新卒採用、エージェントを通じた中途採用だけでは足りず、「女性幹部限定の公募」という、これまでにない方法に踏み切ったUSJ。人事本部長と、採用された女性管理職に話を聞いた。

■「女性幹部公募」という前代未聞の採用法

近年は日本でも外国人や女性を積極的に採用する企業が増えているが、こと女性管理職比率に関しては欧米企業を大きく下回る。管理職に占める女性比率は欧米諸国が軒並み30%を超えているのに対し、日本はわずか7.3%(2011年)にすぎない。

女性に活躍の場を与え、女性目線で市場のニーズに合致する商品やサービスを生み出すことがビジネスの成長を促すことは知っていても、多くの企業では遅々として進まない。

そんななか、05年に9%にすぎなかった女性管理職比率を12年に19.3%にまで高めた企業がある。01年に開業したユニバーサル・スタジオ・ジャパンを運営するユー・エス・ジェイだ。

契機となったのが05年の事業戦略の見直しだ。同社のグレン・ガンペル社長が、ハリウッド映画のエキサイティングなアトラクションを売りにしてきた路線を転換。若い女性やファミリー層をターゲットに据えたエンターテインメント事業の推進を目指した。

同社の下村敏啓人事・総務本部長(執行役員)は「女性をターゲットにしているわりには、女性管理職の比率は少なかった。女性をもっと活用していくことでビジネスに結びつけていこうと考えた」と語る。

同社の社員は約800人。クルーと呼ぶパート・アルバイトが約5000人。クルーの女性比率は7割を超えているのに対し、女性社員は約3割と少ない。その中でどのようにして女性管理職を増やそうとしたのか。1つは新卒採用だ。毎年10人前後の新卒を採用しているが、男女に関係なく選考した結果、6〜7人の女性を採用。多いときには8人を採用した年もある。また、社内ではダイバーシティ施策を展開し、優秀な女性社員の登用を積極的に推進した。

その結果、女性管理職比率は徐々に向上し、11年は16.8%に達した。毎年1ポイントずつの増加というのは他の企業に比べてスピードは速いが、同社は満足していなかった。とはいってもこれ以上の上乗せは限界がある。他の日本企業も同様の努力はしているが、採用した女性を管理職に育成するには時間がかかるというジレンマを抱えている。女性の管理職を増やそうにも「ふさわしい能力と知識が身についていない」というのが、女性管理職比率が上がらない最も多い理由の1つになっている。

そこで同社が打ち出した戦略が、公募による「女性幹部募集」だった。募集職種は物販・商品企画のマーチャンダイズ部の部長職。募集期間は12年6月18日から7月17日までの1カ月。転職サイトのビズリーチに登録後に選考するというものであった。女性に限定した同社の幹部職の公募はメディアにも大きく取り上げられた。公募の狙いについて下村本部長はこう語る。

「管理職は一定の比率には達しましたが、次のステージに進むには社内の人材を育てていかないといけない。これには時間がかかります。転職エージェントを使って中途採用を行う方法もありますが、関西圏の管理職人材の市場は全体の10%程度であり、そのうち女性のマネジメント人材は0.5%という指摘もある。女性に活躍の場を提供したいという当社の方針を広く知ってもらうこと、もう1つはできれば部長以外に複数の女性幹部候補を採用し、育てていきたいと考え、公募に踏み切りました」

募集するマーチャンダイズ部の部長職は年間百数十億円の売り上げ予算を持つ部門の統括業務を担う。社員100人、クルー1000人を率いる重職だ。幹部社員の公募に加えて女性限定というのは、内部昇進制を基調に男性優位の企業風土が残る日本企業では考えられない芸当である。

下村本部長は「開業してから11年目であり、社員の多くが中途採用者。中途採用の延長ということで公募が社員に受け入れられる土壌はあった。とはいえ、男性社員が多い中で、女性に限定することを社員がどう受け取るのかについては多少気にはしていた。だが、戦略上、女性が必要であることは過去の取り組みでも社員は理解しているし、公募については私が社長に提案し、了承してもらった」と語る。

■350人の女性志願者が集まった

では公募の結果はどうだったのか。応募者は350人強、うち250人がマーチャンダイズ部門の志望だった。書類選考後、応募者の2割弱を対象に数次の面接を実施し、最終的に3人の採用が決定した。残念ながらマーチャンダイズ部の部長職の採用には至らなかったが、同部の課長職、人事部のアシスタントマネージャー、内部監査室長の3人を採用した。同時期に転職エージェントを通じて女性の法務部長ほか2名の採用も決まっている。

内部監査室長は公認会計士と税理士の資格を有し、他の企業で監査役も経験したキャリアの持ち主。同様に法務部長も、企業内弁護士として活躍した経歴を持つ。これまで11人の部長職のうち2人が女性であったが、新たに2人を採用したことで女性部長職は計4人となる。さらにマーチャンダイズ部の女性課長をはじめ新規の採用により管理職比率を19.3%に押し上げることに成功した。

下村本部長も「内部の育成・登用も進めてきたが、初期に比べてこの1〜2年は停滞気味だった。今回の取り組みで弾みがついた。これで満足していたらダメであるが、いいスタートを切ることができた」と評価する。同社は当面の女性管理職比率の目標を30%に置いているが、それも通過点にすぎず、さらなる向上を目指している。

新たに採用した女性社員5人はいずれ劣らぬ優秀なキャリアの持ち主であるが、マーチャンダイズ部のクオリティコントロール担当の課長に就任した高橋かおり氏(38歳)は米国の大学院でマーケティングを専攻。卒業後に入社したカネボウ(現クラシエ)では、トイレタリー部門で商品の企画開発などマーケティング業務に従事した。

