不動産相場は不動産業の株価にリンク

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■強気の価格設定はいずれ崩壊する!

マイホームは人生においてもっとも大きな買い物。数千万円と額が大きいだけに、消費税の増税は痛い。そう考えて、税率が5%のうちにマンションなどを駆け込み購入する人々が2013年秋、急増しました。

住宅購入の場合、新消費税が適用されるかどうかは引き渡し日で決まります。14年3月末日までなら5%ですが、それ以降は8%。ただし13年9月までに売買契約を結べば、引き渡し日に関係なく、5%に据え置く経過措置があったため、物件は飛ぶように売れたのです。

その経過措置も切れ、増税まで秒読み。さらに15年10月からの消費税10%も視野に入れたとき、いつが最適の買いどきなのでしょうか。

少なくとも焦って買う必要はない。不動産業界の株価やマクロ経済の指標を冷静に見ながら決める――。これが私の結論ですが、詳細を述べる前に現状を整理しましょう。

まず、14年4月から、増税の負担緩和策として住宅ローン減税などが拡充されるので(年末のローン残高の1%が、所得税や住民税から控除される額が従来は10年間で最大200万円だったが、最大400万円に)、増税分は相殺、もしくは得するケースも出てくる、といった試算があります。増税は、必ずしも恐るるに足りず、という考えです。

その一方で、購入は早めがいい、という意見もあります。背景にあるのは、建設費の高騰。時間がたてばたつほど物件が高くなる可能性があるというのです。東北の被災地の復興に駆り出されるなどしているため、建設に従事する職人の人手不足がいっそう顕著になり人件費がアップ、そして建築資材コストも高くなり、建築費は1年前の1〜2割上昇しています。今後さらに分譲価格が上がれば、前出のローン減税などの緩和策も効き目がなくなるため、「早めに」ということなのです。

でも、私の考えは違います。そうした直近の情報だけではなく、長期的な視野を持つべきだと思うのです。注目すべきは、不動産業界の株価。増税による「値上がり」によって消費者の購入意欲は一度下がるに違いありません。けれど、駆け込み需要などにより業績が好調で、株価も上昇しているデベロッパーなどは、低金利やローン減税の拡充といった追い風を受け、さらに強気に攻めてくるでしょう。つまり、物件価格の設定をより高くするのです。

価格は通常、物件の近隣に住む人々の平均年収などをもとに理論値(の価格)が割り出されます。しかし同じエリアでの別のデベロッパーの販売価格や売れ行き状況によっては、「もう少し価格を上げても売れる」と判断し、より高い設定をする場合があります。それを業界では「新価格」と呼びます。

08年のリーマンショック前の不動産ミニバブル期には理論値より2〜3割増の新価格がまかり通りました。しかし、そのバブルは崩壊し、デベロッパーは次々と倒産。不動産業界の株価と同時に物件の価格も下落しました。この株価と物件価格の乱高下は消費税が3%から5%に上昇した直後にも見られ、この四半世紀の間で二度も大きな山と谷を見てきたことになります(図)。

その経験から言っても、今回の消費税アップ前の「山」のあとには、やはり谷がやってくるのではないか、と私は読んでいます。とすれば、いくつかのデベロッパーは倒産し、物件価格は再び下がり始める。要するに不動産業界の株価が下がり始めたときこそ、「買い」と言えるのです。

考えれば不動産業界にとってこの先いいニュースはあまりありません。人口が減少傾向にあるのに加え、現在の家購入世代である団塊ジュニア世代は将来に対する不安感からか住宅取得欲に乏しい。「住宅購入想定人口」は今後明らかに減少します。結局、不動産業界の株価が長期的にみて上がる要素は見当たらない。

より安く買いたいのなら、不動産市場がシュリンク(縮小)したときが狙い目ということになります。

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長谷川不動産経済社代表 長谷川 高
立教大学卒業後、大手デベロッパーにてビル・マンション企画開発事業、都市開発事業に携わる。1996年独立し不動産不動産投資コンサルティングを。著書に『家を買いたくなったら』など多数。

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(長谷川不動産経済社代表 長谷川 高 構成=堀 朋子)