母子殺害事件弁護団 ネットで懲戒請求「運動」広がる
山口県光市で発生した母子殺害事件の裁判をめぐって、新たな展開が生まれた。弁護団が、被告人の死刑回避を狙って「殺害した赤ん坊を床に叩き付けたのは『ままごと遊び』」などと独自の主張を繰り広げているのに対して、ネット上では懲戒請求を求める声が高まり、専用の「まとめサイト」まで登場した。こうした動きに対して、弁護士有志が「弁護を受けるという被告人の権利そのものを抹殺するもの」というアピールを発表、懲戒請求の中止を求めているのだ。
懲戒請求に必要な書類のテンプレートが用意される
2007年5月24日に広島高裁で始まった差し戻し控訴審の公判で、21人にも及ぶ弁護団が
「被害者の女性を殺害後に強姦したのは『死者を復活させる儀式』」
「赤ちゃんを床に叩きつけたのは『ままごと遊び』」
などと信じがたい主張をし、「死刑回避のための引き延ばし戦術」だと見られていることに対して、各方面から非難の声が上がっている。
ネット上でもこの動きは同様で、J-CASTニュースのコメント欄でもコメント数は300を超え、弁護団を非難する声であふれ、弁護士への懲戒請求を呼びかける声が相次いだ。弁護士法では、職務の内外を問わず「品位を失うべき非行」があったときに懲戒処分が行われるとされ、処分は弁護士が所属する弁護士会が行う。懲戒請求は、利害関係者でなくても、誰でも可能だ。
懲戒請求を呼びかけるための「まとめサイト」まで登場している。21人の弁護士が所属する弁護士会ごとの懲戒請求に必要な書類のテンプレートが用意され、プリントアウトして自分の名前を書き、押印すれば、実際に懲戒請求ができる仕組みになっている。申し立て理由の欄もすでに埋められており(自分で書きたい人用に、空白になっているバージョンも用意されている)、
「科学的にも常識的にも到底理解できないし理解したくもない主張を並べ立ててまで被害者を侮辱し死者の尊厳を傷つけています」
「意図的に裁判の遅延を試みているとしか思えません」
「あのように不誠実で醜悪な主張及び行動を繰り返す人間が弁護士としてふさわしいとは思えません」
などと書かれている。
弁護士有志が直ちに中止を求めるアピール発表
そんな状況に対して、07年6月19日、弁護士有志が、「いたずらに懲戒請求を行い、これを煽る行為は違法であり、直ちに中止することを求める」といったアピールを発表した。6月14日夕方、46人の弁護士が呼びかけ、18日までに508人の弁護士が賛同した。
アピール文では、最高裁の判例をあげ
「現在行われている懲戒請求と慫慂(しょうよう、しきりに勧めること)は、事実関係を踏まえず、元少年の弁護人であること自体を捉えてなされており、明らかに違法」
とした上で、日弁連に「元少年を死刑に出来ぬのなら、元少年を助けようとする弁護士たちから処刑する」といった脅迫状が届いたことを指摘。こうした動きは
「被告人が、弁護人による効果的な弁護を受けるという憲法上の権利そのものを、根本から否定し封殺しようとするもの」
だと訴えている。
もっとも、このアピール文では、「元少年の弁護をすること自体に対して非難が集まっている」という現状認識が示されており、「死刑回避のための荒唐無稽な主張に対して非難が集まっている」という「まとめサイト」などで示されている認識とはかみ合っていない。
もっとも、J-CASTニュースのコメント欄でも、
「法廷外から弁護内容が気に入らないからと、いちいち懲戒されては、実質、人民裁判的な大衆によるリンチで司法判断を決定することを認めてしまうこと」
「現時点での懲戒請求の動きは単に弁護内容が外野にとって不愉快だからという程度のものとしか思えない」
といった、懲戒請求に対して批判的な声も、相当数存在している。