儲けの源泉は意外なところにもあるものです(写真:runin / PIXTA)

世の中には、数多くの仕事(ビジネス)が存在します。なぜそれが成り立っているのかといえば……答えは単純明快、「利益を出し続けている」からでしょう。
逆に言えば、どんなに時間や手間をかけてもまったく利益を出せなければ、それはビジネスとしては「失敗」だということになります。
最近、現場のビジネスパーソンと話していると、この「利益を生み出すという思考」、言い換えれば「儲けるセンス」が鈍くなっていることをひしひしと感じます。
利益構造を理解するという視点は、何も経営者や幹部だけが持っていればいいというわけではありません。むしろ現場で働く人たちにこそ求められる能力でもあります。
「利益を生み出す」とはどういうことなのか。拙著『先輩、これからボクたちは、どうやって儲けていけばいいんですか?』でも紹介している、とあるベンチャー企業の新入社員マサキと、先輩社員ケイコの対話から読み解いていきます。

100円ショップの儲け方のロジックとは?

ケイコ:あなた、100円ショップはよく利用する?

マサキ:いわゆる「ヒャッキン」ですね。おカネがないから常連ですよ。会社で必要なものも、よく買います。文房具も充実しているんですよ。

ケイコ:一口に100円ショップといっても、いろいろな会社があるわ。有名なところだと、ダイソー、キャンドゥ、セリア……。女性にターゲットを絞ったところや、デザインを重視したところなど、バリエーションもたくさん出てきた。300円均一ってお店もあるわね。

マサキ100円ショップも進化しているんですね。でも、それと儲け方とどんな関係があるんですか?

ケイコ:鈍いわね。普通は原価に合わせて利益を乗せるから商品ごとに価格が変動するけど、均一ショップの場合は、全部同じ価格で販売するという意思決定から始まっているの。だとしたら……どうなる?

マサキ:どうなる……??? あッ、わかりました! 利益率が商品によって違うってことですね。

ケイコ:そうよ。販売価格が同じということは、商品による原価のバラツキがハッキリするの。あなたが言うように、商品によって利益率がまったく違っているのよ。

マサキ:「こんなものまで100円で売ってるの!? 」ってくらいお得な商品もあります。「原価オーバーじゃ……」って感じることもありますよ。

ケイコ:実際には、原価が販売価格を上回るものもある。原価率110%なんて商品もあるのよ。だから、ここは原価率で考えたほうがいいわね。

マサキ:価格より原価のほうが高いってこともあるんですか……。

ケイコ:だけどね、販売した商品の利益率がトータルで30%になるように設計されているの。要するに、全体でどこまでの原価率を認めるか。その許容範囲を経営サイドがあらかじめ決めている、ということなの。


値打ち商品が、客の来店動機になる

マサキ:ボクだったら、全部の商品でガッツリ儲けるようにしますよ。

ケイコ:消費者はバカじゃないわ。100円相当の商品ばかりだったら、お店がつまらなくなると思わない? 原価オーバーの商品があるからこそメディアが注目する。そして、「こんなものまで売っている!」という、いいうわさが流れる。それがお客様の注目を集めて、来店の動機にもなっているの。

マサキ:「こんなものまで!」というお値打ち品があると、もっとあるんじゃないかと、ついつい探しちゃいますもんね。

ケイコ:ポイントは、儲けない商品を使ってどう儲けるかってことよ。

マサキ:原価オーバーの商品、つまり儲けない商品は、広告を打つのと同じってことですか?

ケイコ:ようやくエンジンがかかってきたじゃない。

マサキ:何言ってるんですか! ボクのエンジンはつねに絶好調ですよ。

ケイコ:ごめん、言っている意味がわからないからスルーしておくわ。

今、増えている均一価格の焼鳥屋さんもそう。同じように原価が異なるから、利益率は一定じゃない。でも、原価率の高い商品だとわかっても、そればかり食べないでしょ? 逆に原価率の低い商品がわかったとしても、欲しければ食べるんじゃない? そういう原理を基に、利益をつくり出しているの。わかる?

