コミュニケーションに革命をもたらす"電子の紙"
紙のように薄いディスプレイに文字や画像を自在に表示する「電子ペーパー」が熱い視線を浴びている。電子ペーパー一つで重い本を持ち歩かずにすむ、ペーパーレスになるなど、電子ペーパー技術の実現で世の中はどう変わるのか。開発者の夢をレポートする。

コミュニケーションに革命をもたらす"電子の紙"
古代エジプトでパピルスが発明されてから5000年もの間、人類にとって最大のコミュニケーションツールであった紙に、空前のイノベーションが起ころうとしている。  紙は、PCのディスプレイやテレビなどに比べて解像度は格段に高い。高精細をうたったデジタルハイビジョンテレビとて、紙の印刷物に比べれば表示は比較にならないほど粗い。しかし、極薄のディスプレイに、活字や写真の表示や書き込みなど紙としての機能をもたせ、電子と紙の両方のメリットを兼ね備えた「電子ペーパー」が2010年以降、本格的に普及するといわれている。
実は電子ペーパーは、既にPOPディスプレイや交通標示などで一部実用化が始まっているが、潜在的な用途はきわめて広い。例えば電子書籍。最近、携帯電話に小説やコミックを配信するサービスの市場が急伸しているが、サイズが小さく、解像度もそれなりという携帯電話のディスプレイでは、本に比べると読みにくい。極軽量で解像度も高い電子ペーパーが実現されれば、書籍や新聞は一気に電子化に流れる可能性がある。ちょうどコンパクトなMP3プレーヤーが、登場するやいなやポータブルCDプレーヤーを駆逐したのと同じ構図である。
電子書籍だけでなく、広告、アート、プレゼンテーションなど、電子ペーパー利用範囲はきわめて広い。また、ディスプレイユニットにスペースを取られて小型化に限界があった携帯電話やPDAなども、電子ペーパーを利用することで劇的に小型・軽量化が可能になるとも言われている。今後の技術革新によってコスト、耐久性、表示品質などの諸性能が向上するにつれて、用途も格段に広がっていくものと思われる。

■電子インクの発明で開発が一気に加速
電子ペーパーは最初、曲げられる液晶ディスプレイという発想からスタートした。紙のように柔軟性があり、曲面にも自由に張り付けることができるという特性から、ペーパーライクディスプレイなどと呼ばれていた。その後、アメリカのベンチャー企業E Ink、ジリコンメディア、日本のブリヂストンなど、複数の企業が電気や磁気を使って白黒表示をコントロールする「電子インク」を次々に考案し、電子ペーパー熱が一気に高まった。  電子インクにはさまざまな方式があるが、共通しているのは表示層をきわめて薄く作ることが可能という点。この電子インクの誕生で、薄さ1mm未満と、まさに紙のように薄い電子ペーパーの製品化がにわかに現実味を帯びた。また、電子インクはいったん表示が固定されればメモリー効果があるため、表示を継続させるための電力が不要という省電力面のメリットもある。
電子インク方式による電子ペーパーの開発は難題が山積みとなっていたが、今回取材した2社をはじめ、電子ペーパー実現を目指す開発陣の努力によって次々にそれらをクリア。実用化までのロードマップはかなり明確になってきている。今後はカラー表示や製造法などの研究と並行して、次第にコスト削減や耐久性確保といった、商品化を見越した技術開発も加速するだろう。電子ペーパー開発は、あらゆるエンジニアにとって目が離せない分野となりつつある。


電子ペーパーの実現への課題、求められるスキル、技術
■普及には課題山積。発明家マインドをもつエンジニアが求められている
電子インクの登場により、世界的に開発熱が高まっている電子ペーパーだが、エンドユーザー向け商品として普及するには、まだまだ越えなければならないハードルが数多く存在する。  電子ペーパーモジュールの技術水準は、ディスプレイとしてみれば、既に相当高い水準に達している。が、紙としての使用を想定すると一転、合格点にはほど遠いというのもまた確かである。開発には電子インク、ディスプレイ材料、ディスプレイモジュール、最終製品のアセンブリーの4つのフェーズがあるが、各々の分野で技術を高度化させる必要がある。
印刷物と遜色ない自然な表示を行うためには、既存のディスプレイとはけた違いの高いスペックが必須で、高性能電子ペーパーを無理なく量産するためには、いま一段のイノベーションが求められる。また、多少乱暴に扱っても壊れない耐久性の確保、書き込みや修正を容易に行うためのデバイス開発といった、紙的用法を実現させる技術開発も、これからが本番だ。
コスト低減などの研究はこれからが本番となろう。例えばエプソンはTFTの微細加工をインクジェットプリンターで行う研究を進めているが、それを電子ペーパー製造に応用できるようになれば、いったんガラスモジュールを作ってから表示層をはがすという複雑な工程を取らなくてもよくなる可能性がある。こうした研究も、電子ペーパーの普及に欠かせない。
電子ペーパーの中途採用ニーズはまだ本格的に立ち上がっていないが、技術開発が進展し、電子ペーパー市場が形成されるにしたがって、早晩採用は増えるものと思われる。求められる人材像について、セイコーエプソンの宮崎さん、凸版印刷の鈴木さんとも、「どのようなスキルをもっているかということはまったく関係ない」と口をそろえる。

「電子ペーパーの開発にあたっては、とてつもない困難に突き当たることなどしょっちゅう。困難に直面してもポジティブに取り組むことができる人、またある技術がダメだったとき、何がダメな原因だったのか、どうすれば解決できるかということを科学的、論理的に考えられる人である必要があります。スキルは必要になったときに身につければいい」(凸版印刷・鈴木さん)

「新しいモノをゼロから何としても作り上げたいという人に向く仕事だと思います。ディスプレイの知識は必須ではありません。むしろディスプレイ以外の観点から、曲がるものはどう作ればいいかといったアイデアをどんどん出してほしいくらいです。創造性が何より重要ですね」(セイコーエプソン・宮崎さん)

まったくの新技術がメジロ押しの電子ペーパーの世界では、想定外の問題が発生することなど日常茶飯事で、ルーチンワーク志向のエンジニアには向かない。商品開発の視点だけではなく、発明家マインドも不可欠だ。まだ、電子ペーパーの開発はこれから。したがって技術的分野が合致しているのではなく、新しいモノを生み出したい、というクリエーティブ志向のエンジニアが求められているのだ。

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