『あなたは自分を利口だと思いますか?』(ジョン・ファーンドン著、小田島恒志、小田島則子訳/河出書房新社)オックスフォード大学・ケンブリッジ大学の入試面接の難問奇問を集めた一冊

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「あなたは自分を利口だと思いますか?」と、面接で聞かれたら、あなたは、どう答えるだろう?
うううむ。
悩む。
普段なら「いやー利口だなんてとてもとても、ドジでねぇ」と日本人の美徳的謙虚さでもって答えて、最近のドジ話でもしてしまうだろう。
だが、面接の場合だとそうもいかない。
この問題は、ケンブリッジ大学の面接問題だ。
だから、謙虚に「いいえ」と答えたら、入学できないかもしれない。大学は、もちろん利口な人間をとりたいだろう。

ジョン・ファーンドン著/小田島恒志・小田島則子訳 『あなたは自分を利口だと思いますか?』は、こんな意地悪な問題や、思考力を刺激する問題、あっと驚く問題など、バラエティあふれる質問が満載の本だ。
問題はすべてオックスブリッジ(オックスフォード大学とケンブリッジ大学)入試の面接官が出した難問奇問から選りすぐったものだ。

他にどんな問題があるのか、いくつかピックアップしてみよう。

蟻を落とすとどうなりますか?(オックスフォード大学/物理学)

もし全能の神がいるとしたら、彼は自身が持ち上げられない石を造ることができるのでしょうか?(オックスフォード大学/古典学)

歴史は次の戦争をとめ得るでしょうか?(ケンブリッジ大学/歴史学)

もし、地面を地球の裏側まで掘って、その穴に飛び込んだらどうなりますか?(ケンブリッジ大学/工学)

幸せだ、とはどういうことですか?(オックスフォード大学/哲学、現代言語学)

世界に砂粒がいくつありますか?(オックスフォード大学/物理学)

コンピューターは良心をもつことができるでしょうか?(オックスフォード大学/邦楽)

『ハムレット』はちょっと長いと思いませんか? まあ、私はそう思いますが。(オックスフォード大学/英語英文学)

私には考えがある、とあなたに思わせるものは何ですか?(オックスフォード大学/数学、哲学)

わー、どう答えろって言うんだ。こんな質問を面接でされたところを頭でシミュレートすると呆然とする。
だが、これは本だから、あたふたする必要はない。じっくり考えられる。
考えはじめるとおもしろくなる。どう答えてやろうか。
“びっくりするような質問もあれば、好奇心がそそられる質問も、奇問も愚問も、ときには苛々させられるだけの質問もあるが、すべてに共通して言えるのは、考えなくてはいけないということだ。そして、それはそう滅多にあることではないから、たちまち楽しくなってくる。私は何問かためしに友だちに出してみた。みんなはまず爆笑するが、その後はどんどんいろいろな考えが出てきて止まらなくなる。”
本を開いて、お気に入りの質問を見つける。その日、いちにち、ちょっと空いた時間や、退屈な会議なんかの間に、あれこれ考えてみる。楽しい。

しかも、しっかりと答えも載っている。答えといっても、もちろん「正解」があるような問題ではない。それぞれ違う答えを発見することができるような問題だ。
だから、“できるだけ中立な答えを出して、読者に考える余地を残そうとした努力”をした答えが、ついている。
いや、しかし、哲学、物理学、歴史学、法学、工学、経済学、さまざまなジャンルの問題を、著者ひとりが答えられるものなのか。と疑問に思うが、解説を読んで納得する。
著者のジョン・ファードンは、“現代中国やインドのドキュメントから医療問題や地球の仕組みを解いた科学書、児童書まで、ジャンルを問わぬ博識をもって三百冊以上の本を出しているノンフィクション作家”なのだ(そしてケンブリッジ大学卒だ)。
たとえば、
ここに3リットル用の水差しが一つと5リットル用の水差しが一つあります。4リットルを量りなさい。(オックスフォード大学/数学)
という問題。
映画『ダイ・ハード3』にも出てくる問題だと指摘して、どうすれば量れるのか、答えを示す。示したその後で、“互いに素である数字の引き算に基づく古くからある算数の問題である”と記し、ユークリッドが二千三百年前に見つけた解法を紹介、最後にそれを数式で表す。
“ここに載せた質問に答えるには利口でなければならない――それも、驚くほどに、面白いほどに、刺激的なほどに、苛つくほどに、ずる賢いほどに、有害なほどに、底知れないほどに、すばらしく利口でなければならない。知識ではない。教養でもない。自分の思考をあらゆる方向に面白くひねり回せるかどうかである。”
『あなたは自分を利口だと思いますか?』を使って、思考をあらゆる方向にひねり回して楽しんでみよう。
さて、質問。
あなたは自分を利口だと思いますか?(米光一成)