ユニクロ 渋谷道玄坂店
サービスアテンダント
藤本千秋
幼稚園教諭を経て世田谷千歳台店のスタッフに。その後CAを経験し、2010年春より現職。
(※雑誌掲載当時)

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「店長、ユニクロがめざすハイレベルのサービスってこんなものですか」

ユニクロ世田谷千歳台店で1カ月目の新人アルバイトが、こう質問して周囲を驚かせた。現在渋谷道玄坂店で接客とスタッフ教育を担うサービスアテンダントの藤本千秋さんだ。(※雑誌掲載当時)

短大卒業後、幼稚園の先生になったが、サービスの仕事がしたいと、航空会社の客室乗務員(CA)めざして退職。受験勉強の傍ら、ユニクロでアルバイトを始め、冒頭の“直訴”となる。

高校・短大時代はファストフード店でアルバイトの指導役を務め、競合店の店長から引き抜かれたことも。サービスを見る目は厳しい。

「世田谷千歳台店は高級住宅街に近いので、何回も来てもらうにはサービスが物足りないと感じたんです」

藤本さんの提案に、当時の店長は「だったら君にやってほしい」と、サービス指導係を命じた。新入りアルバイトが突然、指導係になるのだから周囲は戸惑う。

「とにかく接客で模範を示しました。お客様から指名が入り、お褒めの言葉をちょうだいするうちに、周囲に認めてもらえました」

やがてCAの試験に合格し、ユニクロを去る。「立ち居振る舞いなど、たくさん勉強できましたが、将来の自分を考えたとき、今とあまり変わらないだろう」と限界も感じていた。そこへ、渋谷に都心最大級の店舗がオープンするという話があり、「やりたいのはサービスの指導や企画」と悟り、ユニクロに舞い戻った。

藤本さんはすべての客に「いらっしゃいませ」ではなく、「こんにちは」と挨拶する。接客を求めている客かどうか見極め、必要と判断した客には声をかける。

「大切なのは、聞き上手になること。『今度旅行に行くんだ』といったお話を聞いていると、好みや趣味もわかります。女性ならネイルの話も多い。話し下手でも相手の意図を汲んで、的確な一言を出せれば売れます」

接客に効率は求めない。「会話が盛り上がっているなら、服が売れようが売れまいが楽しんで帰ってもらえばいい。人が来てくれなければ、どんなに効率のいい仕事をしても無意味ですから」。

そんな藤本さんのファンは多い。千歳台店時代は10人ほどの客が藤本さん指名で来店。今でもわざわざ渋谷まで足を運ぶ客もいる。

その接客術や指導が認められて、半期に1回、全国3万人のスタッフの中から13人、上位わずか0.04%の優秀なスタッフに与えられる「エクセレントCSスタッフ賞」に輝いた。圧巻は、他のスタッフの知恵も集めた「サービス事例集」。シャツを提案するときはジャケットと合わせて見せる、買い物袋を留めるテープの端を少し折り返すといった小さな気遣いは、今や全店に広がっている。

指導の成果は客からの店舗評価にも表れている。渋谷道玄坂店オープン日、都心大型店としては初めてクレームゼロを達成。さらにオープン月に寄せられた褒め言葉とクレームの比率は10対1が目標のところ、27対1を達成した。これだけ好評価が寄せられること自体、異例だという。

ノウハウをみんなで共有し、店舗の評価を高めていく。それが藤本流だ。

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「決めトーク」は
堅苦しい「いらっしゃいませ」は封印。必ず「こんにちは」と挨拶して親近感を出しています。

自己啓発の仕方
今、興味があるのは、接客サービスマナー検定。また、救急法救急員資格を持っていて3年ごとに更新しています。

優先順位のつけ方
お客様が最優先です。ほかの業務中でも退社間際でも、お客様から呼ばれたら飛んでいきます。

服装、化粧の仕方
お客様から「これもユニクロ?」と聞かれるくらいユニクロっぽくない着こなしを心がけています。「春らしく」とか「大人カジュアル」とか毎日テーマも設定。メークはCA時代の経験から、眉もチークも基本的に丸く仕上げて柔らかい印象に。ネイルは会話のきっかけにもなるので必須です。

記憶に残る失敗談
失敗はありませんが、入店すぐにサービス指導係になったときは、周囲に認められるよう実績をつくることに苦労しました。

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※すべて雑誌掲載当時

(斎藤栄一郎=文 大沢尚芳=撮影)