思考力は行動の源泉でもあるために、曖昧な思考力の脆弱化は、仕事を具体的に指示されなければできない社員、みずからの仕事をみずからつくり出せない社員が増えることと決して無関係ではない。

◆曖昧に考えられない人は、実は思考力のない人である
 私は企業研修とそれに関連するビジネス書の執筆を主たる生業としている。顧客企業の要望に応え、潜在読者であるビジネスパーソンの要望を受けながら、研修プログラムや書籍コンテンツをつくるのが仕事となる。
 しかし、いつも研修担当者や出版社の編集者と綱引きをしている。それはどんな綱引きかというと―――「なるべく具体的・実践実用的で分かりやすくしてください」という先方の要請と、「多少、抽象論となっても、受け手に思索させる余白を入れましょう」という私の意図との綱引きである。

 企業の研修担当者は、業務処理に直結する研修内容を望む。知識吸収や技能習得をさせて研修効果の見えやすいプログラムを望む。そういったプログラムの方が、受講者からは何かと文句は出ないし、やりやすいのだ。また、ビジネス書の企画・編集においてもそうだ。ともかく内容を単純化し即効的なものにしたほうが売りやすいし、実際に売れていく。
 受け手は簡便なソリッドな情報を欲しがり、理解に骨の折れるファジーな情報を敬遠する。より正確に言えば、直接仕事の処理に結びつく情報には金を出して本を買うが、直接的に実効のないものには、よいことが書かれているとは思いつつ、金を出してまで難しい本を読みたくないというのが心情だ。そのために中間にいる人たちは、戸惑いながら、しかし最終的に受け手におもねっている。私は(自省を込めてだが)その傾向に抗わねばならないと思っている。


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