前列左から、長谷川博己、池内博之、勝村政信、蜷川幸雄、阿部寛、石丸幹二、別所哲也、2列目左から、美波、紺野まひる、佐藤江梨子、麻実れい、栗山千明、水野美紀、最後列左から、高橋真唯、京野ことみ、大森博史、松尾敏伸、大石継太、横田栄司
 蜷川幸雄演出の舞台「コースト・オブ・ユートピア−ユートピアの岸へ」(9月12日〜10月4日)の制作発表が25日、東京・渋谷のBunkamuraシアターコクーンで行われ、主演の阿部寛、勝村政信、石丸幹二、池内博之、別所哲也、長谷川博己、紺野まひる、京野ことみ、美波、高橋真唯、佐藤江梨子、水野美紀、栗山千明、大森博史、松尾敏伸、大石継太、横田栄司、麻実れいが出席した。

 作品は、「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」や「恋におちたシェイクスピア」などで知られる劇作家、トム・ストッパード入魂の歴史叙事詩。2002年にロンドンで初演、2006年にはニューヨークで上演され、絶大な支持を得た。登場人物は70人以上、三部通しての上演時間は9時間を超える大作だ。

 今回は、Bunkamura20周年記念特別企画として、日本初演で、三部を一挙上演する。演出は、シアターコクーン芸術監督の蜷川幸雄。「グリークス」でギリシャ悲劇三部作(2000年、上演時間9時間)を手掛けた“世界のニナガワ”が、9年ぶりの長編に挑む。

 出席者のコメントは以下の通り。

◆蜷川幸雄
9時間の芝居が一体どうなることやら、そしてこの作品ほどキャストに難航した芝居はありませんでした。日本の俳優の知的水準も落ちたのか、なかなか面白がってくれない。今日ここにいらっしゃる皆さんは、知的な企みに共感してくれました。そして共に突っ走ろうという頼もしい仲間だと思っています。

この芝居は9時間にわたり、場所もあちこち飛びます。何よりも19世紀ロシアにおける革命の問題、変革に対する若者たちの様々な思い、社会的な抑圧における挫折、愛、成功を描いています。どうやって生き残るか、どうやって変革を志すのか、その思いは現在にも通じるものがあります。現在の世界が持っている困難や様々な抑圧、そういったことも含めて、決して19世紀ロシアだけの話だけではなく、あるいは、場所はドイツ、フランス、イギリスと変遷していくのですが、それが世界中の青年たちの思いでもある。そういう作品を今こそ、笑いにあふれ、あるいはシニカルな思いがあふれている日本で絶対に上演すべきだ、と考えています。

ましてや、なかなか出演してくれる俳優さんが少ない中、絶対に上演するぞ、と意地になりまして、ともかくやってしまおうと(思っています)。劇評でも、「最近の蜷川の芝居は長い、家に帰れない」と怒るジャーナリストの方々もいらっしゃるんですが、たまには電車に乗り遅れればいい、と思っています。どうぞ、たまには笑いながら、泣きながら、あるいは失望しながら、感動しながら、私たちの9時間に亘る冒険を、共に過ごしていただければと思っています。

今回は、僕がいつも仕事をしている人たちばかりではなくて、新しい俳優さんとも出会うことになります。その出会いが僕自身の作品、あるいは僕自身を成長させてくれたらいいなと思っています。

対面式の舞台ですので、飾るべきセットは一切ありません。全ては俳優の演技にかかっています。(出演者たちに向かって)任せたよ!

(「グリークス」以来の長篇大作に挑む現在心境は?)

ただ不安だけですね。3部読むのに、非常に時間がかかりますし、勉強しなければならないことが沢山あります。昨日も埼玉での仕事を終えた後、新宿へ出て2軒の本屋さんを回って、ロシア関係の資料を買いあさりました。僕の世代は比較的、ソビエト関係、つまり革命成就ものの世界に親しんでいたものですから、勉強はしていたのですが、帝政ロシアのロシアということについては、あまりディテイルについて勉強していませんでした。それを改めて勉強しているところです。

混迷している現在ですが、勉強して間に合わせようと思っています。ロシアに行ってこようか、とも考えています。ドタバタやっています。井上(ひさし)さんの「ムサシ」じゃないですけれど、日数があるからいい作品が出来るのであれば、シェイクスピア(作品)は誰がやってもいいはずで。日数が短いからバカ力で出来ることもある。悲観と楽観が交互している現在です。

