溝端淳平が二股愛? 野島伸司脚本の問題作「ウサニ」
野島伸司といえば大御所ドラマ脚本家。
恋愛ものもコメディもホームドラマも、オールマイティーだが、
共通点は常に問題作を描いているところ。
例えば、
途中でレギュラーのひとりが自殺(「愛という名のもとに」)。
教師と生徒の禁断の恋(「高校教師」)。
主人公の妹がレイプされる(「ひとつ屋根の下」)。
主人公が突如ブチ切れて公道で演説をはじめる(「ラブシャッフル」)。
などなど、なんでそんなことに!? いったいどうなるのー! という事件を描いて、視聴者をテレビの前に釘付けにしてきた。
近作の「理想の息子」も、極度のマザコン主人公の姿を描き、お茶の間を唖然とさせたものだ。
テレビドラマの限界ギリギリの表現に挑み続ける野島伸司が、
初めて舞台の脚本に挑んだ作品が「ウサニ」。
お話はシンプル。
主人公コーゾーが本当の愛を迷いながら見つけていくというもの。
しかし、やっぱり野島伸司作品。
描かれているのは、ドロドロ愛。
コーゾーは二股愛に悩み、その愛はやがて大きな事件へと発展していく。
演出は、「ひとつ屋根の下」を演出したフジテレビディレクター永山耕三。
しかも「ひとつ屋根の〜」で車イス少年を演じていた山本耕史も出演という、
往年のドラマファンには溜まらない顔合わせである。
そして、その世界を盛り上げていく音楽が、小室哲哉。
ややや……何やらスタッフの顔ぶれに、トレンディ(ドラマ)な香りがたちこめまくっておりませんか。
なぜ、今、そこ!? とある種のこわいもの見たさで見てきました!
先日、上演されたトレンディドラマの女王・北川悦吏子の初舞台脚本作品を見たときは、
まんま北川ドラマ!という印象だったが、はたして「ウサニ」は
……違った。
テレビドラマじゃ全然ない。
舞台は自由度がドラマよりもずっと高いから、イチゴの妖精や蛇の大魔王みたいなファンタジックなキャラクターを登場させて、脳内お花畑ならぬイチゴ畑な展開に(実際コーゾーはイチゴ農園を父親とふたりで経営している設定)!
悩める青年、愛と死などのおなじみのモチーフは登場する。
そう、この物語は、本当の愛とは何か? を問う作品なのだ。
愛は野島ワールドではなくてはならない要素。雨や風に翻弄されながらも求めてやまない、これぞ真の愛の形というようなものに、うっとりする人も多い。
今回は、愛について問うために、人間と妖精との愛が成立するかが試される。しかも妖精はウサギのぬいぐるみに憑衣している設定なので、はたしてコーゾーはぬいぐるみと恋ができるか!?という人生の選択を迫られるのである。
このシュールな状況を真面目に演じる難しい役どころであるコーゾーは、溝端淳平。
ぬいぐるみウサニに憑衣した妖精(ピン)は、平野綾と真野恵理菜のダブルキャスト(私が見た日は平野さんでした)。
コーゾーを肉体的な魅力で虜にしてしまう魔性の女レーコは高岡早紀。
山本耕史は、キングスネーク。
コーゾーのお父さんに、温水洋一。
特筆すべきは、山本耕史。金色の長い尻尾をつけた舞台ならではのコスチュームプレイを担当するが、舞台慣れしているので、さすがのオーラ。
王様の貫禄を発揮しつつ、ところどころアドリブらしき笑いを入れる余裕も見せた。
彼らが飛び回るイチゴ畑な世界を作ったスタッフワークも豪華。
ファンタジックな装置は野田秀樹、三谷幸喜や劇団☆新感線の舞台装置を手掛ける堀尾幸男、
ロマンチックな照明は、野村萬斎作品などを手掛ける小笠原純、
衣裳は、アーティストとしても活躍する、ひびのこづえ。
舞台ファンにはたまらない名匠たちによるビジュアルは、可愛くて毒のある夢世界に引きずり込んで離さない。
このへんは舞台ならではのお楽しみだが、「ウサニ」の凄いところは、舞台ってこういうものという認識すら飛び越えていたことにある。
というのは、コーゾーの台詞が異様に長い!!
あんたは、ハムレット(舞台だけどさ)か? と言いたいくらい何度も何度も長々としゃべるのだ。
これは、元が小説であることに起因しているようだが、小説ならアリの長いモノローグを溝端淳平が、意外にもサラリと聞きやすい発声で語るので、引っかかりなく聞けてしまう。
これはあっぱれ。
ところで、溝端淳平が男性でありながら、生理用品のCMに出ていることが気にならないだろうか?
ギリギリのバランスでナプキンの画像と共存する、彼の精神性と技術が、独特の美学渦巻く野島世界でも大いに発揮されたとも言えそうだ。
溝端が淡々と語る愛の哲学について、正直最初は、浮気が止められない男がくどくど言い訳をしているだけなのでは〜?と勘ぐった。
でも、結局、うん、うん、そうだね、愛ってそうだといいよねえ〜って思わされてしまう。
後半、ええ! そんな! ナニソレ!っていう展開になっていくが、
台風一過の日のように、
カーテンコールでは多くのお客さんがキレイな気持ちになっているようだった。
あれ、もしかして、男はこうやって浮気を正当化するものなの???
