連日、株価の乱高下を繰り返している日本経済。市場にはアベノミクスによる“バブル崩壊”を懸念する動きも出ており、まだまだ景気回復とまではいかないようだ。

そもそもアベノミクスは、インフレで物価を上げると同時に庶民の給料も上がって日本経済全体の規模が成長するという狙いだったはず。もし株価が高値安定するとして、本当にそれが給料にまで反映されるときがくるのか。

経済産業省の現役キャリア官僚、K氏が解説する。

「日米欧の名目賃金の推移を比較してみましょう。名目賃金とは、物価などの要素を加味しない純粋な賃金水準のことです。欧米は景気の波に左右されず、賃金が上昇しています。その理由は、不景気になれば大胆なリストラを行ない、労働者の数を減らす代わりに賃金を上げ続けているからです。そのメリットは、失業率が上昇しても職に就けている人は経済的な余裕が維持され、消費行動が継続される。したがってその国の経済は成長するのです」

実際、経済協力開発機構(OECD)の資料によると、1995年から2010年までの15年間で、名目賃金の成長率は米国で170%、欧州は140%となっている。だが、日本は90%と低迷しているのだ。

「日本は不景気になっても雇用を維持するため、1人当たりの給料は平均的に下がっていく。失業率が低いのはいいことですが、職があっても経済的な余裕は生まれないため、消費行動は生活費のみで止まってしまう。従って景気は低迷し、経済成長もしない。これがデフレの正体です。アベノミクスで庶民の給料が上がるのかという問いへの答えですが、残念ながら上がらないと思います」(K氏)

その理由は、企業の規模に見合わない従業員数の多さにあるという。

「日本は不景気でも雇用を維持するので、企業規模の割に従業員数が多いのです。だから給料はすぐに上がりません。おそらく2年はかかる。それどころか、庶民の給料にはね返る時期が来る前に、日本の景気は再びドン底に落ちる可能性が高いと思います。アベノミクスの柱である金融緩和は、2年後から徐々に引き締めのプロセスに入ります。その過程で日本の財政が急激に追い詰められ、大増税を余儀なくされます。同時に過剰なインフレも襲いかかり、国民の所得が上がる前に生活物価が上がって貧困化が進む。増税と貧困が同時進行すれば、景気が最悪の状態になることは明らかです」(K氏)

メディアから礼賛されるアベノミクスだが、近い将来、今よりずっと悪い状況を生み出す可能性が高いということか……。

(取材・文/菅沼 慶)