引退を宣言した橋下氏(橋下 徹 オフィシャルウェブサイトより)

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 大阪市民は大きな変革を望まなかった。5月17日行なわれた大阪都構想実現の是非を問う住民投票は、反対票70万5585票、賛成票69万4844票(大阪市選挙管理委員会発表)と反対が賛成を僅かに上回ったことから否決という結果に終わった。

 橋下徹大阪市長悲願の都構想実現はならず、大阪市の存続が決まった格好だ。

 同日深夜、橋下市長は残されている今年12月までの任期を全うした上で次の市長選には立候補せず、今後は政界からは身を引くとの考えを敗戦の弁を述べた記者会見上で表明した。

 都構想実現の否決、橋下市長の政界引退表明により、大阪市役所や市議会関係者、市民の間にはピリピリした緊張感から開放された安堵にも似た空気感が漂っている。

 とはいえ僅か1万票差での否決であることから、「大阪市への変革を期待する声がある」(公明党大阪市議会関係者)ことには間違いない。

市長は人の米びつに手を突っ込んだらあかん!

 さて、今回の開票結果を大阪市各区ごとにみてみると反対票が賛成票を上回った各区には決まった傾向性があることがわかる。大阪市職員(課長代理・40代男性)が語る。

「西成、平野、東住吉、住吉、生野……などなど。千分比で生活保護率が50%以上超えている区が軒並み都構想実現に反対だったということ。都構想実現で府市一体のスリムな行政となれば、生活保護受給審査も厳しくなる可能性があることを市民の皆様も肌で感じ取られたのではないでしょうか」

 事実、生活保護受給世帯が多い西成区住民のひとりは開票結果についてこう述べた。

「生活保護受給率全国ワーストワンから抜け出すと宣言しとった橋下市長も引退するゆうことやし、わしらの生活も安泰や。人の米びつに手突っ込むような人様の道に外れるようなことはしたらあかん。住民投票前の運動も(街宣が)煩かったしな。これでやっと平穏な生活が戻るで」(西成区・生活保護受給者・65歳男性)

 今回の住民投票は、開票日まで賛成派・反対派による凱旋運動が繰り広げられた。この投票を呼びかける運動は、橋下市長率いる大阪維新の会によるそれがもっとも熱心だったという。

「市長悲願の政策を訴えたいのはわからなくもないが、区役所の前で長時間、大音響でがなりたてられると業務にも差し支える。まるで業務妨害だった。右翼の凱旋車でも過去そこまではしなかった。橋下市長はじめ賛成派はあまりにも熱心に運動したので、それが大阪市民の反発を買ったのかもしれない」(大阪市内のある区役所の職員)

市職員は平松氏か藤井氏を次期市長に希望

 都構想が否決に終わった今、大阪市職員たちの関心事はもう今年12月に行なわれる次期市長選へと移りつつある。市職員の間では、平松邦夫前市長のカムバック、都構想反対の論客、藤井聡京大大学院教授の出馬に期待を寄せる向きが多いという。

 役人の世界では次期選挙に出馬しない首長はもう誰も相手にはしない。今、大阪市職員は橋下市長に何を思うのか。

「(橋下市長は)任期全うなどしなくていい。今すぐ辞めて貰ったほうが市政の停滞を招かずに済む。また昨年の衆院選のように、『市長辞めるの辞めた。衆院選出馬辞めた』と言いかねない。早く決断して欲しい。見送りの準備もある」(前出の課長代理)

 なお、これまで度々、DMMニュースの取材を受けてくれた課長代理はこう記者に語った。

「御サイトは数あるネットメディアでは珍しく大阪市職員や生活保護受給者など一貫して弱い立場の者の味方をしてくれた。いくつかの記事では市役所内で誰がしゃべったのか犯人探しもあり、都構想問題では橋下市長から『市職員が外部に話すな』と通達まで出された。でも今回の開票結果で胸がすく思いだ。これで大阪市を次の世代に残せる。お礼をいいたい」

 もしかして本サイトが大阪都構想否決の立役者だったのだろうか。だとしたらなんとも面映い話である。

(取材・文/川村洋)