まあ、試しにひとつ、野島の言葉の魔力と格闘してみてほしい。
魔性キャラ・レーコの肉体と同じく、抗えないものがありますから。
(木俣冬)
恋愛ものもコメディもホームドラマも、オールマイティーだが、
共通点は常に問題作を描いているところ。
例えば、
途中でレギュラーのひとりが自殺(「愛という名のもとに」)。
教師と生徒の禁断の恋(「高校教師」)。
主人公の妹がレイプされる(「ひとつ屋根の下」)。
主人公が突如ブチ切れて公道で演説をはじめる(「ラブシャッフル」)。
などなど、なんでそんなことに!? いったいどうなるのー! という事件を描いて、視聴者をテレビの前に釘付けにしてきた。
近作の「理想の息子」も、極度のマザコン主人公の姿を描き、お茶の間を唖然とさせたものだ。
初めて舞台の脚本に挑んだ作品が「ウサニ」。
お話はシンプル。
主人公コーゾーが本当の愛を迷いながら見つけていくというもの。
しかし、やっぱり野島伸司作品。
描かれているのは、ドロドロ愛。
コーゾーは二股愛に悩み、その愛はやがて大きな事件へと発展していく。
演出は、「ひとつ屋根の下」を演出したフジテレビディレクター永山耕三。
しかも「ひとつ屋根の〜」で車イス少年を演じていた山本耕史も出演という、
往年のドラマファンには溜まらない顔合わせである。
そして、その世界を盛り上げていく音楽が、小室哲哉。
ややや……何やらスタッフの顔ぶれに、トレンディ(ドラマ)な香りがたちこめまくっておりませんか。
なぜ、今、そこ!? とある種のこわいもの見たさで見てきました!
先日、上演されたトレンディドラマの女王・北川悦吏子の初舞台脚本作品を見たときは、
まんま北川ドラマ!という印象だったが、はたして「ウサニ」は
……違った。
テレビドラマじゃ全然ない。
舞台は自由度がドラマよりもずっと高いから、イチゴの妖精や蛇の大魔王みたいなファンタジックなキャラクターを登場させて、脳内お花畑ならぬイチゴ畑な展開に(実際コーゾーはイチゴ農園を父親とふたりで経営している設定)!
悩める青年、愛と死などのおなじみのモチーフは登場する。
そう、この物語は、本当の愛とは何か? を問う作品なのだ。
愛は野島ワールドではなくてはならない要素。雨や風に翻弄されながらも求めてやまない、これぞ真の愛の形というようなものに、うっとりする人も多い。
今回は、愛について問うために、人間と妖精との愛が成立するかが試される。しかも妖精はウサギのぬいぐるみに憑衣している設定なので、はたしてコーゾーはぬいぐるみと恋ができるか!?という人生の選択を迫られるのである。
このシュールな状況を真面目に演じる難しい役どころであるコーゾーは、溝端淳平。
ぬいぐるみウサニに憑衣した妖精(ピン)は、平野綾と真野恵理菜のダブルキャスト(私が見た日は平野さんでした)。
コーゾーを肉体的な魅力で虜にしてしまう魔性の女レーコは高岡早紀。
山本耕史は、キングスネーク。
コーゾーのお父さんに、温水洋一。
特筆すべきは、山本耕史。金色の長い尻尾をつけた舞台ならではのコスチュームプレイを担当するが、舞台慣れしているので、さすがのオーラ。
王様の貫禄を発揮しつつ、ところどころアドリブらしき笑いを入れる余裕も見せた。
彼らが飛び回るイチゴ畑な世界を作ったスタッフワークも豪華。
ファンタジックな装置は野田秀樹、三谷幸喜や劇団☆新感線の舞台装置を手掛ける堀尾幸男、
ロマンチックな照明は、野村萬斎作品などを手掛ける小笠原純、
衣裳は、アーティストとしても活躍する、ひびのこづえ。
舞台ファンにはたまらない名匠たちによるビジュアルは、可愛くて毒のある夢世界に引きずり込んで離さない。
このへんは舞台ならではのお楽しみだが、「ウサニ」の凄いところは、舞台ってこういうものという認識すら飛び越えていたことにある。
というのは、コーゾーの台詞が異様に長い!!
あんたは、ハムレット(舞台だけどさ)か? と言いたいくらい何度も何度も長々としゃべるのだ。
これは、元が小説であることに起因しているようだが、小説ならアリの長いモノローグを溝端淳平が、意外にもサラリと聞きやすい発声で語るので、引っかかりなく聞けてしまう。
これはあっぱれ。
ところで、溝端淳平が男性でありながら、生理用品のCMに出ていることが気にならないだろうか?
ギリギリのバランスでナプキンの画像と共存する、彼の精神性と技術が、独特の美学渦巻く野島世界でも大いに発揮されたとも言えそうだ。
溝端が淡々と語る愛の哲学について、正直最初は、浮気が止められない男がくどくど言い訳をしているだけなのでは〜?と勘ぐった。
でも、結局、うん、うん、そうだね、愛ってそうだといいよねえ〜って思わされてしまう。
後半、ええ! そんな! ナニソレ!っていう展開になっていくが、
台風一過の日のように、
カーテンコールでは多くのお客さんがキレイな気持ちになっているようだった。
あれ、もしかして、男はこうやって浮気を正当化するものなの???
まあ、試しにひとつ、野島の言葉の魔力と格闘してみてほしい。
魔性キャラ・レーコの肉体と同じく、抗えないものがありますから。
(木俣冬)