岡山県美作市産の鹿肉を楽しむ来店客(東京都渋谷区で)

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 ジビエ(野生鳥獣の肉)の流通拡大に、産地と飲食店を結ぶジビエ専門卸が存在感を増している。都市部への営業に不慣れな狩猟者や処理場の代わりに、都市部の客のニーズを知る卸業者が販路開拓や営業を行い、狩猟の現場には飲食店のシェフや客の要望を伝えジビエ品質向上につなげる。狩猟者や処理場が自ら流通や販売先の飲食店を探すには限界があることから、産地も飲食店も“橋渡し”を担う卸業者に期待をかける。(猪塚麻紀子)

店に営業活動など 客の要望伝達


 東京都渋谷区の「肉ビストロTEPPEN(テッペン)」。鹿のモモの希少部位「シキンボ」や国産ダチョウ肉などがメニューに並び、店内はにぎわう。初めて同店を訪れたという舘雅洋さん(38)と西原小晴さん(38)は、「シキンボ」を焼いたグリルに「今まで食べた鹿の中で一番柔らかい」と笑顔を見せた。

 岡山県美作市にある処理施設「地美恵(じびえ)の郷みまさか」から調達。同店の安部舞子料理長は「歩留まりもよく扱いやすい。品質に自信を持って提供できる」と評価する。鹿肉にはマーマレードを添えて苦手な人にも食べやすく工夫し、ジビエのファンづくりにつなげている。

 処理施設と同店を“橋渡し”したのは茨城県筑西市の希少肉専門卸「Noblesse Oblige(ノブレスオブリージュ)」だ。同社は全国の10〜20のジビエ処理施設と取引し、ジビエの販路開拓や飲食店への営業を行う。東京のフランス、イタリア料理店や若者に人気の居酒屋などからの「半身やロースが欲しい」といった細かいニーズや客層に応じて、産地とマッチングする。加藤瑛莉加社長は「ジビエを扱う飲食店は増えており、求められる品質は高い。取り扱う際に重視するのは処理の良しあしなどの品質や、産地のストーリー。産地と飲食店の仲介役となり、一緒に良いジビエを届けたい」と強調する。

 「地美恵の郷みまさか」は年間約1000頭の鹿、約180頭のイノシシを処理する。販売先は6割が東京、大阪の大都市圏だ。ジビエ専門卸の存在で、都市部への営業や販売先からの代金回収の負担が減らせることに加え「カットの仕方や人気の部位など都会の客のニーズが分かる」(美作市森林政策課)と歓迎する。

 愛媛県今治市の大三島のかんきつ農家や猟友会会員でつくる「しまなみイノシシ活用隊」も、同社と取引する。全国のイノシシ肉産地が集う「日本猪祭り」で、2017年にグランプリを受賞するなど品質には定評があるが、渡邉秀典代表は「解体技術と営業の能力は別物。地域の鳥獣害解決へ捕獲獣の受け入れを増やしていくには、役割分担が重要だ」と話す。

花き業者がネットでも


 インターネット上でのジビエ市場も活況だ。ワールドフラワーサービス(東京都八王子市)が運営する「ジビエマルシェ」は、28の処理施設と約30人の狩猟者を、飲食店約600店舗とつなぐ。飲食店が欲しい肉の部位、量を注文すると産地から届く仕組み。産地の捕獲情報をメールで配信し、買い手を募ることもできる。

 同社は花きの卸販売が本業。花き産地を訪問するうちに、地方での鳥獣被害を目にしたことがサイト開設のきっかけになった。高橋潔社長は「価格を抑えて流通させている。取引量は増えている」と意欲的だ。

業界や分野超え連携を


 農水省の食肉処理施設を対象にした調査によると、ジビエの供給・販売での課題は「売れない部位の販売」が最も多く「狩猟期以外の消費が少ない」「販売先が分からない」などが挙がる。「営業の人材不足」などの課題も浮き上がる。

 狩猟者が捕獲から販売までを担う体制では流通拡大に限界があることから、同省は「捕獲から搬送・処理加工がしっかりとつながり、ビジネスとして持続できる安全で良質なジビエの提供を実現することが重要だ」として、業界や分野を超えた連携を推進する。