何故、ア・カペラのアルバムになったのか。今回の最大の特色なんだけど、この頃の曲のオリジナルを聴くと、とにかく時代の匂いが強烈なわけですよ。歌とサウンド、イントロとか間奏とか全てのものを一緒に覚えてしまっている。例えばピンク・レディーだったら、衣装も、振りも一緒に覚えてる。曲が、歌詞とメロディだけじゃなくて、社会情勢も含めて色んなものが全部、同時に記憶されてる。だから当時、リアルタイムに聴いてた人は、あの時自分は何をやっていたのか、いくつだったかとか、一瞬にしてその時代を思い起こせるぐらい、時代を映してる。でも、これはリメイクする時、カバーする時にとても邪魔になると思った。例えば、大ヒット曲のイントロを変えただけで「それ違うじゃん!元のメロディにしてよ」と言う人がいた、もちろん「新しい方がいい!」と言う人もいたけどね。

サウンドも「ギターの音色が違う!昔はこうだったんだ」とか「オリジナルは超えられないよ」とか色々言われるようになったので、いっそのこと「みんなの記憶に残っている色んなサウンドを一切抜いてやろう」というのが、ア・カペラのきっかけなんです。もう詞とメロディと人間の声だけだったら、全然違うように聴こえるんじゃないかなと考えた。音楽評論家の富澤一誠氏いわく「歌のヌード」。昔の衣装を脱がせて素っ裸を見せる。今の子達に「この裸の曲どう?」ってね。「キックの音がダサい」とか、絶対そんなこと言わせない(笑)。70年代に作られた、僕らにとってもすごく熱い想いがある楽曲達を、今の世代に素っ裸にして聴かせてみたい、それが一つの狙いであり、挑戦だった。それともう一つ、フジテレビの番組「ハモネプ」から、ア・カペラが出来るボーカルグループがたくさん出てきた事が後押ししてくれた。ア・カペラってすごく難しいんですよ。でも、このブームのお陰で大学生を中心としたサークル等でファン層が厚くなり、その中でしのぎを削った人達がデビューしてきたので格段にレベルが高くなった。ちょっと前だったら、ア・カペラのグループといえば、指折ったら5本くらいで終わっちゃったけどね(笑)。で、「創って聴いてもらえる環境」が充分あると判断しました。それが「歌鬼3」制作の経緯かな。

――「青春」という言葉をサブタイトルに入れられたのは、どういう理由からですか?

山崎:今は新曲のCDが非常に売れにくくて、カバーばかり売れている悲しい時代になっちゃったなと思う。これじゃ、これから作曲家、作詞家を目指す人っていなくなっちゃうんじゃないのかなと本気で心配する。そして現役の職業作家でさえ、食べていけなくなるかもしれない危機感を感じる。70年代は景気も良かった事もあるけど、色んな人が一つの仕事で、お金だけじゃなく、喜びも分かち合える「人に優しい良い時代」だった。私を含め、阿久さんをリアルタイムで聴いて育った団塊の世代にとっても、その良い時代の青春真っただ中だった。だからお客さんに、ここは分かりやすく「青春」という言葉に素直に反応して頂きたいなと(笑)。今はタイトルと言えども、CDの中身を表わしてないと、振り向いてもらえないと思う。特に、団塊の世代はレンタル屋に行っても目的のCDを探せなくて、「店員に聞くのは恥ずかしい」という変なプライドもあって、帰ってきちゃうという(笑)。そういう事情も考えて、できるだけ分かりやすくしたいと思った。なぜジャケットが黄色かというと、「歌鬼」の1枚目が赤なんですよ。2枚目はブルー系になっている。「3枚目は絶対に黄色だ!」って決めてたんですよ。できるだけ字も大きくしたかった(笑)。1枚目の時、ブックレットにオリコンのチャートとか色々載せたんだけど、あまりにも字が小さくて。オマケとして虫メガネを付けるべきだったという反省もあった(笑)。そんな訳で、これまでの作品の色々な反省点も踏まえて、今回臨んだ感じですね。