また、こうした選手起用に関しての配慮は、小野だけではなく他の選手にも当てはまる。特に同じポジションで代わりの選手が居ない左SBの太田以外は、今シーズンのリーグ戦では全試合フル出場している選手は1人も居ない。夏の暑さや連戦、遠征の疲労を考慮し、常にそれぞれの選手個々の健康状態へ目を配りプレー時間を配慮しているのがアフシン・ゴトビ監督なのだ。

また、そういったやりくりの一環として、何人かの選手は今期から複数のポジションでプレーする機会が増えているのもアフシン・ゴトビ監督の采配力だ。そこには、選手間での競争、モチベーションアップという意味も含まれるが、トップチームの限られた人数の選手が、1つのポジションだけでなく、複数のポジションをこなすことができれば、チームとしての幅が増える。システムやオプションが増えれば、その結果、1年間を通じてレベルを大きく下げることなチームとしてく戦うことができると計算した。

■ゴトビイズムに慣れてきた選手たち

特に終盤戦はタイトルの掛かった試合、無理をしなければいけない試合と勝負所も増えてくる。そうなったときに、主力選手が複数のポジションをこなすことができれば乗り切れる可能性が高くなると指揮官は考えている。だから、アフシン・ゴトビ監督が試合中に交代を命じる場合は、交代出場した選手が代えられた選手と同ポジションに入らず、他の選手がその役割を担い、出場した選手は別のポジションでプレーすることも多い。固定観念に捕らわれることなく、その選手の能力ならばその与えた仕事ができると判断した場合は、どんどん新しいポジションでもプレーさせる。これは指揮官の鋭い分析力があっての起用法とも言えるだろう。

シーズン序盤はこうした指揮官の采配に、当の選手たちが戸惑っていた様子が伺えた。しかし、面白いことに、最近はどの選手からも、「もう慣れた」という言葉を聞くようになった。就任当初に比べ、アフシン・ゴトビという人間のキャラクターも理解できたことで、その能力に対する信頼度も増した。「しっかり守備ができているから、最近はあまり負ける気がしない」と村松が言えば、「前は俺たちがガキでしたが、監督が僕たちを大人にしてくれた」と太田は言う。ここまでの好成績に導いた指揮官に関して、選手たちは様々な形で絶大の信頼を置くことになった。また、逆に言えば選手たちは、どんな状況に置かれたとしても動じないタフな精神力と経験値が、この半年で付いてきたことが好成績に繋がっていると見て良いのではないだろうか。

■チームに残る多くの課題

ただ、まだまだ多くの課題は残っている。例えば、選手たちのリアクションに関してはシーズン序盤から試合の入り方がぼやけていたり、セットプレーの反応、失点後の反応に鈍さが生じるなど問題もある。これは、若さ故といえばそれまでだが、ずっと気になる点でもある。実際、敗戦した試合を振り返ると、ピッチ上で味方を鼓舞するリーダー的選手が居ない事で、ゲームの流れを切ることができずズルズルと相手のサッカーにはまってしまう事もあった。その意味では、若さを言い訳にしない新しいリーダーの出現が望まれる。個人的には岩下あたりが先頭に立ってくれると嬉しいのだが…

また、ピッチ外で言えば、選手層という点に関しての課題が残る。右SBの辻尾、左SBの太田のポジションには控えの選手が居ない。この件に関しては、クラブの予算規模にも関係するが、長いシーズンを戦うにはこの2つのポジションで控え選手の層が薄いのは致命的だ。アフシン・ゴトビ監督のやりくりや、采配にもどこかで限界がくる。問題が大きくなる前に、なんとか傷口が浅い段階で解決できればと思う。そうすればシーズン終盤に、このチームが上位争いをしている可能性は少なくない。