マサキ:わかると言えばわかるし、わからないと言えばわかりません。

ケイコ:ああ、もう! イラッとする。お客様1人当たりが購入した履歴……わかりやすく言えばレシートね。レシートごとにコストと売り上げを計算して、必要なだけの利益を確保できていればそれでいい。そういう発想よ。特に、成長した外食産業や、小売業では、こう考える傾向にあるわ。

マサキなるほど。ボクがレジで支払う金額は、ボクにかかったコストと比べて割に合っていればいいと……。

ケイコ:そう。だから、単品で見るんじゃなくて、商品群で見るの。お客様に2品、3品と選んでもらえるようにして、最終的に利益を確保していくのよ。

もつ鍋屋は“シメ”に勝負をかける

ケイコ:じゃあ、もつ鍋屋さんが何で儲けているか考えたことある?

マサキ:何ですか、唐突に。「もつ鍋」屋さんなんだから、もつ鍋で儲けてるに決まってるじゃないですか!

ケイコ:あなた、やっぱりその程度のオツムなのね。

マサキ:え? 違うんですか?

ケイコ:じゃあ、あなたが行くもつ鍋屋さん、1人前いくら?

マサキ:確か790円です。おいしくて満足感があって、野菜もたっぷり入っていて……。なのに、メチャクチャ安いから、ついつい通っちゃうんですよ。

ケイコ:じゃあ、そのうち原価がどれくらいかわかる?

マサキ:原価って……。そんなこと、考えたこともなかったな。

ケイコ:もつに、キャベツに、玉ねぎ、厚揚げでしょう? 具材の分量にもよるけど……ざっと320円ってとこかしら。

マサキ:おぉ、結構儲かりますね。粗利で470円も!

ケイコ:結構、儲かる? 原価でおよそ40%(=320÷790)。それって、かなりギリギリよ。

マサキ:どうして? だって「儲かってる」じゃないですか!?

ケイコ:もつ鍋屋さんだって商売でしょ? そこから家賃とか、人件費とか支払うのよ。とてもじゃないけど、その数字じゃ割に合わないわ。せめて原価は30%くらいに抑えないと。


マサキ:そうか。厨房の中に人がいるし、ホールにもたくさんバイトさんがいるもんな。

ケイコ:じゃあ、どこで儲けていると思う? 質問を変えると、どこがいちばん利益を取れそう?

マサキ:わかった! ビールですか?

ケイコ:確かに、外食産業は飲み物で儲けるという鉄則があるけれど、お鍋だったら、それよりももっといい方法がある。あなた、もつ鍋を食べたらそれで終わり?

マサキ:何言ってるんですか、先輩。もつ鍋は、最後の雑炊がうまいんじゃないですか。ボクがよく行くもつ鍋屋さんは、鍋の後のスープを使って、最後に「チーズリゾット雑炊」が食べられるというオプションがあるんですよ。500円でこの雑炊セットが食べられるんです。雑炊を食べるために、もつ鍋を食べるんだから、もつ鍋は前菜みたいなもんです。

ケイコ:それよ!

マサキ:え!? 先輩、マジですか!?

ケイコ:マジよ! 

マサキ:いや、「マジ」って……。

ケイコ:あなたは、1杯分の冷やごはんと生卵に500円も払っているのよ。原価なら30円くらいね。チーズが20円だとしても、せいぜい50円。そのお店は、もつ鍋を食べてもらうために、とにかく値段を安くする。そして、もっともっとおいしい雑炊を提案する。お客さんは、別に雑炊を食べなくてもいいんだけど、なぜか自分で食べるように選択してしまう。
その結果、どうなるか?


儲け方には美学がある


ケイコ:もつ鍋だけなら原価率は40%強。でも、雑炊まで食べてくれたら、原価率はグンと下がる。これで、外食産業でやっていけるレベルにまで到達できるの。

マサキ:そうか! 自分が喜んで選んでいるんだから、文句もないですね。

ケイコ:上手にやる人はそこがスゴいの。原価を30%に抑えたいからといって、もつ鍋を1070円にして、シメの雑炊を170円で販売してたんじゃ、あまりに芸がなさすぎるわ。

それより、価格にメリハリをつけて、もつ鍋からは儲けないと決める。その代わり徹底的に作り込んだ雑炊で、きっちり特別感を感じてもらうわけ。そのほうが、どれだけあか抜けていることか。

ケイコ先輩が指摘したように、儲け方には、ある種の「美学」があるのです。有無を言わさず「買わせる」のではなく、顧客に「買いたい」と思わせる――。ものが売れない時代で成果を出さなければならないビジネスパーソンにとって、この発想ができるかどうかが、重要です。