この好調には工藤浩平も寄与している。ゲームメイクの中心となる期待を寄せられていた工藤は1月に左膝前十字靭帯を損傷し、開幕前にチームを離脱。その彼が西京極で初めて先発フル出場を果たしたのは10月19日のJ2第6節対コンサドーレ札幌戦だった。工藤は前半38分に4-0大勝の口火を切る先制点を決めている。そこからリーグ戦終了までの京都は天皇杯三回戦を含めれば9勝1敗の結果を残した。

工藤を含めて役者が揃った現在のサッカーとは、具体的には、猛烈なプレッシングで相手ボールを狩り、パンパンパン、とすばやいワンタッチのパスを廻し、オフサイドにかからないダイアゴナルな動きでウラのスペースへと抜け出して枠へとシュートを撃つというものだ。ラストパスの鋭さとフィニッシュの動き、シュート精度の質が今季前半よりも向上した。

強く早く正確なロングボールを強靭な巨人がやりとりするサッカーが欧州にあるように、非力でも巧い日本人がボールを奪われずにフィニッシュまでいくためのパスサッカー論法。

巷では「守備がザル」とも言われるが、これはある意味で当たっている。
正確には、常に自分たち主体で試合を動かすことを目的とする「うしろを振り返らない」サッカーであるため、フィニッシュに持ち込んで相手エンドの端まで行ききらないと、よくないかたちでボールを奪われて失点しがちになるということ。

開幕当初に3-4-3を採用した理由のひとつには、うしろの枚数を薄くしてでも中盤から前を厚くして支配権を握る狙いもある。

セットプレーで点が獲れているというディテールも重要だが、狙いどおり、自分たち主体のサッカーができているかということのほうが重要だ。準決勝ハーフタイムのインタビューで、前半は攻勢でしたねと声をかけられた大木監督が「攻勢でもなかったですね。30分以降は少しよくなった」と返したのは、自分たちのサッカーができているかどうかを基準に判断しているからだろう。

■京都のプレスをかいくぐったFC東京

決勝の対FC東京戦は9月の味スタの再現になるかと私は思っていた。つまり京都のプレッシングが東京を襲い、京都に自陣内まで攻めこまれて瀬戸際で東京が守るという構図を予想していた。

ところが実際には、キックオフから東京が京都のプレスを受けることなく、ボールを渡さずに攻撃しつづけた。なぜ京都は主体的にプレーできず、東京が主導権を握る状態になったのか。

京都にとっては、たとえ失点しても自分たち主体で試合を運んだほうが狙いに近かったはず。それが相手に主導権を渡して先制したのでは、まるであべこべだ。

なぜ主体的にプレーできなかったのか。試合後の共同記者会見で大木監督に直接問うと、こう答えられた。
「サイドのスペースでスタートを切るのが、東京は早かったですね。椋原(健太)君と徳永(悠平)君。そこについていけなかったですね。ついていけないと言っても、最後のところでなんとかなるかなという気はしていましたけれども、そこはちょっと問題かなと。
それからもうひとつは、うしろが出てくる前に、右サイドは石川(直宏)君が非常に速かった。そこは、ほんとうにピンでちぎられていたと思います。そこで後手を踏んだと思います」

12月の天皇杯三試合を見れば、東京の攻め手は石川の一手、そこに対策さえ施せば封じられると考えるだろう。ところが石川のスピードが予想以上だっただけでなく、大木監督が言うように両サイドバックの出来が尋常ではなかった。さらに、東京はこの決勝に備え、京都のプレッシング網にかからないためのポゼッション練習をおこなっていた。

■未完成ながら衝撃を与えた京都のサッカー

東京の大熊清監督に、キックオフからプレスを受けずに攻めきることができた原因を訊いた。答えはこうだった。