中2病全開がむしろかっこいいバンド「蟲ふるう夜に」
■12曲で物語を紡ぐ、壮大なアルバム
「ご主人がうごかない もう5日になります」
そんな不気味なフレーズで始まる「犬」という曲。おそらくは死んでしまった主人のかたわらで、ずっと付き添い、状況が理解できずに泣き続ける飼い犬の心情が歌われている。この曲を作った“蟲ふるう夜に”というバンドが、ちょっとおもしろい。
まず説明すると、女性ボーカルの蟻(あり)を中心とした4人組。特徴的なバンド名の由来は「メンバー全員がムシケラみたいな存在だったから」ということらしい。蟻は両親が離婚し、車が大破する事故に合い、高校のクラスでは女子が自分ひとりという不遇の時代を過ごし、音楽に目覚めて専門学校に通うため上京。しかし今度は貧乏すぎて部屋を借りられず、公園やネットカフェで生活して過ごすことになる。そういった過去の経験を糧に「暗闇の中の光 弱さの中の強さ」というテーマに至り、バンドを組んで活動をスタート。だが、彼女は今でも、自分たちの曲以外はまったく音楽を聴かないそうだ。
そして、7月17日に配信&レンタル限定でリリースされた「蟲の声」というアルバムも変わっている。前作「蟲の音」から続く“蟲”シリーズ3部作の第2章と位置づけられていて、収録された12曲が一連の物語となっている。人になった蟲が、人間の世界を体験し、ある少年と出会い…といった具合だ。
曲でストーリーを語る手法は、極端な例で言えばミドリカワ書房が思い浮かぶし、BUMP OF CHICKENにもRADWIMPSにもミスチルにも似たような曲はある。ただ、この作品はアルバムを通してひとつの物語となっているのが特徴で、シリアスな場面や激情のシーンを経て、クライマックスに向かっていく。12曲を通して、映画や小説を体感するような作品だ。
ここまで読むとわかるかもしれないけれど、あえてこのバンドをものすごくわかりやすく言うなら、厨二病だ。
世界観が確立しているからこそ、にわか的に楽しむのは難しく感じられるし、空気に馴染めない人にはなかなか取っ付きづらい。
だけど、7月15日に渋谷O-Crestで行われたワンマンライブを見て、考えが変わった。
ナマで彼女たちの演奏を観て思ったのは、世界観や物語なんて小難しいことは抜きにして、曲がかっこいいってことだった。
■サウンドは、BiSの松隈ケンタプロデュース
ライブは「蟲の音」「蟲の声」を完全再現する二部構成で、プロジェクターでの映像や、蟻によるナレーションも交えながら、アルバムの世界観が表現されていた。
物語の場面によって時にはしっとり聴いたり、時にはガンガンにアガったりするコントラストが楽しい。メンバー自身が「厨二病ってよく言われるんすよ(笑)」と開き直ったように話すのを見て、“これでやっていく”という覚悟というか、頼もしさも感じられた。
特に、BiSなどを手がける松隈ケンタがプロデュースした「蟲の声」のサウンドは、力強くてラウドだけど、なぜかクセになる迫力がある。
満員のフロアではモッシュもダイブも巻き起こりながら、およそ3時間という長丁場で21曲を演奏。さらに客席からのアンコールには「なにも用意してなかったよ!」と苦笑いしながら、急遽あと2曲を披露。最後まで独創的な空気の中で、勢いあるライブを見せてくれた。
世界観や手法というのは伝えたいメッセージを届けやすくするための道具であって、それだけが大切なことではない。“蟲ふるう夜に”の曲は知識ゼロで聴いてもハマる人は多いと思うし、バックボーンに固執しなくても楽しめる。
イメージだけで「厨二病じゃん(笑)」と鼻で笑ってわかったフリをするのは簡単だ。でも「厨二病でなにが悪い!」と開き直って、自分たちのやりたいことを貫く姿勢のほうが、全然かっこいい。その思い切り具合が気持ち良くて、“蟲ふるう夜に”に夢中になっている。
(田島太陽)
「ご主人がうごかない もう5日になります」
そんな不気味なフレーズで始まる「犬」という曲。おそらくは死んでしまった主人のかたわらで、ずっと付き添い、状況が理解できずに泣き続ける飼い犬の心情が歌われている。この曲を作った“蟲ふるう夜に”というバンドが、ちょっとおもしろい。
まず説明すると、女性ボーカルの蟻(あり)を中心とした4人組。特徴的なバンド名の由来は「メンバー全員がムシケラみたいな存在だったから」ということらしい。蟻は両親が離婚し、車が大破する事故に合い、高校のクラスでは女子が自分ひとりという不遇の時代を過ごし、音楽に目覚めて専門学校に通うため上京。しかし今度は貧乏すぎて部屋を借りられず、公園やネットカフェで生活して過ごすことになる。そういった過去の経験を糧に「暗闇の中の光 弱さの中の強さ」というテーマに至り、バンドを組んで活動をスタート。だが、彼女は今でも、自分たちの曲以外はまったく音楽を聴かないそうだ。
曲でストーリーを語る手法は、極端な例で言えばミドリカワ書房が思い浮かぶし、BUMP OF CHICKENにもRADWIMPSにもミスチルにも似たような曲はある。ただ、この作品はアルバムを通してひとつの物語となっているのが特徴で、シリアスな場面や激情のシーンを経て、クライマックスに向かっていく。12曲を通して、映画や小説を体感するような作品だ。
ここまで読むとわかるかもしれないけれど、あえてこのバンドをものすごくわかりやすく言うなら、厨二病だ。
世界観が確立しているからこそ、にわか的に楽しむのは難しく感じられるし、空気に馴染めない人にはなかなか取っ付きづらい。
だけど、7月15日に渋谷O-Crestで行われたワンマンライブを見て、考えが変わった。
ナマで彼女たちの演奏を観て思ったのは、世界観や物語なんて小難しいことは抜きにして、曲がかっこいいってことだった。
■サウンドは、BiSの松隈ケンタプロデュース
ライブは「蟲の音」「蟲の声」を完全再現する二部構成で、プロジェクターでの映像や、蟻によるナレーションも交えながら、アルバムの世界観が表現されていた。
物語の場面によって時にはしっとり聴いたり、時にはガンガンにアガったりするコントラストが楽しい。メンバー自身が「厨二病ってよく言われるんすよ(笑)」と開き直ったように話すのを見て、“これでやっていく”という覚悟というか、頼もしさも感じられた。
特に、BiSなどを手がける松隈ケンタがプロデュースした「蟲の声」のサウンドは、力強くてラウドだけど、なぜかクセになる迫力がある。
満員のフロアではモッシュもダイブも巻き起こりながら、およそ3時間という長丁場で21曲を演奏。さらに客席からのアンコールには「なにも用意してなかったよ!」と苦笑いしながら、急遽あと2曲を披露。最後まで独創的な空気の中で、勢いあるライブを見せてくれた。
世界観や手法というのは伝えたいメッセージを届けやすくするための道具であって、それだけが大切なことではない。“蟲ふるう夜に”の曲は知識ゼロで聴いてもハマる人は多いと思うし、バックボーンに固執しなくても楽しめる。
イメージだけで「厨二病じゃん(笑)」と鼻で笑ってわかったフリをするのは簡単だ。でも「厨二病でなにが悪い!」と開き直って、自分たちのやりたいことを貫く姿勢のほうが、全然かっこいい。その思い切り具合が気持ち良くて、“蟲ふるう夜に”に夢中になっている。
(田島太陽)