小越勇輝「演じているときこそ“生きてる”と実感する」――舞台版ドラえもん『のび太とアニマル惑星(プラネット)』
至近距離で向き合っても、この男が、野比のび太を演じる姿が正直、想像できない。いや、既に舞台版ドラえもん『のび太とアニマル惑星』のビジュアルは発表されているのだが…。ミュージカル『テニスの王子様』、『弱虫ペダル』などの舞台で主演を務めてきたのは、本当に小越勇輝なのか? というか、目の前にいるのは果たして本物の小越勇輝なのか…? そんなことを考えてしまうくらい、舞台上で見せる姿とは別人のよう。のび太とは程遠い、退廃的なロックンローラーのような空気を感じさせる(しかもメチャクチャカッコいい!)。「舞台の上でこそ“生きてる”って実感できるんです」――。いったい何が彼を舞台上で輝かせるのか?
撮影/倉橋マキ 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
ヘアメイク/佐藤美紗(coo et fuu)
――おそらく、日本で最も多くの人に知られている作品、そしてキャラクターのひとつである『ドラえもん』の舞台化です。9年前の初演に続き、ドラえもんやのび太たちが、動物たちが暮らすアニマル惑星を守るために大冒険を繰り広げます。
最初にお話をいただいたときは驚きでした。まず「え? 『ドラえもん』を舞台にするんだ!?」と。2.5次元と言われるジャンルで、次々と漫画、アニメ、ゲームが舞台化されてきましたが、その中でも『ドラえもん』をやるのか! と。楽しみであると同時に、これだけ誰もが知ってる作品なので、いままでとは違うプレッシャーも感じますね。
――9年前の初演のことはご存知でしたか?
当時、見てはいなかったんですけど、今回再演と聞いて「あぁ、そういえばポスターを見たな」って思い出しました。
――小越さんが演じるのは、これまた誰もが名前を聞けばその姿が思い浮かぶ、“あの”のび太です。ご自身で、のび太と似ていると感じるところはありますか?
周りの人間、たとえば母親にも「普段の勇輝と似てるね」と言われたんですよ。仕事の現場にいるときと、オフのときでは、自分でも気づかないまま、まったく別人になっているみたいなんですけど、その素の部分が意外と近いみたいです(笑)。
――具体的にはどんな部分が?
ダラっとしてる感じというか、力が抜けてるところですかね? 僕も基本、ずっと寝ていたい、起きたくない人なので(笑)。このあいだ、稽古場に初めて入ったとき、演出の鴻上尚史さんにも「なんか、気合い入ってない? このあいだ会ったときのほうが似てたな…」って言われました(笑)。自分では全然、普通のつもりだったんですけど…。
――意識していないオフのときの状態を舞台上で再現するって、実は難しそうですね。
ホントにそうなんです。“抜く”ってすごく難しいんです。もちろん、突き抜けた“カッコいい”とか“カワイイ”役もすごく考えて作ってますけど、それとはまた違った難しさがあります。
――なるほど。
何かが突き抜けているわけではなく、それでも誰もが共感したり、「助けたい」とか「頑張れ」って思ってしまう。味方がたくさんいるんですよ。そんなのび太として、舞台上でどうやって生きられるか? 試行錯誤してます。
――これまでもミュージカル『テニスの王子様』、舞台『東京喰種トーキョーグール』、『弱虫ペダル』などの作品で、主演を務めてきましたが、一番大きな違いは?
「カッコよくやらず」「懸命に動きすぎず」ということですかね? カッコよくやっているつもりはないんですけど…(苦笑)。普段から動きを覚えるのが遅いし、とにかくやらなきゃというのもあったんですが、鴻上さんから「ちょっと動きすぎ。カッコいいな」と。鴻上さんも、そんなダメ出しは初めてだったらしいです…。
――『東京喰種』の金木 研や『弱虫ペダル』の小野田坂道は一見、弱そうですが、ある時点で“ギアチェンジ”があり、正統派の主人公らしい、能動的な強さを発揮します。のび太も普段はダメだけど、ここ一番で勇気と優しさをもって戦うという意味では、重なるかもしれませんね。
共通するのはまっすぐさやピュアさ。純粋ゆえの“熱”は、確実に見ている人に届く。そこは作るんじゃなくて、本気だからこそグッとくる部分だと思う。言葉や行動、仲間との絆――わき上がるものを大事にしたいし、それが、いまおっしゃった“ギアチェンジ”につながるのかもしれません。
――絆という点では、ドラえもん(声:水田わさび)、のび太、しずかちゃん(樋口日奈<乃木坂46>)、ジャイアン(皇希)、スネ夫(陳内 将)との関係をどう見せるのかは、すごく重要ですね。ほとんどの観客の頭の中に、この5人の“いつもの”関係性が染みついていると言っても過言ではないと思います。
そうなんです(苦笑)。もう『ドラえもん』というものが、みなさんの頭の中に根付いてて、彼らをひと目見ただけで、声や関係性が浮かんでくる。ただ、それを安易に追いかければいいというものではないと思ってます。
――単純に、原作を模倣するのではなく?
