約10インチのiPadは両手で持たなければならないが、7.9インチのiPad miniなら片手で持つことができる。移動先で見るとしたら、iPad miniのほうが圧倒的に使いやすそう

写真拡大

アップルが満を持して発表した「iPad mini」。果たして、従来のiPadのように7インチタブレット市場でも独走状態になるのか。アップルと、そのライバルたちの思惑について、タブレットPC事情に詳しい識者たちに聞いた。

まず、アップルが7インチタブレットを発売したことについて、ITジャーナリストの佐野正弘氏はこう語る。

「アップルが7インチを出したことで、タブレットの主戦場が7インチになるという方向性がはっきりしましたね。やはり、アメリカでもNexus7(グーグル)、Kindle Fire(アマゾン)という7インチモデルが人気を博していますから、アップルとしては、その市場を見逃すわけにはいかなくなったということでしょうね」

そもそも、7インチタブレット市場はアップル以外の企業によって牽引されてきた。

「約2年半前にアップルがiPadを発売して以来、タブレットは10インチが主戦場で、iPadが断トツでシェアを取ってきました。アンドロイド勢もいろいろと出してはいたんですが、使い勝手があまりよくなくて、ユーザーに受け入れられなかった。それで“アップル以外”のメーカーは10インチでの勝負を避けて、アップルのいない7インチに参入してきました。しかし、世間の反応は芳しくなかった」(佐野氏)

しかし、グーグルとアマゾンという2大IT企業がそろって格安の端末を発売したことで、状況に変化が訪れる。

「巨大なプラットフォームを持つ両社が低価格で直接タブレットを出してきた。値段も安くて、それなりのことができるということで、市場が大きく動いてきました」(佐野氏)

Nexus7もKindle Fireも、もっとも安いモデルは2万円以下。となると、2万8800円で発売されるiPad miniは価格的に不利なのか?

「いや、そこはやはりiPad miniが7インチの戦いでも主力となってくるでしょうね。まずアップルというプレミア感がありますから、価格もその分が上乗せされた感じはあると思います。それにiPadの実績もあるし、iPhoneも売れています。iPhoneユーザーは満足度が高いので、そこから離れたがらないですから、タブレットもアップル製品を選ぶ可能性が高い。まあ、iPad miniが一番強い商品になるでしょう」(佐野氏)

やはり、7インチタブレット市場でもアップルは盤石のようだ。しかし、ジャーナリストの石野純也氏は、今回のiPad miniの発表にある“意外”な一面を見たという。

「アップルとしても、7インチの市場を切り崩さないといけないという思いはあるはずです。でも、それを理由にしてそのまま新製品を出してくるというのは意外でした。というのも、iPhoneにしても、iPadにしても、競合製品がないなかで、まったく新しいコンセプトを打ち出してきました。でも、miniは単にiPadを小型化しただけで、コンセプトが込められていないというか、アップルならではの新しい利用シーンの訴求がなかった。むしろ、競合他社潰しのために後追いで出してきたという感じが強かったですからね。スティーブ・ジョブズがいなくなった今、コンセプチュアルな製品が出せるのか試されているのかなと思います」

iPad同様、世界的なヒット間違い無しのiPad miniだが、かつてのiPhoneのような“アップルらしい商品”かというと、若干疑問が残るのだ。

(取材・文/頓所直人)

■週刊プレイボーイ46号「タブレットPC 2ndシーズン開幕!」より