大事な商談中に汗がドバドバ…「年収700万→350万に半減」新卒からコツコツ働いてきた40代女性を襲った想定外
※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんの元に寄せられた相談内容を基に、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーを考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。

■更年期はマネープランに大影響
50歳前後でやってくる閉経の前後10年間を「更年期」と言います。女性ホルモンの分泌量が減少することで起こるさまざまな症状に悩む方は多く、私自身、47歳から更年期障害の症状が出はじめ、仕事や生活に大きな影響が出たひとりです。
そこで今回は、更年期によってマネープランに影響があった3名の方の経験から、40代以降のキャリアとお金について考えていきたいと思います。
都内にマネー相談の事務所を開いているということもあり、会社員として忙しく働く女性の相談にのることが多いのですが、山口まどかさん(仮名/当時47歳)は、いわゆる「バリキャリ女性」の典型でした。新卒で入社した大手メーカーで遮二無二に働き、気づけば40代後半になっていた山口さん。
この頃から、大事な商談やプレゼンの際にブワッと汗が吹き出るようになったといいます。めまいや手のこわばりも出ていましたが、結婚せずに男社会の中で踏ん張り続け、「次の部長」と目されるほど成果を出していたこともあり、「ちょっと疲れているだけ」と、自分の体を顧みずにいました。
■転職して年収が半減
転機になったのは、何カ月も前から準備をしてきた重要な商談後に倦怠感がひどくなり、数日間家を出られなくなったこと。更年期障害の診断を受けて納得はしたものの、挫折知らずの人生を歩んできた中、まさか自分が更年期で倒れることになるとは思ってもなかったようで、メンタル的にも追い込まれ、休職を決断しました。
休職から3年後。久しぶりに事務所をたずねてくれた山口さんは、30年近く勤めた大手メーカーを退職し、なんとヨガインストラクターの道を歩んでいました。休職中にジムのヨガクラスを受けてみたところ、心身の不調がぐっと和らいだことからヨガに傾倒。その道を極めたくなったのだと言います。「更年期障害で苦しんでいる周りの女性も、アロマなどリラックスに役立ちそうな趣味や、ピラティスなどの運動に夢中になる人が多いんですよ」とのこと。
しかし、キャリアチェンジによって700万円だった年収は350万円に激減。実家を引き継いで家賃負担がない分、「思い切れた」と話していました。
■更年期障害からうつ病に
更年期障害の症状がひどく、うつ病になってしまった方もいます。広告代理店で働いていた石島遥さん(仮名/当時45歳)は複数の担当業務を抱え、毎日のように深夜残業をする生活を続けていましたが、更年期障害で不眠や頭痛が頻発。メンタルを崩し、うつ病の診断を受けたことで、自宅療養になりました。
すぐ療養に入れたのは、「傷病手当金」の存在があったからです。傷病手当金は、病気や怪我で働けなくなった場合、給与の約3分の2が支払われる制度で、額面で月30万円ほどの給与だった石島さんは、「傷病手当金を使えば24万円くらいは入ってくるだろう」と計算していました。しかし、この計算が思わぬ落とし穴となり、彼女の生活は激変します。
産前産後休業の場合、健康保険や年金といった社会保険料は免除になるのですが、病気や怪我による休職で傷病手当金を受給した場合、社会保険料は免除されないのです。また、住民税は前年の所得を基に計算されるため、額面で30万円程度の給与があった石島さんの場合、税金と社会保険料で毎月約7万円が差し引かれていました。結局、傷病手当金として手元に残る金額は「24万円」ではなく、「17万円」ほどだったのです。
石島さんは、「17万円では東京で生活ができない」と、地元に帰ることになってしまいました。「まさか更年期障害でこんなに人生が変わると思わなかった」と話していたのが印象的でした。
■子どもの受験と重なり経済的不安
派遣社員の鈴木恭子さん(仮名/52歳)は、手取り20万円ほどの給料で働いていましたが、更年期にさしかかった時期と子どもの大学受験が重なり、「月2000円のホルモン補充療法すら捻出するのが苦しかった」とのこと。更年期は子どもの進学や親の介護・逝去といったタイミングと重なりやすく、経済的にもメンタル的にも追い詰められやすいのも特徴です。特に家族のこととなると、鈴木さんのように無意識に自分のことを後回しにしてしまう女性は多いのではないでしょうか。

■「キャリアを手放さない」方法を探す
3名の皆さんのお話は、決して他人事ではありません。そこで、私が考える「更年期を乗り越えるためのポイント」をいくつかお伝えしたいと思います。
まず一番大切なのは、「キャリアを手放さない」ことです。現在はヨガインストラクターとして働いている山口さんは、大手メーカーを退職したことで年収が半分以下になりました。持ち家があったことで決断できたということですが、そんな資産がない方も多いですし、老後を考えれば不安もあります。まずは勤務先に相談をし、一時的に休職したとしても、細く長く働き続けられる環境を整えられるとベストでしょう。
ただ、「更年期休暇」を取り入れている企業は1割にも満たないとされており、「言い出しにくい」という方が大半だと思います。実際、山口さんも社内に相談できず、無理をして頑張り続けた結果、症状を悪化させてしまいました。
しかし、ひとりの訴えがきっかけとなり、誰もが働きやすい環境が整備される可能性もありますし、逆にまったく理解のない会社だった場合には、働くペースを落としながら転職先を探すことも、長く働き続けるための選択肢になるでしょう。
厚生労働省では、更年期といったさまざまな心身不調に対応した「特別な休暇制度」の創設を促すために、「働き方・休み方改善ポータルサイト」で情報発信をしていますので、社会の変化にも期待したいですね。

■マネープランを立てて静養する
そもそも、不調を抱える中で大きな決断をすること自体が、リスクになり得ます。心身が弱っているときは判断力が鈍りがちなので、更年期障害をはじめとした心身の不調を感じている皆さんにお伝えしているアドバイスとしては、「いくらまでなら取り崩せる」といった一年先くらいまでのマネープランを立て、その中でゆっくり静養しながら働き方を考えましょう、ということです。
「休み中に株をはじめるのはどうですか」という方もいますが、まず資金がそれなりにないと難しいということと、判断力が低下している中でハイリスクな投資に手を出すことはおすすめできません。知り合いにも、うつ病で休業中にビットコインに手を出し、余計に症状を悪化させてしまった方がいます。「働くことが難しい局面では、お金を大きく増やすことも難しい」と割り切り、慣れない資産形成を突然はじめるのではなく、十分な額ではなくとも、傷病手当金などをもらってじっくり立て直しをはかるほうが安全かと思います。
一方で、きたる更年期に備えて、国債やNISA制度を活用して投資信託で投資するなど、比較的安定的にお金を増やせる可能性がある投資をはじめておくのはおすすめです。急な体調不良で働けなくなったときの、心の余裕につながるかもしれません。
今回は女性のケースをお伝えしましたが、男性にも更年期があります。長い目で見て、何が起きても落ち着いて対応できるマネープランと環境づくりを心がける。ひいてはそれが、自分らしく生き続けることにもつながってくるのではないでしょうか。
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高山 一恵(たかやま・かずえ)
Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年前後のお金の強化書』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。
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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 構成=小泉なつみ)