最終的にそこに行き着くのはいいけれど、作っていく過程では自分たちが舞台でやる意味、このメンバーだからこその関係性を大事にしたいと思ってます。キャラクターを追いすぎず、離れすぎず、いろいろ挑戦しながら作っていきたいです。
――アニメでもドラえもんの声を担当されている、水田わさびさんの声に合わせて、のび太を演じるのはいかがですか?
直接、お会いしたのは本読みのときだけなんですけど「うわっ、目の前にドラえもんがいる! なんだこれ?」っていう不思議な感覚でした(笑)。稽古が始まって、いまはまだ「俺、ドラえもんと会話してる!」というワクワク感よりは、慣れるのに必死ですね。
――まだ稽古は始まったばかりですが(※取材を行ったのは2月末)、手応えや自信は?
鴻上さんのもとで、まっすぐに進んでいると思うので、心配はしていないです。絶対にいいものができると思う、というか、します! 舞台ならではの「ここ、こう見せるんだ!」という表現もあるし、肉体を使って見せる面白さもある。いい意味で期待を裏切る素敵な作品になると思います。
――ちなみに、小越さん自身は『ドラえもん』を子どもの頃から見てましたか?
ごく当たり前に見てましたね。大人になって、そこまで熱心に見なくなっても、いつでも声や姿が浮かぶし、ふとしたときに「あぁ、タケコプターがあれば…」と思ったり(笑)。
――よく考えると、会話や思考の中に、普通に“タケコプター”といった単語が出てくるってスゴいことですね(笑)。欲しいひみつ道具は?
今も昔も変わらず“どこでもドア”ですね。稽古場からの帰りとか「ドアを開けたら家だったらなぁ…」って思っちゃいます。
――旅行に行ったり、遠くに行くためじゃなく、あくまでも家と稽古場の往復用?(笑)
あ、全然、遠くに行くとかはいいです。何でもないときに使いたいですね。稽古場とか、ちょっと出かけるときとか(笑)。
――正直に言いますと、いま、こうして小越さんと向き合っていて、失礼ながら「本当にこの人がのび太になるの…?」という思いを抱いてます。普段のご自身と、役を演じているときとのギャップは自覚されていますか?
それは感じますね。それこそが役者という仕事の面白さだと思います。普段の自分とはまったく違う人間になれるのが楽しいし、そうやって「違う」と思っていただけると「よしっ!」って。
――仕事ではないときの自分の性格を分析するなら?
なんだろう…? 気分屋ですね。すごくわかりやすく。あとは、めんどくさがり屋だし…って、よくないところばっかり出てくるなぁ(苦笑)。基本、ネガティブなんですよ。
――明るく元気な主人公タイプではない?
仲良くなれば明るいし「ワーッ!」ってはしゃぐこともあるけど、ふとした瞬間に「(相手が自分を)どう思ってるんだろう…?」って考えこんじゃったり(笑)。
――公演のとき以外の仕事の場、たとえば稽古場では? 座長としてカンパニーの中心にいないといけないことが、今回も含めて多々あるかと思いますが…?
基本、みんなを言葉で引っ張ったりするのは苦手です。自分ができもしないのに何かを言うなんて、みんなにどう思われるんだろう…とか、どんどんネガティブに考えちゃうし(苦笑)。
――そんなふうに思う人はおそらくいないでしょうし、それもご自身でわかってるんでしょうけど、ついそうやって悪い方向に…?(苦笑)
そうなんです(笑)。ただ、「俺はできない。だからやらなきゃ! やるしかない!」って気持ちでやっているのを、周りが見てくれて…というのが、自分なりの稽古場でのスタンスなのかなと思います。
――言葉ではなく背中で見せて、みんなをまとめるリーダー?
ただ、今回は自分の中で「何かを変えなきゃ」という思いがあって。稽古初日にスタッフさんも含め、みんなで食事に行く機会があったんですが、そこで自分を少しでも知ってもらおうと、すべてのテーブルに挨拶に回ったんですよ。
――「これからよろしくお願いします」と?
これまでになく、すごく頑張ったんですけど…やっぱり、自分には向いてないなって思い知らされました(苦笑)。そんなふうに行けたのは、その日だけで、翌日からはあいかわらずで…。
――そもそも、そうしてみようと思ったのはなぜなんですか?
