「クラブはちゃんと私を外国人選手として見てくれていますし、住居や車も用意してくれています。正直給与面は日本でもらっていたよりも低いですが、生活には困っていないです。まぁ問題はそこではなかったので」
 
―――ではタイならではの“おもしろ話”を幾つか聞かせていただけませんか?
 
「ウチは名前の通り、タイ空軍が持つクラブなんです。ホームグラウンドは軍兵が絶えず使うのでボッコボコですよ。それもあってか時々、別の空軍施設で練習することもあるんですが、ゲートチェックにパスポート持参で行ったりね。またクラブハウスは愚か、個人ロッカーすらありません。あとはアウェー戦へ空軍機で移動することもありました。機内は縦に横並びに座る席配列、座りきれないスタッフが床に雑魚寝していたり。アウェー相手の知人選手へ『飛行機移動だよ』と伝えると『ウチの街には空港ないですよ』と。スタッフに聞いたら空軍基地があるから問題ないって笑って言われました。他にも話は尽きないですよ(笑)」
―――ずっと楽しそうに話してくださっていますが、初めての海外生活、プライベートも含め、何かと苦労もあるのかと。
 
「うーん、私はそこまでないですね。妻の方が大変ですからね。実は最近、妻が病気で日本へ帰国したんです。検査したら悪性リンパ腫だと分かって。色々と考えると日本で治療した方が良いなと。子どもたちとも離れ離れになっていますし、辛いと思います」
 
―――そんなこととは知らずに、大変失礼しました。
 
「いやいや、我が家は皆で前向きですから! 妻はこっちでの生活を滅茶苦茶楽しんでいたんです。なので『早く治してバンコクへ行くからー!』と言っています。妻も日本で頑張っているので、戻って来るまでは娘と息子とこっちで力を合わせて頑張りますよ!」
 
―――親父の頑張りどころですね。
 
「そうなんです。実は私以上に妻がタイトルを欲していて。実は今までタイトルと縁がないんです。ナビスコカップは決勝で負けているし、天皇杯も散々で、メンバーインした試合は全部決勝で負けていて。ガンバが優勝した時は、決勝は出場停止で出られず、清水が優勝した時も、帯同していたのに当日ひとりだけベンチを外れたりとまったくで……。ゼロックススーパーカップでも何度も負けたし、国立で何回負けてるんでしょうね(苦笑)。自分が試合に出て掴んだタイトルって本当にないんですよ。妻は私に言わないですけど、それもすべて分かっていると思います。いまタイトルに手が届く位置に居るし、何が何でも獲りたいんです」
 
―――残り9試合、まさに“必勝態勢”ですね。
 
「本当に。そしたらこの前、ケインが話してくれたんです。『リーグ優勝して、ふたりでカップを掲げた写真を撮って、奥さんに送ろう』って。嬉しいですよね」
 
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 実はインタビューを打診した際に「娘も一緒に行って良いでしょうか? 迷惑は掛けないので」と言われていた。当日、話を聞いてすべてが繋がった。余談なのだが、パパに寄り添い付いて来た娘さんは、スラっとしたモデル体型、また英語が堪能な才女ときた。実に将来が楽しみである。
 
 家族と選んだ海外挑戦、相当な覚悟のもと楽しんでいた。また腰が低く、相手への気配りも半端ない。そして彼が度々口にした『本当にツイている』と話す度に思ったこと、それは決して偶然ではない、日頃の積み重ねから形成された“必然”なのだと。周りが応援したくなる訳である。
 
 最後までタイトル争いがもつれそうなタイ2部リーグ、エアフォースは最終戦を10月21日、カンボジア国境に程近い街“トラート”で戦う。カップを掲げ喜ぶ漢の雄姿を写真に収めたいと心の底から思い、どうにかならないものかと自らの手帳を睨んでみた。
 
■プロフィール
高木和道(たかぎ・かずみち)
1980年生まれ、滋賀県野洲市出身。元日本代表。県下の名門校・草津東高で活躍し、京都産業大へ進学するが、練習参加した清水エスパルスからのオファーを受け中退、プロの世界へと足を踏み入れた。その後、ヴィッセル神戸、ガンバ大阪、大分トリニータ、FC岐阜、ジュビロ磐田を渡り歩き、2017年にタイのエアフォース・セントラルFCへ移籍。クラブ4年ぶりのトップリーグ昇格を目指し奮闘中。
 
取材・文:佐々木裕介