◆阿部寛
蜷川さんの作品ではいつもハードルの高い挑戦をさせていただいていますが、今回、台本をみて気絶しそうになりました(笑)。この記念すべき9時間の演劇を精一杯頑張ってやりたいと思いますので、楽しみにしていてください。

時間があまり無い中で、どう戦っていくかと。皆さんも緊張しているのだなと知って、ホッとしたのと同時に、また更に緊張が高まりました。先ほど勝村さんが仰っていたように、9時間の演劇が終わった後に、お客さまと一緒に高揚して、素晴らしい空間をつくれる作品が出来るのかと思うと、今から興奮気味です。一生に一度しかないような壮大な経験ですので、頑張っていきたいという思いと共に、これから、この作品をどのように毎日自分の空間でつくり上げていくのか、まだ想像がつきませんが、とにかく全精力を込めて挑んでいきたいと思っています。

去年も蜷川さんと仕事をさせていただいたのですが、どこからこの元気、パワーが生まれてくるのだろうと思いました。僕もおととい45歳になったのですが、まだまだ30年近くあるんですけれども。蜷川さんの「挑む心」を僕たちも持って、一緒にこの作品をつくり上げていきたいと思っています。

◆勝村政信
僕は台本を持ったときに手首を痛めました(笑)。実際、通常の舞台の3本分ですから、台詞を覚えるのに、台本を持ったり、カバンに入れるのも大変です。いろいろな方から「好きな舞台を9時間も観られる、こんな幸せなことはない」といった意見や、「バカみたいなことをするんじゃない」というお叱りの意見などをいただきました。まだ稽古も始まっていない段階から、賛辞と酷評の両方をいただいています。こういったことは、なかなか無いのではないかと思っています。

20代の半ば頃、セゾン劇場(当時)で、ピーター・ブルックの「マハーバーラタ」という舞台を9時間くらい通しで観たことがあります。終わったときには、心の底から拍手をしました。観客が(出演者と)一体になって、1つの大きなイベントに参加しているようでした。そういったことが、今回の作品でも起こればいいと思います。長い芝居ですが、どうぞよろしく御願いします。

まずはこの(作品の)長さや台本に触れている時間の長さに慣れていくことが必要ではないかと思います。普通に生活していれば、9時間はあっという間に過ぎていきます。僕たちが体内リズムをつくっていくことが出来れば、観ている方にも伝わっていくのではないかと思います。

蜷川さんは常に強いハード、枠をつくって下さって、僕らがソフトをつくっていくのですが、今回は何も無いという設定をいただいたので、僕たちはそこで遊べれば、と思っています。何も無いといっても、何も無いわけではないですから。信頼しているようで、信頼していないんです。蜷川さん、死なないように! 僕らが薬になれればいいかなと思っています。

◆佐藤江梨子
今回初めて蜷川さんの作品に呼んでいただいて、今までは観る一方だったので、いつかは出演してみたいと思っていたので、すごくうれしいです。これほど豪華なメンバーと一緒に舞台に立てるかと思うと、今も鳥肌が立っています。私が「蜷川さんの舞台にでるんだ!」と言うと、皆が二言目には「脱ぐの?」と尋ねるんですが、それは舞台を観に来てのお楽しみということで! 今回、台本上キスシーンがあって、最初どの方がどの役ということが書かれていなかったときに、名前を見てこの人とはいやだなと思っていた人とだったので…、いやいや、この人は大好きな人だなと思っていた人とだったのでうれしいです(笑)。毎日、歯を磨いて頑張りたいと思います。

水野美紀
このナタリーという人は、言論の自由の無い抑圧された社会の中で、阿部寛さん演じられる流刑地に行ってしまったアレクサンドルと遠距離恋愛をして、駆け落ち同然で結婚をするというドラマチックな人生を歩んだ人です。情熱的で純粋でとてもすてきな女性です。そのような女性を演じられることがとても楽しみです。夫役の阿部さんと稽古場から仲良くしていただけるように頑張りたいと思います。先ほど佐藤さんが「脱ぐの?」と言われたと仰っていましたが、台本を見たら「裸になる」と書いてある部分があったのですが、そのあたりの演出プランはまだ蜷川さんから聞いていないので、まさかの舞台でヘアヌードか、という心配もありつつ、とにかく頑張りたいと思います。