なぜというか「何かを変えてみよう」って思ったんですよね、ふと。ちょうどみんなで食事に行くという機会があったのも大きいけど。よく「壁」があるって周りに言われるので、少しでもそれを取り除いて、自分を知ってもらえたらと…。なかなか、難しいですね(苦笑)。
撮影/倉橋マキ 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
ヘアメイク/佐藤美紗(coo et fuu)
日本中の誰もが知る“のび太”を演じる難しさ
――おそらく、日本で最も多くの人に知られている作品、そしてキャラクターのひとつである『ドラえもん』の舞台化です。9年前の初演に続き、ドラえもんやのび太たちが、動物たちが暮らすアニマル惑星を守るために大冒険を繰り広げます。
最初にお話をいただいたときは驚きでした。まず「え? 『ドラえもん』を舞台にするんだ!?」と。2.5次元と言われるジャンルで、次々と漫画、アニメ、ゲームが舞台化されてきましたが、その中でも『ドラえもん』をやるのか! と。楽しみであると同時に、これだけ誰もが知ってる作品なので、いままでとは違うプレッシャーも感じますね。
――9年前の初演のことはご存知でしたか?
当時、見てはいなかったんですけど、今回再演と聞いて「あぁ、そういえばポスターを見たな」って思い出しました。
――小越さんが演じるのは、これまた誰もが名前を聞けばその姿が思い浮かぶ、“あの”のび太です。ご自身で、のび太と似ていると感じるところはありますか?
周りの人間、たとえば母親にも「普段の勇輝と似てるね」と言われたんですよ。仕事の現場にいるときと、オフのときでは、自分でも気づかないまま、まったく別人になっているみたいなんですけど、その素の部分が意外と近いみたいです(笑)。
――具体的にはどんな部分が?
ダラっとしてる感じというか、力が抜けてるところですかね? 僕も基本、ずっと寝ていたい、起きたくない人なので(笑)。このあいだ、稽古場に初めて入ったとき、演出の鴻上尚史さんにも「なんか、気合い入ってない? このあいだ会ったときのほうが似てたな…」って言われました(笑)。自分では全然、普通のつもりだったんですけど…。
――意識していないオフのときの状態を舞台上で再現するって、実は難しそうですね。
ホントにそうなんです。“抜く”ってすごく難しいんです。もちろん、突き抜けた“カッコいい”とか“カワイイ”役もすごく考えて作ってますけど、それとはまた違った難しさがあります。
――なるほど。
何かが突き抜けているわけではなく、それでも誰もが共感したり、「助けたい」とか「頑張れ」って思ってしまう。味方がたくさんいるんですよ。そんなのび太として、舞台上でどうやって生きられるか? 試行錯誤してます。
――これまでもミュージカル『テニスの王子様』、舞台『東京喰種トーキョーグール』、『弱虫ペダル』などの作品で、主演を務めてきましたが、一番大きな違いは?
「カッコよくやらず」「懸命に動きすぎず」ということですかね? カッコよくやっているつもりはないんですけど…(苦笑)。普段から動きを覚えるのが遅いし、とにかくやらなきゃというのもあったんですが、鴻上さんから「ちょっと動きすぎ。カッコいいな」と。鴻上さんも、そんなダメ出しは初めてだったらしいです…。
――『東京喰種』の金木 研や『弱虫ペダル』の小野田坂道は一見、弱そうですが、ある時点で“ギアチェンジ”があり、正統派の主人公らしい、能動的な強さを発揮します。のび太も普段はダメだけど、ここ一番で勇気と優しさをもって戦うという意味では、重なるかもしれませんね。
共通するのはまっすぐさやピュアさ。純粋ゆえの“熱”は、確実に見ている人に届く。そこは作るんじゃなくて、本気だからこそグッとくる部分だと思う。言葉や行動、仲間との絆――わき上がるものを大事にしたいし、それが、いまおっしゃった“ギアチェンジ”につながるのかもしれません。
キャラクターを追いすぎず、挑戦しながら舞台を作りたい
――絆という点では、ドラえもん(声:水田わさび)、のび太、しずかちゃん(樋口日奈<乃木坂46>)、ジャイアン(皇希)、スネ夫(陳内 将)との関係をどう見せるのかは、すごく重要ですね。ほとんどの観客の頭の中に、この5人の“いつもの”関係性が染みついていると言っても過言ではないと思います。
そうなんです(苦笑)。もう『ドラえもん』というものが、みなさんの頭の中に根付いてて、彼らをひと目見ただけで、声や関係性が浮かんでくる。ただ、それを安易に追いかければいいというものではないと思ってます。
――単純に、原作を模倣するのではなく?
