金正恩氏

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北朝鮮のある保安員(警察官)が悪行三昧を繰り返しているという。麻薬密売人とグルになって私腹を肥やすだけでなく、その密売人の骨の髄までしゃぶりつくす悪徳保安員がのさばっているというのだ。

毎日のように性上納

北朝鮮には、人民保安省(警察庁)と秘密警察である国家保衛省という二大治安機関が存在する。いずれも金正恩独裁政権を支える要の機関だ。

保衛省は、秘密警察として国民の一挙手一投足を監視し、体制不安の芽を徹底的につぶす。一方、貧乏国家・北朝鮮の一部署であることから、予算は少ない。そればかりか、逆に国家に上納金を納める義務も負っている。

その上納金は、拷問で顔面を串刺しするほどの比類なき暴力性で、北朝鮮の富裕層や一般庶民、そして、裏表問わず、商売人から収奪する。

そして、泣く子も黙る保衛省に負けず劣らず、悪行三昧を繰り返す悪徳保安員がいるとデイリーNKの内部情報筋が伝えてきた。

両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)在住のチェ某氏は、両江道保安局(県警本部に相当)予審課指導員で中佐であるパク・チョルグァンの悪行ぶりを伝える。

パクは、主に覚せい剤の密売人のケツ持ちをする代価として、巨額のワイロを受け取っている。90年代後半の大飢饉「苦難の行軍」の頃、覚せい剤が儲かることを知った彼は、密売人と中毒者を探し出してそのケツ持ちで儲けるようになったのだ。

北朝鮮当局は、表向きは覚せい剤を厳しく取り締まっている。しかし、苦難の行軍の時代、北朝鮮では大量の餓死者が発生し、深刻な経済難と社会不安をもたらした。そのせいか、住民の間で覚せい剤が蔓延するようになった。経済難を背景に、生き残るために売春に身を投じる女性も増えたが、彼女たちの間でも覚せい剤がまん延しているという。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

パクは、覚せい剤の密売、密輸に目をつぶり、その代価として巨額のワイロを受け取っていたのだ。あざといパクは今年1月、市内の恵江洞(ヘガンドン)に住む40代のリ某という男性が、中国商人との覚せい剤の取引で大儲けしていることを知った。そこで早速、家を訪ね「密輸と密売が重い罪だということを知らないのか、死ぬまで監獄にいるつもりか」などと脅迫した。

ところが、リ某には脅迫も懐柔も通じなかった。そこでパクは次の作戦に出た。

まず、懐柔を試みたことがバレないように、わざと15日間泳がせた上でリ某を逮捕。そして、椅子を投げつけるなどの拷問を執拗に繰り返した。それは、リ某が覚せい剤の出処を吐くまで続いた。

リ某は、パクの拷問で肋骨4本を折られ、頭部に2ヶ所の裂傷を負わされた。恐怖のあまり、中国商人に売り渡すつもりだった覚せい剤500グラムをパクに渡した。その後の処遇はわかっていないが、釈放されて、パクにワイロを渡す代わりに密売を続けていることは想像に難くない。

パクは押収した覚せい剤から100グラムを抜き取り、知人に売り払って、儲けを懐に入れた。北朝鮮での覚せい剤の末端価格を考えると、その額は1万元から1万7000元(約16万5000円〜28万円)になるものと思われるが、パクの悪事はこれだけにとどまらない。

市内の恵炭洞(ヘタンドン)に住む20代と30代女性は、恵山と咸興(ハムン)の間で覚せい剤の運び屋をしていた。それが、パクの張り巡らせておいたネットワークにひっかかり、逮捕された。

パクは取調室で2人の女性に対して性的暴行に及ぼうとした。女性が抵抗するや、髪を掴み、腹部を足で蹴るなどの暴行を加えた。そして、「最初からおとなしくしておけば、こんな目に遭わずに釈放されただろうに」などと暴言を吐き、連日性的暴行を加えた。

2人は、1ヶ月にも及んだ取り調べを経て、労働鍛錬刑2ヶ月の処分を受けた。非常に軽い処分だが、それすらもわずか1週間で終わり、釈放となった。パクの口利きがあったからだ。それ以降、パクはケツ持ちの代価として、毎夜のように2人の家に入り浸り、性上納(性的接待)を受けているという。

国連の人権理事会は、北朝鮮の深刻な人権侵害の例として、軍隊が女性に対する人権侵害の温床になっていることを問題しているが、パクの場合は、軍隊以上かもしれない。

悪行三昧を繰り返すパクだが、上役にワイロを渡すなどして買収し、何重にも安全網を張っているせいか、問題にはなっていないという。自由と民意が存在せず、閉鎖された独裁体制だからこそ腐敗が生まれ、こうした抜け目のない本物のワルが出てくるのだ。