11月1日、フジサンケイグループに新たな新聞が加わる(撮影:吉川忠行)

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「SANKEI EXPRESS担当編集長(役員待遇 編集局新プロジェクト担当編集長)平田篤州」

 1日付の朝刊各紙、この時期に恒例となっている大手新聞社の人事を伝える記事の中に見慣れぬアルファベットが掲載されていた。さらに、産経新聞は「組織変更」として、編集局、営業局にSANKEI EXPRESS担当を新設することを発表した。

 SANKEI EXPRESS(サンケイエクスプレス)とは、産経新聞社が11月1日付で創刊する20〜30代向けの日刊タブロイド紙のことで、横書きの32ページ、上質紙を使った「美しい新聞」「知的でノーブルな新聞」(同社)として毎朝自宅に配達されるという。発行部数は10万部(産経新聞は220万部)、月間購読料は一般紙のほぼ半額にあたる1680円(税込)で、創刊当初は配達区域を東京・神奈川・千葉・埼玉の1都3県と、京都市に限定する。

 紙面は、前日の出来事の解説記事やスポーツコラム、「一般紙とはひと味違う」という経済記事などを扱う「ニュース」と、芸術、文化、エンタメから「正論路線」として知られる同社の論説委員によるオピニオンに至るまで、「バラエティに富んだ“アートな香り”あふれる」という「アート」の2部構成。中の16ページ分を抜き取ればそれぞれ別の新聞のように分けられるデザインになっている。

 編集長を務めるのは平田篤州(あつくに)氏。1951年生まれの54歳、75年に入社後、東京本社政治部次長、論説委員、編集局次長兼社会部長などの要職を歩み、2004年春には“ジリ貧”状態だった老舗の経済紙、日本工業新聞社を完全子会社化したのと同時に編集長として「フジサンケイビジネスアイ」への刷新にこぎ着けた。「サンケイビジネスアイ」は1部100円、中国株情報や、米金融情報の「ブルームバーグ」、IT関連情報の「CNET JAPAN」を始め他社の配信記事を積極的に掲載するなど“個性的”な新聞としても知られる。

 平田編集長が率いる「美しい新聞」編集部には、多種多様な取材歴を持つ20〜50代まで30人の記者が在籍し、フジサンケイグループ各紙の配信記事などの編集デスク業務に加え、独自取材もこなすそうだ。創刊に先立ち9月下旬には編集部のブログが開設されている。「男たるもの、くじけてはならじ」「何事も『産みの苦しみ』と心得て、きょうも深夜のビル街をとぼとぼと歩きながら、家路を急ぐ」「世界で起きているニュースを生真面目に伝え、品格や教養を大切に考えて紙面を作ろうとしています」──。ブログの日記からは、創刊が1カ月後に迫り、ドタバタした編集部の様子や個々のメンバーの志のようなものも伺い知ることができる。

 産経新聞社は8月21日、150億円の無担保普通社債を公募発行すると発表した。新聞業界では、財務情報を開示して一般投資家から資金を調達するのは異例。同日付で関東財務局に提出された有価証券報告書によると、公募で集めた資金は、印刷工場の再編に充てるとしている。

 同社広報によると、エクスプレス紙の印刷・販売には、同社が保有する既存の資源をそのまま活用する。今回踏み切った大型の資金調達は、カラー面が多いエクスプレス紙に合わせた印刷体制強化のために行われたとしている。応募状況については、主幹事証券のUBS証券から「大口のみだった」との報告を受けたことを明らかにした。

 若者の活字離れにともなう、新聞発行部数の頭打ちが叫ばれて久しい。今回のエクスプレス紙と同様、「若者向け」をうたって、“鳴り物入り”で創刊されたタブロイド紙に朝日新聞社の週刊新聞「seven(セブン)」(01年9月創刊)があった。セブンは全面カラー刷で定価は100円。東京・神奈川・千葉・埼玉の1都3県で、コンビニやスターバックス、TSUTAYAなど若者が集まる場所で販売されたが、わずか1カ月あまりで廃刊に追い込まれたという業界にとっての苦い過去がある。

 「日本の国づくりにもつながる『活字文化の復権』を実現できるように、確固とした志を持ちたい。司馬さんの原点である京都を、その出発点にしたい」──。平田編集長はブログで、文豪・司馬遼太郎が同新聞記者時代に赴任したことのある京都がエクスプレス紙の関西唯一の発売エリアに選ばれたことについて、こうつづっている。「竜馬がゆく」「坂の上の雲」など昭和の名著でさえなじみの薄いネット世代の若者に、「正論」を掲げる産経流のラブコールは届くのか。【了】

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