その後に、実家が経営する輸入雑貨の商社を手伝うことになったが、そこでの経験が彼女を大きく変えた。

「企業の贈答品を扱う小さな会社ですから、商品の企画から営業、銀行との資金面の交渉など経営全般を含めて何でもやりました。営業に出向いても、カネボウにいたときは名刺を出せば、カネボウさんですね、とすぐに理解してもらえましたが、今度は会社の説明から始めなければいけません。とくにOEMを手がける立場だったので、信頼が重要。どうすれば仕事を任せてもらえるのかを考えることは、非常に勉強になりました」(高橋課長)

最終的な肩書は専務だった。輸入先としては中国との取引も多く、山奥の工場に単身で乗り込んだこともある。

「お客様からこういうものが欲しいと言われ、仕入れ先がない場合は、直接中国に行って探します。2人だと費用もかかるので1人で行く。到着した夜に目ぼしい会社を調べて電話をします。明日の朝うかがいますと言うと、中国語は話せますかと聞かれ、少しならと返事をする。こっちが誰か英語を話せますかと聞くとちょっと話せますと言う。翌朝、車で3時間かけて出向き、少しの中国語と英語を交えて商談をしたこともあります」(高橋課長)

持ち味のマーケティング力に加えて、輸入商社での経験を通じてコミュニケーション力と調整力を培ったと語る。そして面接でもその点を強くアピールした。応募の動機はテーマパークで扱うお菓子や衣類、グッズなど幅広い商品の開発に魅力を感じたこと。

「テーマパークを訪れたお客様が思い出の一部として購入されるものです。私は人に喜んでもらえることが大好きですし、自分のキャリアを活かせると考えました」

もう1つ、彼女を惹きつけたのは、同社のホームページ上に挙げているガンペル社長の従業員へのメッセージだ。

「Everything is Possible. Swing the bat! Decide now. Do it now.」。チャレンジすることで可能性は広がる。全ては可能になる。失敗を恐れず、自ら決断し、行動しよう、という意味だ。この言葉が彼女の琴線に触れた。

「最初からダメかもと思ったら絶対にダメになる。絶対にできるという信念が大事だと私は常に思っています。面接のときも『絶対に受かる、私しかいない』という信念でぶつかりましたし、その点を強調しました」(高橋課長)

高橋課長を採用した理由について、下村本部長はこう説明する。

「一番は私たちのマーチャンダイズのビジネスに対して彼女が深い経験を持っていたこと。また、彼女自身が会社が求める“Swing the bat!”を体現してきた人だからです。海外も含めていろんなところに飛び込んで自らのキャリアを築いてきた。この2つの点から彼女にお越しいただこうと決めました」

高橋課長は11月15日に初出勤した。最初は管理職として中途で入ることに不安があったが、それは杞憂だったという。

「初出社の日に私のパソコンの横に『ようこそ』というチームメンバーからのメッセージカードが置いてあり、すごくうれしかったですね。あったかい会社だなと思いました」

同社は今回の公募採用を契機に、採用を含めた女性の登用を積極的に推進していく予定だ。その意味では新たに採用した管理職に対する期待も大きい。

「ほかの女性たちの1つのロールモデルになるのではないかと期待しています。新任の方々が日々接する業務で活躍する姿を見て、そういう働き方があるのか、自分もそうなりたいと思う人が増えてくればいい。また、こちらもしっかりした育成プログラムを用意することで、そうなりたいと希望する人がなれるような状態にしていきたいと考えています」(下村本部長)

■ほぼすべてのパパ社員が育休を取得

もちろん、注力しているのは単に女性の管理職を増やすことだけではない。優秀な女性社員の定着と上を目指す人を増やしていくには、働く環境の整備は不可欠だ。同社は06年以降、仕事と子育ての両立支援策をはじめ、女性が働きやすい職場環境の充実を図ってきている。また、啓蒙活動として男性の育児休暇取得を促すために、14日間の給与全額を保障する短期育児休業制度も設けている。今では子供が生まれたほとんどの男性がこの制度を利用しているという。

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは11年度に開業10周年を迎え、12年10月末に累計入場者数が1億人を超えた。女性とファミリー層をターゲットにした事業展開が奏功し、今では顧客の7割以上を女性が占める。11年度の入場者数は前年比約16%増となり、12年上半期(4〜9月)も前年比約20%増と好調が続く。

女性管理職の増加による業績効果を測定するのは難しいが、女性の発想が活かされる場面も増えているという。

「たとえばキャラクターワンダーランドにキティちゃんのリボンのお店があります。当初、男性を中心としたチームで開発しようということになり、5色ぐらいの種類を置けばよいという発想でしたが、女性がプロジェクトに絡むようになり、さらに多くの種類の商品を並べたところ、想定以上に売れたのです。いろんなところで女性の発想が活かされるようになっています」(下村本部長)

女性の戦力化と活用がビジネスの現場で求められる今日、育成も大事であるが、必要とするベストな人材をベストなタイミングで確保しなければ競争に負けてしまうことになる。日本企業の最大の欠点はマネジャー人材を内部で育成することに執心し、外から確保しようという視点が欠如していることにある。内部で育成が進まないのであれば、ユー・エス・ジェイのように外から採用することを考えてもよい。ビジネスニーズに合ったベストな方法を選択することが人材戦略の重要な鍵を握っている。

(ジャーナリスト 溝上憲文=文)