4人組ロックバンドのTHE ORAL CIGARETTES(略=オーラル)が3月17日、神奈川・横浜アリーナで『Kisses and Kills Tour 2018-2019 Arena series 〜Directly in a wide place〜』のツアーファイナルをおこなった。『Arena series』は昨年12月の愛知・日本ガイシホールから4公演をまわるというもの。昨年の6月にリリースされた4thアルバム『Kisses and Kills』を引っさげて、9月18日にZepp Tokyoを皮切りにスタートした全国ツアー『Kisses and Kills Tour 2018 Live house series 〜Directly to various places〜』から約半年間、バンド最大規模のツアーとなった。ニューシングル「ワガママで誤魔化さないで」などアンコール含め全21曲を熱演。天井に吊るされた「KK CUBE」と呼ばれる、某クラウドベースの音声サービス機器を彷彿とさせる人工知能や、大型スクリーンを使用した演出で視覚でも楽しませた。ツアーファイナルの模様を以下にレポートする。【取材=村上順一】

心の距離は近くに

THE ORAL CIGARETTES(撮影=Viola Kam (V’z Twinkle Photography)

 彼らの追求の旅は、常に挑戦とともにあった。筆者が最初に観たホールでのライブは2016年に、なら100年会館でおこなわれた凱旋ライブ『唇ワンマンライブ〜故郷に錦を飾りまSHOW!!〜』。あれから約3年でホールでの魅せ方を完全に掌握しているかのようなパフォーマンスをこの横浜アリーナで見せてくれた。

 ステージへの登場の仕方も興奮させてくれた。「あなたにとって本当に必要なものは?」という問いかけから美麗なアニメーションが高揚感を煽り、中西雅哉(Dr)がゆっくりとドラムセットと共にせり上がり、インパクトのあるスネアの一打から鈴木重伸(Gt)、あきらかにあきら(Ba)、そして山中拓也(Vo)が勢いよく飛び出す幕開け。『Kisses and Kills』からのナンバー「What you want」でオーディエンスを煽りまくる。「もういいかい?」、「容姿端麗な嘘」と体を揺さぶるナンバーで畳み掛けていく。

 前半戦はアルバムのテーマの一つ「Kisses」の部分、愛情を表現した楽曲で展開。3rdアルバム『UNOFFICIAL』に収録された「LOVE」を披露し、ファンへの感謝の想いが詰まった“聴かせる楽曲”でオーディエンスを扇情。序盤から早くもクライマックスのような感覚を与えてくれた。まさにハピネスでアリーナが満たされていた。続いて2ndアルバム『FIXION』に収録の「A-E-U-I」でヒートアップさせていくオーラル。さらに「不透明な雪化粧」では、シャボンがステージの両サイドから舞い上がり、幻想的な空間を作り上げ、視覚でも楽しませてくれた。

 会場が大きくなることによって、物理的な距離も心も遠ざかってしまうかもしれないというジレンマ。山中は「変わりたくない。大きくなったからと言って気取りたくはないし、物理的に距離は遠くなるけど、心の距離は近くにと思っています」と話し、冗談を交えたトークでいつもと変わらない姿を見せてくれた。MCに続いて、デビュー曲「起死回生STORY」でテンションを上げ、「リブロックアート」で、さらにその熱をブーストさせるかのような相乗効果を生んでいた。

山中拓也(撮影=鈴木公平 )


 
 ここでメンバー紹介を挟みステージには山中が1人。このツアーではオーラルが大事にしているナンバー「ReI」をアコースティックギターの弾き語りで披露してきた山中。このアリーナツアーに入ってもそのスタンスは変わらなかった。音楽は一生カタチに残る。一生その人の記憶に残る――山中の言葉。歌とギターのみという最小限の表現方法で、よりメロディと歌詞が鮮明に広がっていく。1万2000人が静かに山中の歌声に耳を傾けていた。

俺らは感情にこだわり続けます

(撮影=Viola Kam (V’z Twinkle Photography)

