「自動車に住む」ことを選ぶ若者がアメリカでは増えつつある
アメリカの住宅は、庭付きで日本とは比べものにならないほどゆとりのあるスペースを持っているというのが一般的な認識です。しかし、アメリカでは近年、自動車や狭小アパートに住むという人が若者を中心に増えているそうです。
Why it's becoming cool to live in your car - or a 150-sq. ft. apartment - CSMonitor.com
https://www.csmonitor.com/USA/Society/2017/0821/Why-it-s-becoming-cool-to-live-in-your-car-or-a-150-sq.-ft.-apartment
シアトルの郊外に「住む」28歳の女性ショーナ・ネルソンさんは、SUVタイプのフォード・エクスプローラーを根城にしています。後部座席は取り払われて、動物柄のブランケット付きのベッドを備えており、寝転んだ状態で本を読むためのランプもあります。ネルソンさんは、駐車違反のキップを切られたりレッカー移動されたりしないと確信すると、眠りにつくとのこと。1年前から自動車で寝泊まりを始めたネルソンさんは、「おそらくワクワクすることのないアパート暮らしのために月に1200ドル(約13万円)を費やすべきか、それとも旅行に1200ドルを費やすべきでしょうか?」と話しています。
ネルソンさんのような車中泊の生活を選ぶホームレスの急増は、アメリカ各地で起こる住宅価格の高騰という住宅問題だけでなく、必要な物を最小限まで切り詰めるミニマリズムという価値観の台頭が原因だとのこと。このため、一般的な低所得者が余儀なくされるホームレス状態ではなく、中産階級で新しい居住形態として現れているのが特徴です。
調査によると、18歳から35歳の世代は、それ以前の世代よりも賃貸住宅に住み続ける傾向にあることがわかっています。2016年に18歳から35歳だった人の74%が賃貸住宅に住んでおり、これは2000年にジェネレーションX世代が賃貸住宅に住んでいた割合の62%を上回っているとのこと。若者の生活様式の変化は住宅だけにとどまらず、食事・旅行・レクリエーションへの消費は20%を上回り、生活消費財や自動車への支出が10%を切っているのと対照的です。
南カリフォルニア大学で建築を教えるソフィア・ボルゲス氏は、「景気後退が多くの人のライフスタイルを変えたと思います」と述べています。リーマンショック以前にはマーケティングマネージャーとして年俸8万ドル(約880万円)以上だったキム・ヘンダーソンさんは不況によって生活を大きく変えた一人です。「2008年以前のような仕事は決して見つかりませんでした。そのような仕事は若い人にいってしまいました」と述べるヘンダーソンさんは、現在はバーの管理者として年間3万7000ドル(約410万円)を稼いでおりロサンゼルスの中心部にある非常に小さなレンタルアパートに住んでいるとのこと。キングサイズのベッド4台分のせまい部屋に住むヘンダーソンさんは、ロサンゼルスの平均家賃が1500ドル(約16万5000円)なのに対して電気代を含めて685ドル(約7万5000円)ですむため、ときどき旅行できるだけの可処分所得があるそうです。
「モノ消費からコト消費へ」という一連のトレンドの中で、人生の中で大きなコストを占める住宅の費用を減らして、他の自分に必要なものに充てるというライフスタイルの変化が、自動車に住む人や狭いアパートに住む人を増やしていると言えそうです。とはいえ、自動車に住むという生活では、トイレや風呂の調達に苦労が絶えません。「マイクロアパートメント」と呼ばれるわずか数平方メートルの住居も登場していますが、建築関連法規上の問題で、今後主流となる可能性はそれほど高くないそうです。
若い世代を中心とする価値観の変化に基づくライフスタイルの変化は、テクノロジーの変化が下支えしているという事情があると指摘する専門家もいます。仮に自動運転カーが実用化されれば、通勤スタイルを大きく変えると予想されていますが、「移動体に住む」という生活様式が登場する可能性もありそうです。