昨年末から金価格が急上昇している(撮影:尾形文繁)

金価格が大幅に上昇している。

2017年の金相場は10月から12月にかけて下落を続けていたが、12月12〜13日のFOMC(米国連邦公開市場委員会)以降上昇を始め、今年1月4日には10連騰を記録。その後も上昇基調を維持し、23日のNY金先物は1オンス1336.7ドルをつけ、4カ月ぶりの高値圏を維持している。

もともと近年、金は年末に上昇する傾向があった。12月のFOMCで利上げが決まり、悪材料が出尽くす形となるためだ。今回はそこにドル安も重なったことで、急激な上昇になっている。

ドル安とバブル警戒で資金流入

FRB(米国連邦準備制度理事会)のパウエル次期議長(2月就任予定)はイエレン議長の方針を継続し、利上げは緩やかになるという見方が広まっている。一方で欧州では、好調な経済を背景に緩和縮小の早期化が期待されユーロ高が進行。日本でも日本銀行の国債買い入れオペ(公開市場操作)減額以後、緩和微調整の予測が後を絶たず、黒田総裁が出口観測を強く否定した1月23日の会見後も円高が進んでいる。

加えて、中国の米国債投資削減の報道や、米国では暫定予算の期限切れから政府機関が一時的に閉鎖されたことを受け、ドル売りが進行している。こうした状況からドル相場は低迷しており、代替通貨としての金に投資が集まっている。

今回の金価格上昇で特に注目すべきは、株も金も上昇しているという点だ。本来、安全資産である金は、株価の上昇局面では売られ、株が下落する際に買われる。株も金も高くなっている理由について、住友商事グローバルリサーチの鈴木直美シニアアナリストは「市場が漠然とした不安を抱え、金が買われている」と説明する。

現在の市場では、各国の大規模な金融緩和からカネ余りが継続している。2017年に株価が史上最高値を更新した国は30カ国以上にものぼった。株以外にも原油や非鉄金属をはじめ、コモディティ価格全般が上昇。あらゆるところにバブルの懸念が潜んでいる。

加えて、北朝鮮の核ミサイル問題、イランの反政府デモ、欧州の極右政党台頭など地政学的リスクも後を絶たない。

個別資産のバブルを意識するのであれば、それぞれの資産特性に応じてリスクヘッジすることができるが、現在はどこにバブルが潜んでいるかわからないという漠然とした不安が市場に溢れている。その警戒感が、安全資産としての金の需要を下支えしているという。

とはいえ、株と金が同時に上昇している状況が長続きするとは考えにくい。株か金の相場のどちらかが先行きを見誤っている可能性がある。豊島&アソシエイツの豊島逸夫代表は、「ここまでの金の上昇ペースは速すぎる。金価格は1〜3月がピークで今後下落するだろう」と見る。

米国の長期金利は足元で2.6%程度あり、インフレ率が2%に到達したとしても、実質金利はプラスだ。過去金価格が上昇している時には、実質金利がマイナス圏に沈んでいたことが多く、利上げは金価格の重石になる。現在の金価格上昇の潮目が変わるとすれば、3月のFOMCで利上げがあるかどうかがポイントとなるだろう。

一方で、先に挙げたような不安が払拭されないのも事実だ。なんらかの資産でバブルが崩壊したり、中東情勢に異変があれば、金の買い材料になる可能性もあり、注視が必要だ。

直近で、大きな価格変動により金価格に影響を与えたのは仮想通貨のビットコインだ。金とビットコインは通貨の代替として類似した性質を持つといわれ、注目されている。

ビットコインは金のライバル?

豊島氏によれば、「ビットコインが金のシェアを奪っているのは事実」だという。金先物やFX(外国為替証拠金取引)の投資家が、ビットコイン投資へ移行するケースも多くなってきている。


金とビットコインの値動きを比較すると、基本的には逆相関の関係になっている。しかし、年末年始には連動して動いていたことが見て取れる。この期間は、ほかの通貨に対する代替資産として金とビットコインが同じ働きをしていた可能性がある。1月中旬にかけてビットコインが暴落し、資金は金へと回帰している。

現状、ビットコインの価格変動は大きく、リスク選好の強い人向けの資産であり、金の優位性はある程度保たれているといえるだろう。

しかし、ビットコインの登場で投資家が金とは異なる通貨代替手段を持つことができるようになったのは事実だ。金とビットコインは同様に通貨の代替としての機能を持ちうるが、金は価値の保存に優れ、ビットコインは価値の交換手段としてより優れている。

今後、ビットコインをめぐる環境整備が進み、価格の乱高下が落ち着いたり、決済手段としての活用が広がったりすれば、金にとっては手強いライバルになる可能性がある。