【レポート】スマホ市場は転換期を迎えた可能性が高い - 2014年のスマホを言い表す一字「転」
●米国のスマホは買い替え需要が中心に2014年のスマートフォンを漢字一字で言い表すなら、どんな言葉が当てはまるのか。ライターのJunya Suzuki氏に、今年を象徴する一字を選んでもらったところ、「転」を選択、同氏にその理由や所感を記してもらった。
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2014年だけでなく、ここ数年の傾向で顕著になってきているのが先進国におけるスマートフォン普及率の飽和だ。米国を筆頭に、特にミッドレンジ以上の端末の新規契約はほぼ頭打ちになっており、現在は買い換え需要または単価が低いローエンド寄りの端末需要が市場を牽引している。一方で人口の多い中国やインドなどの国での端末販売は台数面で他を圧倒しており、世界のスマートフォーンのメーカー別シェアでも中国メーカーが上位を占めるなど、地域事情を色濃く反映した状況となっている。
○調査報告書から見た米国のスマホの現状
スマートフォンに関する市場調査報告は調査会社各社が定期的に行っている。本稿執筆時点の12月中旬では2014年通年のデータは揃っていないが(第3四半期まで)、例年と数字に大きな変化はなく、おおよその傾向はつかめたと考えている。
このうち、まず注目したいのがcomScoreとStatistaのデータだ。comScoreのデータは2014年第3四半期における米国のスマートフォン契約状況をまとめたものだが、プラットフォーム別シェアではAndroidが52.1%で直近の四半期から0.2%の微増、iOSが41.7%でマイナス0.4%の微減、Windows Phoneが3.6%で0.2%の微増となっている。新機種が出る関係でiOSは第4四半期にシェアが急増する傾向があるが、おおよそ4割前後が通年でのシェアだと考えていいだろう。これが現在の米国のスマートフォン市場の状況だ。
そして面白いのがStatistaのデータだ。Statistaは複数のデータを集計して市場状況をまとめており、具体的なソースは不明な部分はあるが、ここで示されるグラフでは2005〜2014年までの米国におけるスマートフォン販売額の推移を表している。Androidが普及を始めた2010年あたりから急激に金額が伸びているものの、ここ最近は伸びが大幅に鈍化している。2014年は推定値だと考えられるが、ほぼ頭打ちに近い状況だ。comScoreのデータによれば、第3四半期時点での米国のスマートフォン保有人口は1億7900万人で、直近の四半期からは1%増。つまりほとんど変化していない。
ここから推察されるのは、現在米国でスマートフォン販売を支えているのは「買い換え需要」もしくは「新規でもローエンド端末」が中心で、契約縛りサイクルである2年周期での既存ユーザーによる買い換えに依存している構図が浮かび上がってくる。
●調査報告書からわかること○世界のスマホの現状
次に注目したいのがThe Guardianのこの記事だ。日付は2014年1月と古いが、ある情報を共有するうえで大きな意味を持つ。世界の国ごとのスマートフォン普及率や新規スマートフォン契約数をヒートマップで参照できるのだ。これを見れば、いま世界のどの地域でスマートフォンが売れているのかを簡単に把握できる。米国はさることながら、中国、インド、東南アジア、ブラジルあたりの国々が目にとまるだろう。
さらに国ごとのスマートフォン販売数と、その新規/買い換えの比率が示されたグラフだ。これをみれば、潜在的端末需要がどこにあるのかが一目瞭然だ。中国、インドがその台風の目にあるということがわかる。
以上を踏まえたうえで、IDCの「世界のプラットフォーム別スマートフォンシェア推移」、「世界のベンダー別スマートフォンシェア推移」、そしてGartnerの「最新スマートフォン市場シェア報告(2014年第3四半期)」あたりのデータを見ると、現在のスマートフォン市場のおおよその状況が見えてくる。IDCとGartnerで微妙に数字が異なるが、内容的にはほぼ同じだ。ポイントを箇条書きすると……、
・Androidはシェアが微増、iOSは微増または微減、Windows Phoneは微減、BlackBerryも微減・ベンダー別ではSamsungが首位だがシェアは大幅減、Appleは微増または微減、3〜5位はHuawei、Xiaomi、Lenovoの中国メーカー3社が占有し、特にXiaomiの伸びが大きい
あたりとなる。1つ注目してほしいのはGartnerのデータで、昨年同期比でスマートフォン出荷台数が2億5000万台から3億台と、約20%の伸びを見せている。AppleのシェアはIDCとGartnerで増加傾向が異なっているが、仮に横ばいだとしても市場全体として20%出荷台数が伸びているのであれば、Appleもまた20%成長を達成していることになる。
先ほど先進国はすでに買い換えサイクルが中心という話をしたが、つまりこの20%の伸びは先進国以外のマーケットでの純増だ。その意味ではAppleは比較的国外展開に成功しているメーカーだといえる。
●調査報告書からわかること○Windows Phoneの微減、中国ベンダーの台頭が意味すること
そのほか、Windows Phoneのシェアが減少し、中国ベンダーが台頭したという事実が意味しているのは、世界のスマートフォン市場の成長が局所的に偏っているということだ。Windows Phoneは主に欧米を中心に、最近ではインドをはじめ新興国への進出を積極的に行っているが、まだ大きくシェアを獲得できるには至っていない。
一方で中国ベンダーの台頭は、中国ならびに周辺国でのスマートフォン市場の成長が著しく、その煽りを受けて台数ベースのシェアではWindows Phoneが大きな影響を受けるという推測が成り立つ。先ほどのThe Guardianのデータを参照すれば、中国とインドで覇権を握ったベンダーが、同時に世界のスマートフォン市場での覇者となる可能性が高い。
最近、Samsungの勢いに陰りが見えるのも、先進国での市場の成熟のほか、こうしたスマートフォン激戦区の新興国での影響力低下、地場ベンダーの躍進による部分が大きいのだろう。この勢いは遠からず周辺国にも影響をもたらし、世界シェアで中国メーカーがランキング上位を専有する日も近いのではないかと筆者は考える。
○スマートフォン市場は転換点を迎えた
まとめると、2014年、そして2015年にかけてのスマートフォン市場は、まさに転換点を迎えた可能性が高いというのがデータから見た筆者の推測だ。実際、「スマートフォンの新機種に魅力を感じなくなった」「iPhoneの新機種を見ても以前ほど食指が伸びない」という意見が多く、「スマートフォン市場が飽和した」と感じている人は多いだろう。折しも、米国では販売奨励金を大量に盛って端末をバラ撒き、ユーザーを長期契約で縛るという手法が見直されつつあり、2015年以降の動向が注目されつつある状況だ。
日本でも2015年5月からSIMロック解除が義務化され、低料金をセールスポイントにしたMVNOが話題を集めるなど、キャッシュバックなどを交えたハイエンド端末販売一辺倒の状況に変化が訪れる兆しが見えつつあり、こうした中国メーカーが進出する余地ができはじめている。その意味で、来年は今年よりも面白いものがみられるかもしれない。
(Junya Suzuki)