桜林正巳・全国外国語教育振興協会事務局長。

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■東京オリンピックでは都民がおもてなし!?

【三宅義和・イーオン社長】東京オリンピックが2020年に開催されるに伴い、海外からの来日客が非常に増えています。東京都でも「外国人おもてなし語学ボランティア育成講座」が始まりましたが、全国外国語教育振興協会(全外協)は、どのような経緯で協力することになったのですか。また講座の中身は、どんなものでしょうか。

【桜林正巳・全外協事務局長】今年2月、「舛添知事と語ろうin小金井」というフォーラムで、舛添要一都知事がソチのオリンピックへ行かれた際のエピソードを話してくださいました。都知事は非常にワイン好きで、町中を歩いて、そこのレストランでワインを飲むのが趣味なんだそうです。

レストランでは、英語が通じるだろうと思っていたら、ロシアでは全然通じなかったらしい。びっくりして、「せめて東京でオリンピックをやるときは、都民が片言でいいから、英語で道案内ぐらいできるようにしよう」と指示を出したそうです。それが去年の8月のことだったと、東京都の担当者から聞きました。

【三宅】それは知りませんでした。オリンピックが近づいてきたので、外国人の受け入れ態勢として考えているのかなと思っていましたが。

【桜林】そして、まずは英会話業界を知らないといけないということで、東京都さんからすぐに私どもに問い合わせがあったわけです。東京オリンピック・パラリンピック開催までに、3万5000人の語学ボランティアの育成、その中から多少でもいいから、通訳ができる人を育てたいが、どうしたらいいか?」ということでした。全外協としては「できることなら、もちろん協力しますよ」と申し出たのです。平成27年度より具体的な講座をスタートする計画なので、そのための教材が必要だ」ということで、その企画・制作をイーオンさんが引き受けてくださり、とても感謝しています。

【三宅】確か、年明けでしたね。もう、納期まで2カ月でしたから、進行中の仕事を全部ストップして、スタッフがテキスト、カリキュラム作りに専念しました。そのために私は、ずいぶんスタッフから恨まれましたけれども。幸い、短期間で質の高い教材ができあがったと自負しています。

【桜林】アンケートで「とても理解しやすい、よくできている」というご意見が多いと聞いています。

【三宅】それは初めて聞きました。大変嬉しいです。当社の作った教材を使って、教師は全員が全外協加盟校の人たちで、都内のいくつもの場所で、その講座を実施してくれているのですね。

【桜林】そうなんです。加盟校が手分けして講座を担当しています。

【三宅】成果が楽しみですね。外国人を見て、逃げるのではなく「何かお困りですか?」と声をかけるのは、大変勇気がいります。でも「育成講座」を修了したことで自信が持てる。それはすごく大事ですよね。外国人を見て、道案内している姿が目に浮かぶようです。受講者は割と年輩の方が多いようですね。

【桜林】多いです。やっぱり40代、50代、60代が多いですね。英語を少しでも学んで、観光客の役に立ちたいと。特に女性ががんばっていて、7対3の割合です。

これらの教材を使って、最初、5回にわけて、11.5時間の授業を受けてもらいます。それを全部、修了したら、ボランティアのメンバーに登録されます。東京都内を歩いていて、困っている外国人に「May I help you?」と話しかける。ボランティアはバッジをつけていますから、外国の人が、それを見て声をかける場合もあります。

■多様な学び方があっていいが……

【三宅】全外協は、各種の取り組みをしてきましたが、こうした社会貢献は大変重要ですね。

【桜林】東京都さんが相談に来てくれたので「じゃあ、一緒にやりましょう」ということになりました。私どものような業界団体があれば相談しやすいでしょうし、加盟校の社会貢献としてもいいことではないでしょうか。

【三宅】最近ではインターネット電話のスカイプを利用したオンライン英会話スクールとか、スマホの教材アプリに人気があるわけですが、それなりのリスクもあります。突然、そのサイトが閉鎖されてしまう。また、知らないうちに課金されているといったこともあるようです。こうした学習形態に、全外協としてどう対処していくのか教えてください。

【桜林】私どもは、基本的には教室を持ってない学校は加盟できません。例えば加盟校が、スカイプやアプリも使い、正規授業の補完をするのはいいと思います。しかし、指摘されたように、スカイプだけで、外国人留学生が簡単に日本語会話のレッスンを受けるということもありますが、途中で急に消えてしまったというケースが消費者センターに報告されました。そうなったら、何の補償もありませんからね。しかも、会話力が上がっているかどうかの管理やフォローができているかどうかもわかりません。そうした仕組みがないと生徒さんがかわいそうです。正直、私どももどうしたらいいか迷っているところなんですけど、三宅社長はどう思いますか?

