伊藤穰一:学ぶべきは、「何を学ぶか」ではなく、「どうやって学ぶか」

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伊藤穰一|JOI ITO

日本のヴェンチャーキャピタリスト、実業家。MITメディアラボ所長のほか、クリエイティブ・コモンズ議長、Mozilla Foundationボードメンバー、『New York Times』論説委員などを務める。

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「世界の変化のスピードがこれだけ速くなると、〈地図〉はもはや役に立たない。必要なのは〈コンパス〉です。そして素直で謙虚でありながら権威を疑うことなのです」



まず「教育」と「学び」は違います。英語で言うと「Education」と「Learning」ですが、いま大事なのは「教育」ではなく「学び」のほうです。学ぶためのパッション、学ぶためのコラボレーションをどうやって子どもたちに授けていくのか。そこをやっていかないかぎり、授業をいくらオンライン化したところで意味がありません。



日本に限らず、世界中のどこにも「何にも興味がない」という子どもたちはたくさんいます。けれども、学校では「興味をもつ」ということは教えてくれません。子どもたちはむしろ、何かへの興味を友達やコミュニティから得ていくんです。マンガでもゲームでも、興味をもったところに行動が起こり、その行動のなかから「学び」が起きてくる。先生は必要なく、仲間とのコラボレーションから新しい考えや発想が生まれてきます。メディアラボがやっているのもまさにそういうことなのです。つくりたいという欲求から始めて、そのためには何が必要かを考えていくのがわたしたちのやり方です。ものづくりを通して、興味をドライヴとした学びが起きるんです。



豊かに暮らし、社会に貢献していくためには、子どもたちにさまざまなことに興味をもたせることが必要で、それは大人になってからも同じです。かつての社会システムでは、子どものときだけ学んで、学び終わったら大人になり、同じ仕事を繰り返しながらもっているものを守り、子どもをつくるというのが人の一生のモデルでしたが、いまは学び続けなければ死んでしまいます。メディアラボには「ライフロング・キンダーガーテン(生涯幼稚園)」というクラスがありますが、この言葉の通り、これからは誰もが一生学び続けることが必要で、そこでは「働き」と「学び」とは同列なのです。



これだけ世の中にスピードが出てきて複雑になると「地図」、つまり事前の計画は役に立ちませんし、地図を製作するためのコストも高くつきます。むしろ、大事なのは「何をしたいか」という「コンパス」をしっかりもつことで、企業でもトップがしっかりした磁石をもっていれば、現場は方向性を間違えずに動けます。3.11のときいちばんカッコよかったのは消防のサイバーレスキュー隊でした。彼らは現場にあって自分たちのコンパスを頼りに仕事を遂行しましたが、地図だけをあてにしていた偉い人たちは、結局何の対処もできませんでしたよね。



既成の地図をあてにしていると、すでにある道を一歩一歩前進することしかできなくなってしまいます。既成の権威を疑って自分で考えること、素直かつ謙虚に権威を疑うことが必要なのです。子どもたちには、そのための倫理やインスピレーションを学ぶためのメンターやロールモデルが必要で、そうした体験を提供できなければ、学校の価値は減る一方でしょう。学ぶべきは、「何を学ぶか」ではなく、「どうやって学ぶか」なのです。




MITメディアラボは独立した研究室(Camera Culture、Opera of the Future、Tangible Media、Lifelong Kindergarten等々)がそれぞれ独自の研究を行っている。Anti-Disciplinaryを理念とし「よその学部でできる研究はやらない」を旨とする。







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世界最高峰の大学から最貧国の教育の現場にいたるまで、いま、「教育」をめぐる大きな地殻変動が起きている。パソコンやインターネットの普及によって、オルタナティヴな「学び」が可能となったとき、学校という制度に、いったいどんな意味があるのか。アメリカ、シンガポール、インド、そして日本から新しい「学び」を提案する「未来の学校」を紹介。







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