの意気込みを語っている。「われわれがさらに強くなる以外に、昇格というわれわれの目標に達することはできない」。

目標設定はJ1昇格と非常に明確だが、手段は抽象的だ。この時期には明確な指針を示すチームが多いだけにインパクトに欠けるが、変化を求めるのではなく築いてきたベースをより強固にしていく方針が打ち出されたと捉えていい。要は、影山体制5年目を迎えて集大成を示すシーズンである。

もっとも、昨季のチームの強化ポイントは新加入選手の面々に表れた。千葉から久保裕一、FC東京から林容平、早稲田大から片山瑛一。3人のストライカーが加入し、岐阜からサイドアタッカーの染矢一樹が加わった。得点力の上昇が焦点である。昨季にリーグ最多となる17試合を引き分けた岡山は、「個でも点が取れる」(同監督)アタッカーの獲得を目指した上で、チームコンセプトを満たす「ハードワークできる選手に集まってもらった」(同監督)。

そして、豊富な経験や確かな実績を持つ選手ではなく、これから多くの伸びしろを残している選手たちを獲得したことも、これまでの強化方針を継続した形。キム・ミンキュンがチームを離れることが決定的となったことは痛手だが、押谷祐樹と清水慎太郎の慰留に成功した前線は、様々なタイプが揃って高い競争力を保てる構成になったと言えるだろう。

■グループとしての最大値を上げられるか

ただ、一人で20得点を期待できるアタッカーはいない。プレシーズンでは昨季の終盤に失点が増えた守備の再構築と共に、前線の選手たちの特徴や連携の見極めに取り組んでいくことがメインテーマになるが、大きな変化がないため大崩れする心配がない分、どれだけグループとしての最大値を上げられるかに懸かっている。昨季に“負けない強さ”から“勝ち切る強さ”を求めてチーム一丸となって行ったチャレンジを、さらに強固な土台を築いて断行していかないといけない。

だが、グループは個の集合体だ。個々のレベルアップなくしてグループのレベルアップもない。影山監督が築いてきたチームは、いいチームだ。選手一人ひとりがハードワークを惜しまず走り、仲間を助け合うメンタリティが備わっている。

だが、だからと言って個人に目を背けていいわけではない。個人がワンプレーの質を高め、状況判断を磨き、強いメンタリティを備えなければ、グループとしての強さも生まれない。冒頭の指揮官の言葉にある「強くなる」は、グループとしてはもちろんだが、選手個々にこそ当てはまる。個々が成長して輝くチームになれば、岡山は昇格に近づいているに違いない。

■著者プロフィール
寺田弘幸
サンフレッチェ広島とファジアーノ岡山を主に、ユースや高校サッカー、中学サッカーなどのカテゴリーを取材。今年は新しくなる東西リーグとプリンスリーグ中国を精力的に取材する予定。