儲けを生み続ける最強リーダーの口グセ[トヨタ編]

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現代の大グローバル企業の現場で受け継がれている「魔法の言葉」。

■水すまし

トヨタ自動車の工場などにおける部品供給担当者のことをいう。部品を置いてある場所と工程間とを、部品を運搬して回る様子が、水上を旋回する“水すまし”にたとえられた。製造プロセスの前工程を順番に巡回し、自分たちの部門の工程の生産順序に必要な種類の部品を決められた数だけ集め、運搬し、後の工程に不良品・ミスなくリレーしていくことがトヨタ生産方式の柱の一つ。

■4S

整理・整頓・清潔・清掃の4つの表音の頭文字を示したもの。モノの管理の重要性を強調した言葉であり、トヨタ生産方式の根幹。4Sに躾(ルールや決めたことを守ること)を加え、5Sともいう。

■縦にたくさんできる人

いわゆる「多能工」のこと。多能工とは、多くの種類の機械を操作できる人のことで、何かトラブルなどが起きたときには、自分の受け持ち以外の作業にも駆けつけることができる。いわば、ユーティリティープレイヤー。

一方、工程の縦方向ではなく、「横にたくさんできる人」もいるが、こちらは一つの作業しかできないものの、同じ種類の機械を何台も操作できる(量をこなせる)。いずれも重宝する戦力だが、トヨタ内では、「横」よりも「縦」のほうが、付加価値が高いとされる。

■ポカヨケ

自動車工場の製造ラインに設置される作業ミスを防止する仕組み、装置のこと。品質不良の発生や機械設備の故障発生を防止するための道具や工夫。その仕組みには、作業者のミスを発見し警告するシステムや、部品などの不具合を検知して加工を始めないといったシステムなどがある。

囲碁・将棋の世界で、通常は考えられない悪手を指すことを「ポカ」と呼ぶが、これをよける=回避する、がポカヨケの語源となっているといわれる。

■者に聞くな、物に聞け

不良が出たり、機械のトラブルが発生したりしたときに製造工程の部門の管理監督者などは部下からの報告に頼ってはいけない、という戒めの言葉。

「者」とは「人」のこと、「物」とは「現場」「商品・製品」のこと。

管理者は部下の報告を鵜呑みにせず、自分の目で現場を見て何が起きているかをつかまないと「事実」は見えてこない、という教えが代々継承されている。

「現地・現物・現実」を大切にしなさい、というトヨタの三現主義の完全なる遂行がいつの時代もトヨタのリーダーたちのファーストプライオリティーといえる。

■カイゼンは巧遅より拙速

「巧遅(こうち)」とは、出来はいいが、仕上げるのに時間がかかることを指す。一方、「拙速(せっそく)」とは、出来映えそのものはいまひとつだが、仕上がりが速いこと指す。トヨタ内での評価は後者のほうが高く、荒削りでも、思いつきでもいいから、とにかく速くやることがベターと考えられている。

「6割いいと思ったらやれ」というのもトヨタの口グセだが、失敗を恐れず、また頭でっかちにならず、まずは行動してみて、1分1秒でも速く仕上げるということも、カイゼンの一つといえるのだ。

■事前の一策、事後の百策

ものごとは早めに手を打てば、「一策」ですむが、何かコトが起きてからでは「百策」が必要になってしまうことが多い、ということ。つまり、事前の準備を周到にしておくことの重要性を伝えるものである。

自動車の生産現場においては、すべりやすい機械の上に立って作業するケースや高い場所にのぼって作業することもあり、悪条件下で仕事をせざるをえない状況は少なくない。そんなときも、想定できる限りの前準備をすることが、あとでバタバタして、時間とコストを無駄遣いしないための対策となる。

■カンコツだけじゃダメだ

カンコツとは、「勘とコツ」のこと。上司たるもの、部下に対して「スキルは見て盗め」と言い放つだけではいけないという意味。

何かの仕事に長けるとその経験で培った勘とコツで本人は易々と成し遂げることができる。そんな人は部下などに教えるよりも自分で作業をしてしまったほうが早い。

しかし、リーダーや上司のような立場になったらそうはいかない。初心者などに理論立てて説明できることが理想的。例えば、自動車の溶接なら、溶接棒を持つ角度は何度くらいが適当か。ガスの火口の芯は何ミリにすればいいのか。具体的な「数値」でとらえて解説すれば、相手の解釈の間違いは減り、理解力もあがるのだ。

部下は上司を選べない、だからこそ人材育成には力をいれよ、というトヨタならではのきめこまやかな対処を証明する言葉。

■要因から真因を探せ

どんな製造現場でも何かトラブルが発生すると、要因はいろいろあがってくる。調べ上げれば、簡単に50でも、100でも出てくる。しかし大事なのは、あくまで「真因」を追究することだということ。

