幸運なかたちで2ゴールを奪うも、これを勝利に結びつけられなかったミラン。怪我人が多いという不運があったとはいえ、これほど苦しんでいるのは自業自得の部分もある。写真はメネーズのPK。 (C) Getty Images

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 前半は無残だった。
 
 いつも通りに守備は不安定。ナイジェル・デヨングに代わってアンカーを務めたサリ・ムンタリが案の定、全くヴェローナの攻撃を止めたり遅らせたりすることができず、DF陣も簡単にシュートやセンタリングを許した。
 
 攻撃では、ジェレミー・メネーズは安定していたものの、前線のジャンパオロ・パッツィーニとアレッシオ・チェルチは焦りからか、前者は動き回りすぎてターゲットとなれず(彼に合わせられる感覚と技術を持った選手がいないのも事実だが)、後者はボールを持ちすぎて自らプレーの幅を狭めてしまった。
 
 前述のムンタリへの不安からか、アンドレア・ポーリやジャコモ・ボナベントゥーラのポジショニングも中途半端なものとなり、押し上げの少ないミランの攻撃は、コースのないなかでの無理なシュートや可能性の低い遠めからのシュートに限定され、ヴェローナ守備陣に難なく封じられた。
 
 16分、対応が遅れたムンタリがやらずもがなのPKを与えてアウェーチームに先制を許してからは、ミランにとっては苦しい、ミラニスタにとっては屈辱の時間が過ぎていったが、39分にFKからフィリップ・メクセスが倒されてPKを得る。
 
 決して意図したかたちではなかったところから絶好の得点機に恵まれたミラン。この幸運をメネーズが確実に活かし、同点で折り返すことに成功した。
 
 後半開始直後、ミランは人数をかけて一気に攻め入り、メネーズ→チェルチのクロス→相手のクリア→メネーズのヘッドという展開から、ボールは右サイドのメクセスの前に落ち、このフランス人CBは相手DFをドリブルでかわして角度のない位置から強引にシュート。ボールはDFに当たってゴールラインを割った(オウンゴール)。
 
 ここでの得点に至るまでの攻撃も、やはりと言うべきか、決して意図した連係プレーではなかったが、そこから逆転ゴールが生まれたのだから、ミランにとってはこの試合2度目の幸運と言えた。
 
 その後は一進一退、しかし守勢時のミランのプレーは相変わらず脆弱で、簡単にペナルティエリア手前までの侵入を許してしまう。最終ラインで何とか防ぐか、相手攻撃陣のフィニッシュの拙さなどで失点は免れていたものの、72分にはクロスバーを叩くシュートを打たれるなど、ここでも幸運に守られるという有り様だった。
 
 その後、ミランはカウンターのチャンスを得ながら、あまり効果的な攻撃を見せられなかった。そして守備ではロスタイム、マークのダブりからニコラス・ロペスの同点ゴールを許してしまう。攻守両面で全く改善できないミランに、もう幸運は訪れなかった。
 
 後半は持ち直したかと思われたミランだったが、終わってみれば無残な試合だった……。
 
 63分にチェルチに代わって出場した本田圭佑は、幾度か良さは出していた。タイミングの良い、受け手に優しいパスを見せたし、73分にはカウンターから(枠外だったとはいえ)フィニッシュにも絡んだ。
 
 しかし、その役割が「試合を決める3点目を生み出すこと」「リードのまま試合を終わらせること」だとすれば、いずれも果たせなかったことになる。判断ミスも幾度かあったし、最後の得点チャンスだったFKで、本田のキックからボールが誰にも触れないままゴールラインを割って試合を終了した場面は、何か象徴的ですらあった。
 
 メネーズがボールキープ力と打開力を見せた反面、他選手との連係の拙さで孤立していただけに、視野の広さとパス能力を持つ本田と近い距離でプレーさせれば面白いというのはシーズン序盤からの印象だが、フィリッポ・インザーギ監督にそのビジョンは今でもないようだ。
 
 それにしても、ミランには連係というものが全く存在しない。攻守両面で個人能力頼み。突出した個の集合体であれば、それでも結果は残せるのかもしれないが、今のミランは残念ながらそのような豪華なチームではなく、ゆえに相手に脅威を与えることができていない。
 
 間もなく終盤戦に入ろうという時期に差し掛かりながらも、何ひとつ連係をチームに植え付けることができずにここまで来てしまったインザーギ監督の責任は決して小さくはない。たとえ、怪我人が多く、「金は出さなくても口は出す」首脳陣に横やりを入れられる不運・不遇があったとしてもだ。
 
 この試合は一部で、インザーギ監督の去就を懸けた「査定試合」であると言われていたが、負けに等しい同点に終わったことで、ミラン首脳陣はいかなる判断を下すのだろうか。続投となれば何とも低い査定基準ということになるが、解任劇はまた新たな混乱をチームにもたらすだろう。果たして……。