『性別なんて決められない!』矢吹レオ/竹書房
女であり男でもある作者に、大好きな女の子の恋人ができた……さて自分の性別はどっちだ? 心も身体も本当に思ったとおりにいかなくて悩み苦しむ様子をそのまま描いたノンフィクション『性別なんて決められない!』は、読んだあとにちょっとだけ元気がもらえるマンガ。

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タイトルがもう全てを物語ってますね。『性別なんて決められない!』。
これ聞いてぼくは「あー」と妙に納得してしまってすぐに手に取りました。
何を納得したかって? うーん。
他人事じゃないってことなんですよ。
性がテーマですが重たい内容ではないです。読んだ後少しだけ元気が出ます。

この漫画は性分化疾患を持った本人のノンフィクション。
性分化疾患は性同一性障害とは別です。インターセックス、半陰陽などとも言われますが、遺伝子や染色体の異常で「男性」「女性」の分類ができない人のことです。
マンガ『性別が、ない!』などが有名ですが、そちらがギャグよりだとしたらこの作品は、等身大の性分化疾患者が恋愛をしたらこんな感じ、という非常に素直で、いい意味で飾らない作品なんです。

そもそも性分化疾患って、なかなか人には言えないもの。もちろん「きにすんなよ!」という世間一般の優しい目もありますが、そうじゃないんですよね。
「心も身体もどっちつかずなことが、こんなに辛いとは思いませんでした」
身体は男性のように、体毛が増えたり変声期が来る。けれども戸籍上は女性で外見も女性。恋愛対象は女の子で、男性的思考。とはいえ完全に性別を男にしたいというほどではない。
検査の結果、片側に卵巣、片側に精巣があるということまで判明。卵子も精子もつくられていないので妊娠することもできない、女性相手に子供を作ることも出来ない。
ズズーンを重くなりますが、それでも「どっちでもいいやー!」って言えちゃえば、いいんですよ。実際そういう人もいないわけじゃないです。
ところがそのままにしておくとホルモンの影響で身体によくないため性別を決め、ホルモン治療をしていく必要があると医師に言われます。
さてどうする。

まだこの段階ではそこまで悩みは進行していないのがこの作品の興味深いところです。いやもちろんおおごとなんですよ。
実際本人も悩みつつも、ホルモン治療が体質にあわず何度か中断していたりもします。簡単ではないんです。
でも最大のポイントは、ネットで出会った女性なっちゃんとの恋愛で、自分がどちらの性を選ぶべきか悩む、というところです。
恋愛なんですよ、そうだよ、人間やっぱりそこでしょう。

そもそも作者矢吹レオは性分化疾患ですが、見た目は女性。写真も載ってますよ。
男性ホルモンが分泌して男っぽい体型になることもあるそうですが、「普通の男女ととくに変わらない」「外見だけで『性分化疾患』だと判断することは出来ない」と述べています。
性分化疾患の人はみんな男か女かで迷っているかという質問にも、「みんながみんなそういうわけではありません」と述べています。「ただ身体が変化したり、ホルモンの影響により、性に揺らぎが生じることはあるんじゃないかな」とも。

性分化疾患について色々詳しい話が載っているわけではないです。しかしあまり知られていないということもあり、描かれていることがごく普通の日常なだけに、興味深い部分が多いです。
普段はボーイッシュな格好をしているけれども、男性に見てもらえないとか。
男になるぞ!と意気込んだ途端身体が急に女性化して困っちゃったりとか。
女性のホルモン治療をしはじめたら、胸が張りすぎて痛くて仕方ないとか。味覚の変化があるとか。
男性・女性ホルモンのバランスの問題でそんなところまで変わるのか……ちょっと驚きました。

恋人のなっちゃんは、女性が好きなレズビアン。作者は彼女のセクシャルマイノリティの悩みに出会って共感し、ネットでやりとりをして仲良くなりお付き合いがはじまった、というのが発端。
ある意味幸せを求めて動き出すために作者はなっちゃんと付き合い始め、それはもうラブラブになるのです。
と同時に「なっちゃんといるためには、男性になるのか? 女性になるのか?」という問に向き合わないといけなくなるわけです。

もう作中には色んな人が出てきます。
インターセックスについて「普通じゃないってー!!」といってトラウマを植えつけてしまう友人、女性的な趣味が多くオカマと言われることもあった男友達、詳しい状況をまだ知らない両親。
簡単に自分の性別や恋愛を話すことができない難しさ、体調や情緒が自分ではどうにもできないくらい不安定になる現実、それらが包み隠されず、かといっておおげさにもされずストレートに描かれます。

こういう内容の作品はどうしても繊細になるんですが、興味本位で読むのでいいと思います。
だって分かるわけ無いんですから。全く同じなんてことないんですもの。
「性分化疾患ってなんだろう?」という興味で読んでみてください。
なんでこんなにすすめるかというと、読み終わったあとに、意外にもすごく心がスーっとするからなんですよ。
一応「男」とか「女」とかあるけれども、「普通」というものはない。あるとしてもマイノリティが否定されるわけじゃない。作者が最終的に選んだ選択はぜひ見て欲しいです。
「自分らしい」を見つけるのは本当に難しいけれども、それって誰もが感じていること。
「「男」とか「女」とかじゃなくて「自分らしく」いられたら、それが一番いいんだけどなぁ」という一文はぐっと残るものがあります。そう感じている人にはストンと入ってきますし、そうじゃない人でも「そういうこともあるのか」と感じてもらえるはず。
マンガとしても非常に面白いので、作者がまたなんらかのかたちで、続編を描いてくれるのを期待したいところです。

矢吹レオ『性別なんて決められない!』
(たまごまご)