携帯キャリア『分離プラン義務化』でスマホメーカーは淘汰 5G普及にも暗雲(石川温)
スマホ業界に衝撃が走っている。

11月26日に総務省が発表した緊急提言案が「やり過ぎだ」と、スマホメーカー関係者が悲鳴を上げているのだ。

緊急提言案では「シンプルで分かりやすい料金プランの実現」を目指すために、「端末購入を条件とする通信料金の割引の廃止」を打ち出している。つまり、これまで「月々サポート」「毎月割」「月月割」として提供されていた、端末を購入すると通信料金から割り引かれる仕組みはすべて廃止される方向になる。

元々はソフトバンクが「新スーパーボーナス」として編み出した手法であったが、総務省からすべて否定されることとなった。

キャリアとすれば、これまで重荷だった端末に対する割引から解放されることになるので、むしろ喜ばしいと思っているかもしれない。しかし、メーカーとすれば、端末購入に対する割引がなくなってしまうだけに、死活問題と言えるだろう。

10万円以上するスマホは、そのままの値段で購入しなければいけない。24回の割賦販売とはいえ、今回の施策により、ハイスペックなスマホが売れなくなることが予想される。

メーカーが恐れているのは、総務省の緊急提言によって、単に新製品が売れなくなるだけでなく、キャリアから在庫処分のための追加費用を負担させられる可能性があることだ。

あるメーカー関係者は「キャリアに在庫として残っているスマホを処分するには値下げするしかない。しかし、その費用を負担したくないキャリアは、値下げをするために費用負担をメーカーに請求してくるようになる。体力のあるメーカーなら対応できるかもしれないが、一部のメーカーだとこれを機会に撤退を余儀無くされるところも出てくるのはないか。実際、ヨーロッパではキャリアに費用負担を請求されて、撤退していたメーカーが後をたたなかった」と語る。

今週に入って、アップルがキャリアに資金を提供することで、iPhone XRが8000円ほど値下げされたことがあった。これも、メーカーが在庫処分の値下げ原資を負担した格好だ。

新規に販売する分から値下げ費用を負担するだけでなく、キャリアが在庫として抱える分まで費用負担を請求されるとなると、メーカーとしても、まさに経営が立ちいかなくなる。

緊急提言案では、販売代理店に対して「独自の過度な端末購入補助」について、業務改善命令の規律を導入するとある。つまり、在庫になってしまったスマホを店頭で、キャッシュバックや過剰な割引をつけて売りさばくということもできなくなるのだ。

総務省で検討会を傍聴していたキャリア関係者は「これからキャリアは、スマホをどれくらい在庫として確保すればいいのか。皆目見当もつかなくなった」とボヤく。

分離プランではいつまで経っても5Gは普及しない

今後、通信料金と端末代金が完全に分離され、キャリアは通信サービスを提供し、メーカーが独自にスマホ端末を売ればいいのかもしれない。確かに理想の構図ではあるが、厄介なのが、2020年から5Gサービスが始まるとしている点にある。

5Gサービスが始まるタイミングで、当然のことなら、5Gに対応したスマホも登場するだろう。しかし、初期段階では、ユーザーも少なく、当然、売れる台数はかなり限定的だ。メーカーとしては、そんな売れない端末を身銭を切って開発し、販売したいとは思わない。

端末が増えなければ、ユーザーとしても5Gスマホの選択肢がないわけで、そんな状況では日本で5Gが普及することはない。もちろん、参入するメーカーが少なければ競争も起きず、端末はいつまで経っても安くはならない。

5Gサービスを順調に離陸させるためには、キャリアが開発資金を負担し、メーカーに5Gスマホを開発、製造してもらう一方で、端末を買い上げ、補助金を出して、他のスマホよりも安価な値段で売ってこそ、ユーザーがようやく手を出してくれるようになる。


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