<金沢達也 プロフィール>
脚本家。萩本企画所属。萩本欽一が主宰する欽ちゃん劇団に入団後、放送作家に転身。様々なバラエティ番組を手がける。その後、舞台などの脚本を手がけ、2009年に日本テレビ「華麗なるスパイ」で連続ドラマデビュー。2010年には『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』に脚本協力として参加。スピンオフ「係長 青島俊作 THE MOBILE 事件は取調室で起きている!」「係長 青島俊作2 事件はまたまた取調室で起きている!」では、単独で脚本を務めている。

写真拡大 (全2枚)

公開わずか3週で早くも動員250万人、興行収入36億円を突破した映画「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」。同時期にテレビ放映された「踊る大捜査線2 レインボーブリッジを封鎖せよ」「踊る大捜査線3 ヤツらを解放せよ」も高視聴率をあげ、改めて「踊るシリーズ」というコンテンツの強さを痛感させられる。
そんな「踊るシリーズ」に連なるのが、スマートフォン向け放送局NOTTVで放送されている「係長 青島俊作2 事件はまたまた取調室で起きている!」。9月1日に放送されたスペシャルドラマ「踊る大捜査線 THE TV SPECIAL」の1か月前、映画「踊る大捜査線 THE FINAL」の2カ月前の出来事が描かれている。3つの作品の時間軸が繋がっていることもあり、踊るファンならぜひともチェックしたい作品だ。
前作「係長 青島俊作 THE-MOBILE」に続きこの「係長シリーズ」の脚本を担当したのが脚本家・金沢達也。踊るシリーズの脚本家・君塚良一とともにこれまで「華麗なるスパイ」「ニュース速報は流れた」など数多くのドラマを手がけてきた脚本家に、踊るシリーズの作法や脚本の難しさをお聞きしました。前後編でお送りします。


《現場の雰囲気だけでも味わってみたくて》
─── 映画とともに、NOTTVでの公開中の「係長 青島俊作2」も話題を集めています。前作の「係長 青島俊作」もどこのレンタルショップを見ても貸し出し中でした。

金沢 おかげさまで「係長1」は織田(裕二)さんも気に入ってくれたみたいで、今回の「係長2」も書かせてもらえました。

─── 「踊る」の映画本編と「係長」は同時期に撮影しているんですか?

金沢 前回も今回も「係長」が一番最後だったみたいです。本編のセットを壊した後、取調室周りだけを残して、そこで撮るみたいな。だから、織田さんも結構疲れてらっしゃいましたね(笑)

─── でも、「係長 青島俊作」の中での青島は徹夜明けでフラフラ、という設定ですもんね。状況が重なっていて面白いです。そもそもこの「係長シリーズ」の脚本を担当することになった経緯は?

金沢 「踊る」ファミリーはやっぱり、壮大な、ビックネームばっかりですよね。その中に自分が入っているということがやっぱり信じられないですが……君塚に師事していた経緯もあって、なんとかその現場の雰囲気だけでも味わってみたくて、会議に出させてもらうことから始まりました。それが「踊る大捜査線3」のときですね。それで、「派生するコンテンツがあるけど、やってみるか?」という風にチャンスをいただいて。そこからはもう必死でした。

─── 「踊る大捜査線3」では<脚本協力>という肩書きで金沢さんの名前もクレジットもされています。<脚本協力>とはどういうポジションなんでしょうか?

金沢 まだ台本になる前、最初の1行2行のアイデアだしを、君塚を中心にどんどん出していくんです。ばーぁっと100個以上。

─── それは、シーンや会話の一部ですか? それとも、こんな事件が起きる、というような設定ですか?

金沢 もう、イメージだけですね。「オリンピック開催候補地がテロ集団に占拠された」という一文だけだったり、「青島のニセ刑事が現れた」「新しい刑事」といった“人”についてだったり。そういうのをどんどん出していくんです。

─── 確かに、「踊る大捜査線3」は鳥飼管理官(小栗旬)や、和久さんの甥っ子(伊藤淳史)など新キャラが数多く登場しました。それが今回の「FINAL」や「係長シリーズ」にもつながっていますね。

金沢 「踊る大捜査線3」の時はその中からいくつかネタを採用してもらえて、そのアイデアメモからプロット作りに移行する段階でもかかわらせてもらいました。君塚は、ちゃんと本編のストーリーを進めるプロットを、僕はその本筋になるべく刺激を与えるようなちょっとおバカなプロットや、明後日の方を向いているプロット、SF的なものとか、そういうカウンターとなるものをどんどん書いていきました。

─── 「踊る」シリーズならではの、レイヤーが重ねられて行く感じに通じますね。

金沢 そこから、ちゃんとした台本になる段階ではもう君塚が一人で書きます。そして僕はそこから「係長1」にシフトして、その本を書いていましたね。


《一番気に入っているのは、魚住課長と青島のラストのやりとり》
─── 「踊る」の現場は役者同士でコミュニケーションをとって、セリフも現場でどんどん変えていく、というような話をよく聞きますが、実際にそうなんですか?

