SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜
2012年8月1、2、3、6、7日
13時55分〜15時50分 TBS 関東ローカルで再放送

鑑賞のおともに、「SPEC公式解体新書」(角川書店)より発売中

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ジミジョ(地味女)でいいかも〜!
なぜって、今期(2012年7月期)の連続ドラマでは、地味女(ジミジョ)が活躍しているんですもの。ちなみに地味な男性はジミメン。
これは地味目なスーツや制服姿のヒロインのことであります。
例をあげますと、「リッチマン、プアウーマン」の東大生役・石原さとみさん、「トッカン 特別国税徴収官」の国税徴収官役の井上真央さん、「ゴーストママ捜査線〜僕とママの不思議な100日」の警察官(であり幽霊)役の仲間由紀恵さんなどです。
みな、夏だというのに黒っぽい服を着て、髪も黒のストレート(仲間さんは若干ウェーブをかけていますが、ひっつめ)。
彼女たちは一様に生真面目で一生懸命。でも華やかさには控えめです。といってもこれは、あくまで役の上です。演じている女優さんは皆、大変お美しい方たちです。
 
この地味ヒロインブーム、どうしたってにじみ出てしまうキラキラ感をあえて封印し、演技で勝負したいという女優たちの向上心の表れでしょうか。
そういえば、久々のお化けヒットドラマ「家政婦のミタ」(11)の松嶋菜々子さんのファッションやメイクもかなり地味でビックリでした。
仲間由紀恵さんは地味ヒロ道の先駆者的存在で10年も前に「ごくせん」(02)でジャージにメガネで人気を博しておりました。
 
ドラマのヒロインといえば、持ちものや着ているものをマネしたい!と思わせるオシャレリーダーのような印象が強かったものですが、地味ヒロインが徐々に増えてきているような気がするのは、社会の状況が変わりつつあるのかもしれませんね。
まさか憧れファッションに着飾る予算がないなんてことは考えたくありませんし。あくまで人々のニーズの変容であると。
でも、キュークツで先の見えない毎日を生きている象徴だったら、いやですねえ。
いやいや、変化というよりコンサバ化かもしれません。
地味なスーツもいわば拘束系。昔から制服という拘束着は愛されてきましたから、地味ファッションもそのひとつだったりして。
「リッチマン、プアウーマン」の石原さとみさんの白衣なんて完全にフェチっぽいです

そんな地味ヒロ道に革命を起こしたヒロインと女優がいます。
8月1日から再放送される「SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜」(10)のヒロイン当麻紗綾と彼女を演じた戸田恵梨香さんです。
戸田さんはこの役を演じるにあたり、スッピンに近いメークで、髪はボサボサ、衣裳はグレーの上下という飾らなさにこれでもかと挑んでいました。
食事といえばギョーザ(ニンニク増量)。しかも女のひとりギョーザです。
言葉使いも乱暴。地味とか庶民とかそういう問題ではなく、ちょい野蛮な雰囲気を漂わせていたのです(本人ではありません! 役のことです!)。
今春公開されて大ヒットした「劇場版 SPEC〜天〜」(12)では新潟ロケでついてしまった虫さされの跡まで大スクリーンにさらしていましたし、先頃、第一回ソーシャルテレビ・アワード大賞(日経デジタルマーケティング、ならびに日経エンタテインメント!主催)を獲ったスペシャルドラマ「SPEC〜翔〜」(12)では、(巣鴨あたりで売ってる)赤いパンツをはいているとか、太くて長い剛毛な耳毛が生えているとかいう設定にされていました(本人ではありません! 役です!)。

「SPEC」シリーズの人気の要因は多様で、いずれまとめてみたいと思っていますが、戸田恵梨香さんのなみなみならぬ役への取り組みも重要な点のひとつであると言えましょう。

さて、人気ドラマ「SPEC」についてさくっと説明しておきます。
 警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係という、いやに長い名前の部署は、通常の部署では対処できない、超能力者による犯罪などを取り締まるために設置された部署。そこに所属する当麻紗綾と瀬文焚流(加瀬亮)がSPECという特殊能力をもつ者たちの犯罪に挑んでいきます。
その捜査の中で、当麻の弟(神木隆之介)がSPECを使った犯罪に関わっていることがわかります。そして、当麻にもSPECがあるのでは、という疑念が……。
 ドラマから映画化されたものの、当麻やSPECの全貌はまだまだ明かされておらず、ファンをやきもきさせています。

戸田さん演じる当麻紗綾は、京大卒の天才刑事。特殊能力ももっているらしいのですが、グレーのスーツ、ボサボサ髪、抑えめメイクは地味ヒロの典型です。
なのに、なぜか目が離せない不思議に強い磁力を発しています
腕には白い包帯、そして赤いキャリーバッグ。
そういうのがなんだか気になります。
ひとつひとつは日常にあるアイテムともいえるし、フェチアイテムとも言えます。ですが、それらをいろいろ組み合わせると、何かへんな感じがしてきませんか。
間違い探しをしたくなるような感じが。
全然間違っちゃいないのに。
そもそも間違いってなんなのでしょ?
当麻紗綾の言動を見ていると、地味とかオシャレとか、正義とか悪とか、真実とか嘘とか、視聴率の高い低いとか、売れてるとか売れてないとか、そういうことへの既存の物差しが疑わしくなってくるのです。
 
当麻には、そういうのどうでもいい、私は私だー!っていうエネルギーを感じます。
女のひとりギョーザという地味な行動にも市民権を与えてくれた当麻。
少なくとも私は、当麻のおかげでそれをやることができました(泣笑)。

そもそも人間の能力を超えたSPECという概念の前には、それまでの常識は通用しません。
そこが、このドラマのワクワクするところです。
いくらでも、ありえないことを起こすことができるのです。
西からのぼったお日様が東に沈んだって、これでいーのだ!という土台をつくってあるわけです。

だからこそ、第一回ソーシャルテレビ・アワード大賞も獲ったのでしょう。
ドラマの視聴率はそれほど高くなかったけれど、ツイッターを使ってファンと交流したり、「翔」のときはデータ放送とツイッターを連動させて放送を盛り上げたりして、映画をヒットに導いたことが評価されたのですね。
特にありえない感じだったのは、植田博樹プロデューサーは、白いつぶやきも黒いつぶやきも、区別なく発していたこと。言っていいこと悪いことって何? って感じの暴れん坊プロデューサーとして名を馳せました!?
私に語りかけてくれた名つぶやきは「キープオン毒っキン」。あ、これはSPECアカウントじゃなかったか・・・

毒と言っても、これは毒かなあと手を出せなくてドキドキしていることに対して、この毒は大丈夫、致命傷にならないよ、むしろ薬だよってカラダを張って教えてくれているようなところもあるかもしれないです。
当麻もそんなヒロインのように思います。
こうやって、見る人をビックリさせ続ける「SPEC」。
しかも、見るたびに、あ、こんなスパイスも入ってた、というような気付きがあって、マスター、どれだけ何十種類ものスパイス使っているんですか?と聞きたい感じ。
 
盛り上がった定形外公式アカウントを閉めるというつぶやきが7月31日にあったものの、新展開に期待したいし、続編はぜひともつくっていただいて、地味ヒロの概念を超えた当麻紗綾には、今後もヒロインの概念をどこまでもアップデートしていっていただきたいものであります!
(木俣冬)