『文学少女図鑑/萩原收』(2012年7月24日発売/アストラ)51人×3冊の愛読書を女の子たちが自分の言葉で語る。登場するのは、ごく普通の学生から会社員、女優、シンガーソングライター、刺繍作家、紙芝居屋さんなど様々。巻末には中森明夫の書き下ろしコラムもあり。

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電車の中で本を読んでる女の子がいると、どんな本を読んでるのか、そのタイトルが知りたくなる。手に持った本の背表紙のタイトルを読み取ろうとして、腰を前にせり出し、視線を下げる。ずりずりずりっと下がっていって、とても不自然な姿勢になる。これじゃパンツ覗こうとしてるオジサンだ。

そんな鉄道公安官に逮捕される危険と紙一重の趣味をもつワタシに朗報。本を読んでる女子ばかりを写真に撮り集めた写真集『文学少女図鑑』が出たのです。

元となったのは、2011年の6月に自費出版で発行された『文学少女 vol.1』という小冊子。企画、編集、撮影までこなした作者の萩原收氏が文学フリマに出展していて、そのときにワタシも入手した。この自費版では、25人の女の子が自分の愛読書を手に登場している。紙に印刷された写真でありますから、女の子たちがどんな本を読んでいるのかジロジロ見ても怒られたりはしない。

そして、基本のコンセプトはそのままに、女の子の数を51人と大幅に増やしたのが今回の『文学少女図鑑』だ。ま、女の子が増えたというそれだけでも十分うれしいのだけど、今回、変更が加えられたなかで最大のポイントは、女の子たちがそれぞれ採り上げた3冊の好きな本について、“自分の言葉”でコメントを寄せていることだ。

たとえば『人間失格』に対して、愛読者のなつみさん(22歳)はこう言う。
「自分の人間としての存在価値が分からず、本当の自分を出せずに、人に好かれようと道化になるこの本の主人公は誰もの心の中にいるのではないかと、そう感じた本」と。
太宰は自分の姿を主人公・葉蔵に投影したのだと思うが、それを読んだなつみさんもまた自分自身に重ねあわせているのだ。キュンとなっちゃうね。

『試みの地平線』を採り上げた有紀子さん(25歳)は、こんなことを言う。
「男に嫌気がさしたときに読むと、男性のダメなところについて北方謙三氏が怒ってくれたり、あるいは女性に対してごめんね〜許してね〜と言っているような気がして面白い」
髭のプレイボーイおやじの術中にまんまとはまる有紀子さんの素直さにヒヤヒヤしたりして、感情が揺さぶられてしまう。

あるいは『電波系』を手にする望さん(23歳)は、こうだ。
「根本さんのアヴァンギャルドなイラストや描き出す真理、村崎さんの愛のある文章にひき込まれる」
いや、さすが。お若いのにわかってらっしゃいますな。こういう女の子がいるということに、おじさんとても頼もしい気持ちになりますぞ。

この他、女の子たちが持ち寄った本は、それこそ石田衣良から桜庭一樹、伊坂幸太郎、辻仁成といったいかにも女の子が読みそうな作家もあれば、山田風太郎、内田百けん(門構えに月)、岡倉天心といったドシブい作家もある。本=読書への入り口はいろいろあるが、まさしくそのことを実感させてくれる。

本棚というのは、その人の頭の中身を表している、とはよく言われる。人は本から得た“知”を脳内に溜め込んで、自分自身の知性や教養や人格を形作ってゆく。だから、その人の読書遍歴をそのまま形にした本棚というものは、その人の脳内地図そのものでもある。

人の家の本棚を見るという行為には官能的な興奮があるものだが、それは単なる野次馬趣味を越えて、人の心の奥に触れることができるからだ。そして『文学少女図鑑』は、本棚とはいかないまでも、選び出された3冊によって女の子の内面の一部を垣間見ることができる。そんな魅力のある本だと言える。

なお、巻末には中森明夫氏によるコラムが掲載されていて、これも見逃せない。本を読む女の子のもつ“甘酸っぱさ”と“凛々しさ”を、いつものトンガリ文体で見事に表現していて、その方向性のブレなさに感服した。(とみさわ昭仁)