最終的にそこに行き着くのはいいけれど、作っていく過程では自分たちが舞台でやる意味、このメンバーだからこその関係性を大事にしたいと思ってます。キャラクターを追いすぎず、離れすぎず、いろいろ挑戦しながら作っていきたいです。
――アニメでもドラえもんの声を担当されている、水田わさびさんの声に合わせて、のび太を演じるのはいかがですか?
直接、お会いしたのは本読みのときだけなんですけど「うわっ、目の前にドラえもんがいる! なんだこれ?」っていう不思議な感覚でした(笑)。稽古が始まって、いまはまだ「俺、ドラえもんと会話してる!」というワクワク感よりは、慣れるのに必死ですね。
――まだ稽古は始まったばかりですが(※取材を行ったのは2月末)、手応えや自信は?
鴻上さんのもとで、まっすぐに進んでいると思うので、心配はしていないです。絶対にいいものができると思う、というか、します! 舞台ならではの「ここ、こう見せるんだ!」という表現もあるし、肉体を使って見せる面白さもある。いい意味で期待を裏切る素敵な作品になると思います。
――ちなみに、小越さん自身は『ドラえもん』を子どもの頃から見てましたか?
ごく当たり前に見てましたね。大人になって、そこまで熱心に見なくなっても、いつでも声や姿が浮かぶし、ふとしたときに「あぁ、タケコプターがあれば…」と思ったり(笑)。
――よく考えると、会話や思考の中に、普通に“タケコプター”といった単語が出てくるってスゴいことですね(笑)。欲しいひみつ道具は?
今も昔も変わらず“どこでもドア”ですね。稽古場からの帰りとか「ドアを開けたら家だったらなぁ…」って思っちゃいます。
――旅行に行ったり、遠くに行くためじゃなく、あくまでも家と稽古場の往復用?(笑)
あ、全然、遠くに行くとかはいいです。何でもないときに使いたいですね。稽古場とか、ちょっと出かけるときとか(笑)。
普段の自分とまったく違う人間になれるのが楽しい
――正直に言いますと、いま、こうして小越さんと向き合っていて、失礼ながら「本当にこの人がのび太になるの…?」という思いを抱いてます。普段のご自身と、役を演じているときとのギャップは自覚されていますか?
それは感じますね。それこそが役者という仕事の面白さだと思います。普段の自分とはまったく違う人間になれるのが楽しいし、そうやって「違う」と思っていただけると「よしっ!」って。
――仕事ではないときの自分の性格を分析するなら?
なんだろう…? 気分屋ですね。すごくわかりやすく。あとは、めんどくさがり屋だし…って、よくないところばっかり出てくるなぁ(苦笑)。基本、ネガティブなんですよ。
――明るく元気な主人公タイプではない?
仲良くなれば明るいし「ワーッ!」ってはしゃぐこともあるけど、ふとした瞬間に「(相手が自分を)どう思ってるんだろう…?」って考えこんじゃったり(笑)。
――公演のとき以外の仕事の場、たとえば稽古場では? 座長としてカンパニーの中心にいないといけないことが、今回も含めて多々あるかと思いますが…?
基本、みんなを言葉で引っ張ったりするのは苦手です。自分ができもしないのに何かを言うなんて、みんなにどう思われるんだろう…とか、どんどんネガティブに考えちゃうし(苦笑)。
――そんなふうに思う人はおそらくいないでしょうし、それもご自身でわかってるんでしょうけど、ついそうやって悪い方向に…?(苦笑)
そうなんです(笑)。ただ、「俺はできない。だからやらなきゃ! やるしかない!」って気持ちでやっているのを、周りが見てくれて…というのが、自分なりの稽古場でのスタンスなのかなと思います。
――言葉ではなく背中で見せて、みんなをまとめるリーダー?
ただ、今回は自分の中で「何かを変えなきゃ」という思いがあって。稽古初日にスタッフさんも含め、みんなで食事に行く機会があったんですが、そこで自分を少しでも知ってもらおうと、すべてのテーブルに挨拶に回ったんですよ。
――「これからよろしくお願いします」と?
これまでになく、すごく頑張ったんですけど…やっぱり、自分には向いてないなって思い知らされました(苦笑)。そんなふうに行けたのは、その日だけで、翌日からはあいかわらずで…。
――そもそも、そうしてみようと思ったのはなぜなんですか?
なぜというか「何かを変えてみよう」って思ったんですよね、ふと。ちょうどみんなで食事に行くという機会があったのも大きいけど。よく「壁」があるって周りに言われるので、少しでもそれを取り除いて、自分を知ってもらえたらと…。なかなか、難しいですね(苦笑)。