 後半戦は人間の負の感情、狂気にフォーカスした「Kills」。「KK CUBE」には「裏切」や「盲信」などネガティブなワードが次々と映し出され「Ladies and Gentlemen」に突入。オーディエンスはビートに合わせ腕を上下に弾ませる。続いて、オーラルの真骨頂とも言えるナンバー「PSYCHOPATH」でよりダークでクールなステージを展開。

 そして、3月13日にリリースされたシングル「ワガママで誤魔化さないで」を披露。山中はタンバリンを手に、オーラルのポップな部分とロックのエッジが見事に融合した1曲。ブラスサウンドがアクセントとなり、“ワガママ”という人間のピュアな部分を音に乗せて曝け出していく。「古い曲をやらせてください」と趣を変え「LIPS」を披露。鈴木は黒いストラト、あきらはフレットレスベースとサウンドも変化。中西のモータウンビートが心を弾ませ、山中が冬の情景を音楽で映し出した。

 「6カ月、ツアーをやってきて今日が一番楽しい、集まってくれてありがとう!」と感謝を告げる。山中はあるアーティストのライブをこの横浜アリーナで観て、そのバンドにしか出せない存在感を見せつけられたという。そこで生まれた嫉妬や羨ましいと思うこと、感じられることが自分のやるべきことなんだと話す。自分には何が出来るのか――それを考えられるのが「負のパワー」だという。「弱いやつが奏でるのがロック。だから説得力がある。ロックが好きならそれでいい、自信を持ってください。日本から海外級のアーティストが出てきたら誇らしい。それが自分たちかどうかはわからないけど、俺らはそこを目指してやるつもりです!」と決意を語った。

 山中は「ちょっとここからまた攻めさせてもらってもいいですか?」と、人工知能「KK CUBE」が暴走するなか「キラーチューン祭り」へ突入。<You can save me now.>の言葉が強く心に響く「CATCH ME」、“タスケテ”の文字がスクリーンいっぱいに埋め尽くされる演出から始まった「カンタンナコト」、盛り上がり必至の「狂乱 Hey Kids!!」で行き場のない衝動をアリーナ全体でぶつけていく盛り上がり。1万2000人による折りたたみ式のヘッドバンギングは圧巻の一言。本編ラストは「BLACK MEMORY」でボルテージは最高潮まで高まり、「キラーチューン祭り」の名に恥じないスパートを見せた。

 メンバーがステージを後にすると手拍子でアンコールを求める。まずは中西がステージに登場し、恒例の「まさやんショッピングコーナー」を届ける。このコーナーがワンマンのスパイスの一つになっており、今回もテンションの高いグッズ紹介で楽しませてくれた。なぜかこのコーナーの終わりを示唆する発言もあったが、メンバーから「終わる危機なんてないけどな。そんな話は一切出たことがない(笑)」と中西の嘘を明かし、会場は笑いに包まれた。

 上京してきた時は東京に馴染めなかったという山中は、仲間ができて東京が魅力的な街に変わったという。「本当の友達は見放したりしません。正面向かって意見を言ってくれます。誰に邪魔されても途切れない友情だからこそ、本当の友情なんじゃないかな。相手に対しての感情を忘れないでください。俺は一生連れを大切にする。あなた達も連れだと思っているから一生大切にします」と告げ、「またこの場所で…」と、再びこの地で会う約束の思いを込め「ONE’S AGAIN」をエモーショナルに歌い上げた。

 人に流されていないか、自分の考えを持っているかどうかを問う山中。「自分の目で見て判断しているかを今日は問いたい。俺らがきっと求めているものは愛情や憎しみ、冷たさ、そこにまつわる温かさ。一人では生きていけない。なぜならそこには感情があるから。感情は自分に向けるものだけじゃなく、人の感情とぶつけるもの…。それが出来ていますか? 俺らは感情にこだわり続けます。この世から人間の感情が失くなりませんように…」と願いを込めラストは「嫌い」を投下。人間の持つ感情の中でも最もパワーを持っているもの、表裏一体で好きにもなり得る希望にも満ちた言葉だ。この曲がこのツアーの答えを物語っていた。凄絶なパフォーマンスで、オーラルの存在感、アイデンティティを打ち出し、半年間のツアーの幕は閉じた。

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