【三宅】もちろん、多様な学び方があっていいと思います。けれども基本的には教室のある英語学校に通って、講師や受講生と顔を合わせて、楽しく英語を身につけることが大切です。

【桜林】やっぱりそれが大事だと思うんですよね。結局、アイコンタクトしたり、ジェスチャーしたりですね、あらゆるコミュニケーション手段を使って会話をしていく。スカイプの画面だけでは不十分です。レストランや喫茶店でレッスンをするという形式も同様だと思います。

【三宅】全外協の加盟校は、教室を持っていて、きちんとしたカリキュラムがあって、出欠管理、あるいは上達具合の把握もきちんとなされています。

【桜林】だからその入会基準は守るべきというのが、協会としての考えですし、これはしばらく変えられないと思います。とはいえ、これだけIT環境の進化した時代ですから、もう少し様子を見ながら、入会基準も再考していくべきかもしれません。いつまでも今のままでいいとは考えていません。

■英語を外国語と呼んではいけない理由

【三宅】東京オリンピック開催のこともありますし、それから企業が英語を公用語にする。あるいは隣の席で仕事をする同僚が外国人だというように、ビジネスの面でも英語が必須になってきています。また、学校の英語教育では小学校3年生から英語が必修化になります。5年生からは教科になる。大学入試も4技能テストになるという中で、英語の重要性は一層増してくることは間違いありません。そこでの英会話スクールの役割について、桜林さんが考えていることを伺いたいと思うのですが。

【桜林】ある先生が言っていましたが「英語を外国語と呼んではいけない」と。つまり、日本人にとって日本語が第一言語で、英語は第二言語だと言うわけです。可能性としては、第三言語が中国語で、第四言語が韓国語になる時代が来ているんだから、外国語という概念を捨てましょうということですね。なるほどと感心しました。確かに、ヨーロッパの子どもたちなんかは、相手によって、3カ国語ぐらいは使い分けている。それは外国語というより、第一、第二、第三の母国語なんですね。

そこで、これから全外協としては、そういう広範囲に間口を広げた活動をしていかなければと考えています。安心・安全に学習するという当初の目的は、ほぼ達成したと思うんですね。では、次のミッションをどうするか探しているところですが、今回の東京都さんとタッグを組んだことも、ひとつの突破口かもしれません。

【三宅】全外協加盟校は英語だけではなくて、多くの外国語学校もありますよね。

【桜林】皆さん、平均して10カ国語ぐらい教えていますからね。スペイン語からフランス語、ドイツ語。加盟校全体で数えると、なんと55カ国語です。これまでは延べ77カ国語でした。それも超一流の教師を揃えているわけです。大学で教鞭を執っているような先生たちです。まさに語学学校にもいろんなタイプがあって、英語に特化しているところもあれば、習いたいという人がいる外国語は生徒さんが1人でも受け入れる学校もあります。

【三宅】いろんな学校、いろんなスタイルがあっていいですよね。これからの日本人が日本人としてのアイデンティティをしっかり保って、日本語も日本の文化も大事にしながら英語を学ぶべきです。

【桜林】日本人としての立場を大切にして、世界共通語となりつつある英語で、いろんな国の人と必要に応じてコミュニケーションが取れる日本人を多く育てていくというのが、私どもの使命だと信じています。さらに言えば、英語だけではなくて、いろんな言語も含めて教えることが役割だと思います。

ですから、加盟校には多彩な学習カリキュラムを用意してもらう。それを全外協として、どうサポートできるかということを模索しています。私どもの加盟校は、全国展開のところもあれば、それぞれの地域で非常に強い学校もたくさんありますから、それぞれの持ち味を生かしてほしいと思っています。

【三宅】本日はありがとうございました。

(三宅義和・イーオン社長 構成=岡村繁雄 撮影=澁谷高晴)