球界の大先輩、江夏豊氏に2000本安打達成を報告するヤクルト宮本。守備の人が史上最年長で達成した大記録、その原点を語る

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5月4日の広島戦で、2000本安打を達成した東京ヤクルトスワローズの宮本慎也内野手。大学(同志社)〜社会人(プリンスホテル)を経てプロ入りした選手としては、同じくヤクルト一筋だった古田敦也氏に次ぐ2人目という快挙だ。

宮本といえば、プロ17シーズンでゴールデングラブ賞を9度獲得した守備の名手。2000本安打を達成する3日前の横浜DeNA戦で失策をするまで、三塁手の連続守備機会無失策のセリーグ記録257を更新していた。その安定感ある守備はチームの精神的支柱でもあり、現在スワローズでチームリーダーを務めるだけでなく、06年のWBC、08年の北京五輪では日本代表をまとめあげる役割を担っていた。

その“守備の人”である宮本を、“打撃の人”と評する人物がいる。通算206勝の大投手、江夏豊氏だ。5月28日発売の『週刊プレイボーイ』でふたりが対談をしている。

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江夏 実は17年間で5回(規定打席到達年のみ)も3割を打ってるんだよね。「守備の人」と言われてきたけど、とんでもない。「打撃の人」だよ。

宮本 いやいや、そんなことないです(笑)。僕は脇役というか、敵ピッチャーに球数を投げさせたり、進塁打を打ったり、そういうことでも勝利に貢献して、首脳陣やチームの信頼を得ようと思ってやってきましたから。数字へのこだわりはないんです。

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宮本に打撃を教えたのは、1950年代に西鉄(現西武)で強打者として活躍し、引退後は多くの球団で監督・コーチを歴任した中西太(ふとし)氏。1999年、若松勉氏がヤクルトの監督に就任した際、中西氏が春季キャンプに臨時コーチとしてやってきて、宮本につきっきりで打撃を教えた。そこでバッティングに対する考え方が変わったと、宮本は言う。

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宮本 僕は非力だったので詰まることを恐れていたんですが、中西さんは「自分のポイントまで引きつけて打て。そのためには詰まることを怖がっちゃダメだ」と。実際、練習をやるうちに、バットの先っちょで打つより、詰まったほうがバッティングの形としてはいいんだと思えたんです。引きつけることで、低めの変化球の見極めもよくなりました。

江夏 例えば胸元を攻められて、詰まってバットを折ったとする。ピッチャーの立場から言うと「してやったり」だ。でも、あなた自身はそうじゃないと?

宮本 たとえバットを折られても、自分の“軸”ができたなかで詰まったのであれば、形としては悪くないんです。次の打席にもあまり影響しないですね。

江夏 しかし、あなたと中西さんは打者としてのタイプが全然違うよね? それでも、打つことに変わりはないということかな。

宮本 すべてを中西さんの型にはめることなく、選手ごとに合った教え方をされていたと思います。

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2000本安打を達成できたのも、中西氏との「巡(めぐ)り合い」だと語る宮本。江夏氏は、「若い人たちに技術だけでなく、プロとしての精神も指導してほしい」と期待している。

(撮影/山形健司)

■週刊プレイボーイ24号「江夏豊のアウトロー野球論特別編 宮本慎也対談」より