たくさんある要因の中から何が「核心」なのかをつかまないと、再びトラブルに見舞われてしまうからだ。

そうしたとき、トヨタでヒントとすることがあるのが、一般的にもよく使われている問題解決方法「4M」だ。すなわち、MAN(人)、MACHINE(機械)、MATERIAL(材料)、METHOD(方法)。それぞれの切り口で探ることが真因にたどりつく近道となる。

■現場の四隅を見なさい

トヨタのモノづくりの基本である4S(整理・整頓・清潔・清掃)をしようとしたとき、部屋や空間の真ん中あたりは、それらが実行できていても、壁際や角(隅)は雑然としていることが多く、注意が必要だということ。意識して四隅をチェックすることがトヨタのリーダーの重要な役割となる。

また、四隅=「日常、見落としがちな部分」をよく見る、という解釈をすれば、空間だけでなく、地味であまり存在感のない「埋もれた人材」にしっかり目を配ることもまた、リーダーの大事な任務となる。

■横展しよう

「よこてん」と読む。文字通り、横に展開するという意味で、トヨタ社内では、ある工場などが持っている優れたやり方・ノウハウを他の工場などに広めたり、逆に他の工場で実施していることを積極的に採用したりすることを指す。

トヨタに官僚的な縦割り的な文化はなく、よいものは自分の部署だけで独り占めしないでオープンにしていく。そうやって横のネットワークを築き、互いに盗んだり盗まれたりしながら切磋琢磨することで高めあう企業風土が昔から存在している。

■カイゼンはマネから

前出の「横展」に近い意味。「カイゼンはまねることから始まる」といわれる。自分たちの工場にいい知恵がなかったら、よその工場に見学に行って「工程のやり方」を見て、そのまま取り入れるもよし、アレンジを加えて使うもよし。

■景色を変えろ

製造現場の管理者などがカイゼンする際の重要な目標の一つ。作業者の一挙手一投足に目を光らせムダがないかをチェックするだけでなく、工場全体を見渡し、モノの配置などをより利便性高くするなどして「景色」を変えるくらいの意識が必要とされる。現状に安住しないで常に変革の心を持て、というメッセージ。

■動かないものは捨てろ

不要なモノをどんどん捨てるトヨタらしい伝統文化を伝える言葉。使うモノと使わないモノを徹底的に分別する際、モノが最近動いたかどうかを尺度とするのがトヨタ流だ。その猶予期間は、1週間、1カ月……。それぞれの部署で基準を設けて、動いていないと見なされれば、廃棄される。

■たまには横着になれ

つとに知られるトヨタの制度「創意くふう」。日常業務で気付いたことなど、こうしたほうがいいといった提案を全社員が簡潔にまとめるもので優秀な案は表彰され(賞金も)、実行に移される。しかし、現場の社員のなかにはアイデア出しすることに身構えてしまいなかなかできない人もいる。そこで、気楽な気分でやってもらうため、冒頭のようなフレーズでやる気を出す作戦を立てることがある。

■お金を産むのは誰だ

トヨタの製造現場の監督者は作業者に対して威張り散らすような行為はしない。むしろ、作業者に稼いでもらっている、食べさせてもらっている、という感謝の念を持つように上層部から言われることが多い。よって、監督者の使命はカイゼンし、「作業者が仕事を楽しめる」職場環境を築くこと。

■マルを描いて立ってろ

作業員のムダな動きを極力なくすため、工場管理者はあちこちを動き回ってばかりいるのではなく、ときにはじっと定点観測することも必要だということ。

ある地点にじっと立ち、全体を見渡すと人の動きを冷静に分析することができる。ある作業員は確かに忙しそうにしているが、よく見るとムダな動きも多い。また、工場内に必要ないものが置いてある。そうした事実にも気付くことができる。

■一日一善

漠然と仕事に向き合うのではなく、「いいことを一つする」などと小さな目標を立てて臨もうというスローガン。例えば、モノを運ぶワゴンの台車をほんの少し改良して動きやすくするなど工程のプロセスのどこかをカイゼンし、その内容をノートに記す。なかには、チーム全体で「いいこと一つ」運動に取り組むケースも少なくない。

■やってみせ、やらせてみせて、フォローする

かの連合艦隊司令長官・山本五十六の部下操縦法の名言「やってみせ、言って聞かせて……」に、「フォローする」を新たに付け加えた部下への作業手順の教え方。

ただ、単純に教えるのではなく、作業者などがマスターした、もしくは体で覚えた状態に達したところを確認することが求められる。

「私はこういう指導をしました。たぶん、(部下たちはその通りに)やっているでしょう」ではなく、フォローをしっかりして「教えた通りにやっています」と断言できるリーダーが理想とされている。

■お前は現場を見たか

昔も今も、「付加価値を生む現場こそがいちばん大切」という考えが浸透しているトヨタ。よって、いつの時代も、経営トップは現場をこまめに見て歩いては、作業者などに声をかける。そうした率先垂範によって、それぞれの現場のいい点やカイゼンすべき点を見抜き、経営トップ層同士で、「お前は、あの現場を見たか」と互いに語り合うのだという。

(大塚常好=文 OJTソリューションズ(中田富男氏)=取材協力)