日本とは異なる環境に身を置くことで、気づかされる部分は少なくない。寄せのスピードや球際の激しさ、受け手のどちらの足にパスをつけるかなど、日本でも当たり前のように指導されていることを、シティでの練習を通じて改めて再確認できる。そしてサッカーに打ち込む姿勢も変わってくる。
 
「普段から僕らも言っていますし、トップチームの練習にも参加させてはいますが、実際にヨーロッパという舞台で実体験を積むことで、それが自分の中でちゃんと咀嚼されて、『こういうことなんだ』と身に染みて分かるようになる」
 
 こうした意識改革も短期研修の成果だと、横浜の育成ダイレクターである小池直文氏は話す。帰国後の選手たちは「目の色が変わっている」とその変化に驚くという。
 
 貴重な体験を積んだ若い才能のさらなる成長を楽しみに待つ小池氏に、あるユースの選手が「来年もシティへの研修はあるんですか? 自分も絶対に行きたいんです」と切望してきたという。
 
 こうした前向きな要望を嬉しく思う一方で、選手の派遣に関して、小池氏が重視するのは、ウィルコックスと同様、「競争」だった。
 
「チームとして海外遠征に行くのもひとつの方法ですが、競争意識を促すために、高校生ぐらいは個人にアプローチするようにしています。
 
 研修を終えた選手を見て、他の子たちが“自分も負けないように”となる。そうやって切磋琢磨していければ。
 
 シティへの研修は、夏に高校2年生を行かせるようにしているんですが、ユースの子の進路が決まるのが、だいたい高3の夏頃ですよね。海外に行って、それからの1年でどう自分を磨いていくか。プロになるための“覚悟”も見るべきポイントです」(小池氏)
 
 育成組織から多くのプロを輩出してきた横浜だが、「それなりに実績を残していると思いますが、まだまだ先頭を走る気でやらないと。1ミリでも先を行きたい」(小池氏)と、現状に甘んじるつもりはない。
 
「選手を評価するにしても、シティはその項目が僕らより細かく作られているから、そこは参考にできるかもしれない。施設は、あるにこしたことはないけど、なければいくらでも工夫はできる。向こうに派遣するだけでなく、シティ側から選手を招いてもいいはず。やらなければいけないことは、たくさんありますね」(小池氏)
 
 シティが持つノウハウを貪欲に吸収しようとするフロント陣は、夢を膨らませる育成組織の選手たちの期待に必死に応えようとしている。
 
 棚橋は「F・マリノスがシティと提携を結んだ時は、嬉しかった。海外移籍につながるかもしれないし、今回も練習参加できて本当に良かった」と喜べば、椿も「シティに行かせてもらって、今まで味わったことのない練習の雰囲気や選手のフィーリングを感じられて、全部が良い経験になりました」と振り返る。
 
 欧州のビッグクラブと強力なタッグを組む横浜は、そのパイプを生かしたグローバルな補強策はもちろん、これまで通り育成に力を入れるクラブとして、たゆまぬ努力を続けていく所存だ。
 
取材・文:広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)