■局面ごとの判断ができるようになってきた

開幕の柏戦を0-3で敗戦し、震災による中断期間が明けてもなかなか調子が上がらずにいた清水だが、前半戦の17試合を終えた時点で、7勝6分4敗。勝ち点27を積み上げ、順位は6位にまで上昇していた。昨年のオフに多くの主力選手がチームを去っていたこともあり、序盤戦には、「降格候補」とまで言われた清水だったが、今やACL圏内を伺う勢いだ。その躍進の裏には、今期より就任したアフシン・ゴトビ監督の存在がある。2002年の日韓W杯では韓国代表の分析官として活躍。今年の1月に行われたアジア杯では、イラン代表を率いてベスト8に導いた。その豊富な経験と知識を若いチームで活かし牽引している。選手たちが指揮官の思考を理解するのに少し時間がかかったかもしれないが、その反応の速度は日々増していっていることが判る。

例えば、就任当初はオランダ式のピッチをワイドに使った攻撃というイメージが一人歩きしてしまったが、現在の選手たちはサイドから仕掛ける理由を理解した上で、大前や高原、アレックスがポジションを固定せず自由に動き攻撃の幅を広げている。ワイドの選手も外に張るだけではなく、張りながら中も窺ってゴールへ狙いを定めていく。「良いタイミングで中に入って行けと言われる」と右FWの大前が言うように、1対1ならば勝負を仕掛けるようにもなった。また、時には中でボールを引き出して起点となり、外からのクロスに対してPE内に進入し、中の人数を増やしよりゴールの可能性を高めるということが、局面ごとに判断してできるようになってきている。

■強いチームを作るにはまず守備から

守備に目を移しても、戦術がしっかりチームに浸透していることが判る。例えば、選手たちに守備のポイントを聞くと、誰からも、「100%の確実なパスを回していくこと」という言葉が返ってくる。ゴールに直結する縦を狙うパスも状況によっては許されてはいるが、無理な仕掛けでリスクを負うのであれば、タイミングを狙いつつしっかりとボールを保持しパスを回していく。極力リスクを避けること。それが守備時の大前提としてある。そのため、トップ下やFWへのくさびのパスが少なく横、横へとパスを繋ぐ印象を受けることが多いが、それは「強いチームを作るにはまず守備から」というゴトビイズムの表れなのである。

右サイドから、中盤を経由して左。左サイドから一度下げて右など、細かく確実にパスを繋ぎながら、その間に中盤の選手やFWの選手が良いポジションを取り、トライアングルを作り、パスの選択肢を増やして攻撃へスイッチする。出し所が無いからと言って、無理に前線にボールを蹴るリスクは犯さない。それが、アフシン・ゴトビ監督の考え方であり、現在はしっかりチームに浸透している事を試合を見ていても感じられるのが成長の証だろう。

■選手起用に見える優れたマネジメント

また、そういったリスク分散という観点から言えば、選手の起用法にもアフシン・ゴトビ監督は細心の注意を払っている。現在、チームの要と言えば、ベテランの小野と高原であることは間違いない。しかし、この2枚看板のタレントには代わりの選手が存在しないもの事実。だが、2人は共に今年で32才となる。そのため疲労と怪我のリスクは常につきまとう。特に足首に古傷を抱えている小野に関しては、細心の注意が必要だ。だから、先発をした試合でも状況によっては時間を限定してベンチに下げる。これは、1シーズンを通して活躍できるよう、極力疲労を残さないようにという指揮官の配慮がある。だが、その配慮が逆に良い効果を生む。当の小野も、「短い時間内でも決定的な仕事をしなくては…」という意識を強く持ちピッチ上では限られた時間でも大きな存在感を示すことになる。