『HOPE』(2巻)すえのぶけいこ/講談社

写真拡大

過激ないじめ描写と展開の読めなさで目が離せなくなる『ライフ』、極限状態で少女たちがどう生きぬくかを描いた『リミット』。どちらも大きな話題を呼んだ少女マンガで、『ライフ』は北乃きいと福田沙紀のドラマ版を記憶している人も多いはず。『リミット』も現在桜庭ななみ主演のドラマ版が放映中だ。

その作者・すえのぶけいこの新作『HOPE』は、『ライフ』『リミット』とは違った意味で手に汗握る少女マンガだ。今年3月より『別冊フレンド』で連載がはじまり、8月13日にはコミックス2巻が発売された。

『ライフ』と『リミット』で、すえのぶけいこは閉鎖的空間と生きるか死ぬかの状況の中で、主人公の少女たちが何を選んでいくのかを描いていた。一転して『HOPE』では、「漫画家になりたい」という主人公・夢野ひかりのまっすぐでひたむきな姿を描いている。

「漫画家マンガ」といえば『バクマン。』(ジャンプコミックス/原作・大場つぐみ、作画・小畑健)と比較しながら読んでみると興味深い。基本的に『バクマン。』では登場人物のチームプレイと仲間との切磋琢磨によって物語が進むのに対し、『HOPE』は(今のところではあるが)徹底的に個人プレイだ。

一時的に夢野ひかりに手を差し伸べてくれる相手がいても、次のステップに進むにあたって周囲の人物が入れ替わる。理解し合うことができないと思っていた相手が支えてくれたかと思えば、戦友だと思っていた相手が次には嫉妬の眼差しを向けてくることもある。

昨日の敵は今日の友、その逆も然り。『HOPE』はそのたぎる熱さの中に人間関係サバイバルを常に孕んでおり、だからこそドラマが加熱していく。これは『ライフ』や『リミット』にも存在する、すえのぶけいこが持つ漫画家としての妙である。

これまで少女マンガでも漫画家マンガはいくつかあったが、『HOPE』の熱さは特別だ。2巻では夢野ひかりがペンを走らせるシーンでは、なんと“炎”が描かれている。ほとばしる汗、息づかい、そして『アオイホノオ』の島本和彦先生にも負けないくらいの炎!

夢野ひかりと同じく漫画家志望のクラスメイト・相澤夏希が、ひかりが(炎を噴き出しながら)描いたマンガを見て、

「…なんなのこれ…普通の学園少女漫画のはずなのにこの気迫…っ」

と身震いするコマは、『ガラスの仮面』の「恐ろしい子!」のコマを彷彿とさせる。

『アオイホノオ』のようなぐつぐつした血潮と、『ガラスの仮面』のようなドラマティックな躍動感。『HOPE』は、この2つで作られた、夢を追う少女の戦いなのだ。

ところで、講談社は『なかよし』2013年3月号の付録にかなり本格的な「マンガ家セット」をつけたことで話題となった。私も購入して実際に使ってみたが、マンガを描きたいと思う少女たちがこれを手にすれば狂喜乱舞間違いなし。「私も漫画家になりたい!」と思うこと請け合いだろう。

でも、お母さんは「そんな夢見るな」って言うし……
ていうかすでに「漫画家になんかなれない」ってハッキリ言われちゃったし……
でもやっぱり夢をあきらめきれないよ……
私、漫画家を目指します! 

……あれ? これ『HOPE』のストーリーそのまんまじゃね!? 『なかよし』でマンガを描くことに興味を持った女の子が、中学生や高校生になって『HOPE』を読んだら、それはもう漫画家を目指してしまいますよ!

マンガは発刊数もタイトルも年々増えており、誰にもまだ見つけられていない新たな才能をいかに見つけるかがマンガ雑誌や出版社の行く先を左右するといっても過言ではない。もしかしたら『HOPE』は講談社による、新たな才能発掘のための壮大な布石なのかもしれない。
(川俣綾加)