方向音痴の原因や克服方法とは?

写真拡大

 方向感覚に疎く、自分のいる位置や方角を正しく把握できない性質や人を指す「方向音痴」。地図を見ながら歩いても「迷子になりやすい」「地図と現実の経路を照合するのが苦手」などの特徴があり、日常生活に支障をきたすこともあります。

 SNS上では、「方向音痴の人は自分を信じて歩いているイメージ」「道を間違えていることに気付くのが遅い」「昔からずっと悩んでます」「治す方法ってあるの?」など、さまざまな声が上がっています。

 オトナンサー編集部では、方向音痴になってしまう原因や克服方法について、著書に「なぜ人は地図を回すのか 方向オンチの博物誌」(角川学芸出版)などがある、静岡大学教育学部教授で認知心理学者の村越真さんに聞きました。

「女性に多い」は間違い?

Q.そもそも「方向音痴」とは何でしょうか。

村越さん「方向音痴とは、狭い意味では、方向感覚が鈍い人を指します。例えば、『最寄り駅の方向はどちら?』と聞かれて、全然見当違いの方向を指すような人が方向音痴ということになります。一方で、このような人は『一度行った場所に自力で行けない』『行った場所から駅まで戻れない』などの特徴を示します。つまり、日常的には、位置関係や道順を経験してもなかなか覚えられない人も含めて方向音痴ということが多いようです」

Q.方向音痴になる原因や、メカニズムについて教えてください。

村越さん「人間には、方向そのものを感じる器官はないので(動物によっては地磁気を感じる種もいる)、空間や位置関係をうまく処理できていないと考えられます。2014年にノーベル生理学・医学賞を受賞した英国のジョン・オキーフ博士らの研究によれば、空間関係の処理は脳の海馬で行われています。ただし、方向感覚の良し悪しがなぜ生まれるのかは、よく分かっていません。海馬そのものに問題があるというよりは、その使い方や空間情報への注意の向け方に問題があると考えられています」

Q.自分が方向音痴であるかどうか、チェックする方法はありますか。

村越さん「教育心理学者の竹内謙彰さんが作成した『方向感覚質問紙』があります。これを参考に、私が作成したものが『方向感覚質問リスト』(チェックリスト画像参照)で、自分の方向音痴の程度がわかります。このリストでは、得点の高い方が方向音痴の程度が高い計算方法になっています」

Q.方向音痴になりやすい人の特徴はありますか。

村越さん「方向感覚質問紙を作成した竹内さんの研究によれば、質問紙の得点と活動性(活発に活動したり、手早く能率的に物事を処理したりする傾向)は中程度の関連があることが示されていますが、全体的には特定の性格が方向感覚に関連しているわけではなさそうです」

Q.男性より女性に多いイメージがありますが、実際はどうなのですか。

村越さん「『自分は方向音痴である』と評価している人は、圧倒的に女性の方が多いです。しかし、実際に何かの方向を示す課題をさせても、はっきりした男女差は出ていません。女性は方向感覚の自己評価は男性より低いものの、実際の方向感覚には差がないと考えられます。また、広い意味での方向感覚、すなわち目的地にちゃんと行けるかどうかについても、心理学研究が行われており、男女に明確な差があるという結論は出ていません」

方向音痴の克服方法は?

Q.方向音痴を克服することはできますか。

村越さん「方向音痴は、病気やケガのように手術や薬を使って一発で治るというものではありません。方向音痴は固定した感覚の問題ではなく、『方向感覚を生み出すために必要な行為を怠りなく行うかどうか』の問題と言えるからです。

方向感覚の克服はダイエットに似ています。やせるためには、適度な食事制限や運動で摂取と消費のエネルギーバランスを整えればよいわけですが、なかなかダイエットに成功しないのは、それを継続することができないからです。これは方向音痴にも共通しています。方向感覚を生み出すためのポイントを知って、それを継続して行うことができれば、改善が期待できるでしょう」

Q.方向感覚生み出すためのポイントとは。

村越さん「ポイントは『曲がり角』と『進行方向の把握』です。曲がり角に何があったか、どちらの方向に曲がったかを覚えるとともに、出発点と目的地の方向がどちらにあるか常に意識することで、方向を把握しやすくなります。その際は『ランドマーク』を目印にするといいでしょう。役立つランドマークは『目立つもの』『たくさんありすぎないもの』『他と区別が容易なもの』です」

Q.他に方向音痴を改善するコツはありますか。

村越さん「遠くに見える山や高層ビルなどを意識することでも、方向音痴が改善されます。方向感覚の良い人と一緒に歩いて、その人がどのような目印に注目するかを参考にするのもよいでしょう。迷わず目的地に着けばよいわけですから、地図やコンパスを日常的に利用し、使い慣れておくことも有効です。たとえ方向感覚が悪くてもそれを補って不自由なく活動できます」