金沢 本編のほうはわかりませんが、「係長シリーズ」は織田さん自身がものすごく熱を入れて取り組まれていたので、共演者の方をかなり巻き込んで臨んでいたみたいですね。

─── 今回の「係長2」は被疑者が次々と自首してきて青島がどんどん混乱していく過程も見所ですから。共演者とのやり取り・駆け引きは特に注目したいです。

金沢 セリフに関して言えば、クランクイン初日に挨拶にうかがったら織田さんがセリフの内容で悩んでいる箇所があって、僕が「今、直します」とその場で台本を手直ししたのが印象深かったですね。

─── 特に印象深いセリフ、エピソードはありますか?

金沢 一番気に入っているのは、魚住課長と青島のラストのやりとりですね。

魚住「それにしても不思議な事件だったね」
青島「ええ……誰かが誰かのことを想って、誰かのために行動した結果、それがもつれて生まれた事件」
魚住「もつれた糸は、ほどけたかな?」
青島「ええ、簡単に。もつれはしてましたが、どの糸も真っ直ぐでしたから」
魚住「そう」

という。

─── すごい! 完全に今、頭の中で2人のやりとりが再現されました(笑)

金沢 それと、好きなシーンというか見所のひとつなんですが、第3話にチンピラ役で出てくる「さらば青春の光」というお笑いコンビがいるんです。作家失格かもしれないですが、彼らのネタが面白すぎたので、許可を取って、その3話の別のシーンで使わせてもらいました。これには後日談もあって、 その「さらば青春の光」が、先日のキングオブコント2012で2位になったんですね。キングオブコントの事前番組でも「係長2」のその映像が使われたみたいで、余計に印象深いですね。

─── 取材なんかも結構綿密に?

金沢 被害者である商店街会長は、地上げに遭っているのに「何もしないでブラブラしているだけ」ということから商店街の人間から疎まれていたのですが、実はブラブラ歩くことで商店街の人間たちの声に耳を傾けていた、ということが最後にわかって和解する、というシーン。これは実際に、北区の大きな商店街の組合に取材をして聞いて出てきたことなので、特に印象に残っていますし、好きなエピソードですね。


《君塚と僕は、萩本欽一の兄弟子と弟弟子》
─── 金沢さんが「係長シリーズ」の脚本を作る上で、君塚さんや他のスタッフの方から「これは守ってください」だったり、「これが『踊る』らしさだ」といった指示を受けたりすることはありましたか?

金沢 いや、それがないんですよ。「踊るシリーズ」といえば、亀山・本広・君塚、の3人のイメージが強いと思うんですけど、この3人も基本的にノータッチ。

─── それは意外です。

金沢 ですよね! 「踊る」の一環なのに。だからこそ、逆にそれがプレッシャーでした。一度チェックして欲しいと思って、「進行状況を見てもらえますか?」と聞いてみたんですが、「いいよいいよ、そっちでやって」と(笑)。だから、自由な分、本当にプレッシャーでした。これは「踊る」に限らないことなんですが、アシスタント的に一緒に動いていた時から、君塚から具体的な「書き方」は教わったことがないんです。それよりも「生き方」を教えてもらった感じで。

─── おぉ、カッコイイ!

金沢 とにかく、「ズルをするな!」と。そうやって書き続けていれば、もちろん必ず成功するわけじゃないけど、大丈夫だと。だから、「踊るはこうだからこう書け」みたいのは一切ないんです。むしろ「それはお前がわかっているよな」と。

─── なるほど。

金沢 もちろん、たまに「それは違う」って言われたりもすることもありますけど、信じて任せてもらえている、ということは嬉しいことですよね。それに、何か言われてなくても、会議もずっと一緒に出させてもらっているので、わかってなくちゃダメだなって思いますよね。何よりも、君塚と僕は、萩本欽一の兄弟子と弟弟子に当たるので、そこは察しなきゃいけない。

─── 欽ちゃん劇団では、何か具体的に教わったことは?

金沢 大将自身がもう、具体的に何かを教える、という人ではなく、「察しろ」という考えの人なので。「勝手に盗め」とか、その伝統はありますよね。

─── 盗んで自分で考えろ、と。やっぱり、「聞いちゃダメ」って言うんですか?

金沢 言いますね(笑)。大将の明治座での舞台の脚本を書かせてもらったとき、100ページの台本を提出しても、1ページ目で「う〜ん……違う」と言って、あとの99ページは見てくれないんです。噂では聞いていたんですが、これがそうかぁと。普通なら「え、なんで?」とか「おかしい!」って思うかもしれませんが、でも、違うって言われたら、「わかりました」と言って、また100ページ書き直すしかないんですよ。

─── こう書き直せ、とかの指示もないわけですよね?

金沢 ないです。萩本に限らず、いろんな意見を言われたり怒られたりすることはありますけど、「それ違うだろ」って考えるよりも、どんどん先に進んだ方がいいと思うんですよ。途中で考えるんじゃなくて、とにかく「end」まで書いて、そこから悩む。誰かに相談する。それしか、書き続ける方法ってないですよね。

─── じゃあ、君塚さんに師事して、といっても、基本的には独学なんですね。

金沢 そうですね。だから変な話、ちゃんと脚本を学んだことがないんですよ。今年の1月、月9の「ラッキーセブン」の脚本を1本書かせていただいたんですが、月9のプレッシャーもあって初めて本を買ってみました。「シナリオの書き方」みたいの(笑)

─── 今更???(笑) 役に立ちました?

金沢 今までやってきたことがそんなに間違ってなかった、ってことはわかりました(笑)

(オグマナオト)

(後編に続く)