【山村 佳子】給料泥棒と罵られ、働けなくなった42歳妻が感じとった夫の浮気。離婚を回避した意外な理由

写真拡大 (全7枚)

「会社のハラスメントによって心の病気になってしまった事例も多く見かけます。配偶者が心の病になった場合、ケアする側が浮気するケースが多く、ハラスメントが夫婦を壊してしまうこともあると感じます。」

こう語るのは、キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さん。彼女は、メンタル心理アドバイザー、夫婦カウンセラーの資格を持つ。

2026年10月10日(土)は世界メンタルヘルスデーだ。これは、メンタルヘルス(心の健康)の問題に関する意識を高め、正しい知識を普及することを目的としている。1992年に世界精神保健連盟によって定められ、その後、世界保健機関(WHO)も協賛するようになり、正式な国際デーになった。この日、心の不調により困難な状況にある人が、前向きに生きられる社会になるよう活動する、シルバーリボン運動によるイベントが行われる。

心の病のすべてがハラスメントが原因とはいえないが、会社のハラスメントが心の病につながることも少なくない。ひどいハラスメントから心を病み、人の夫婦関係が壊れてしまうこともありうる。ハラスメントが起こらないようにすることも、メンタルヘルスデーには重要だろう。

今回山村さんのところに相談に来たのは、42歳の専業主婦・梨香さん(仮名・42歳)。大手IT関連会社に勤務する45歳の夫とは結婚10年目となる。

ふたりは、2000年代初期のデジカメで写真を撮る趣味の会で出会い、交際1年で結婚。しかし結婚5年目、梨香さんは転職先の製造会社で受けた激しいパワハラが原因で、適応障害を発症してしまった。

その内容は、ちょっとしたミスでもほかの社員の前で「給料泥棒!」と怒鳴りつけられたり、「本当に役に立たないね」と言われたりというものだった。

しかし会社のハラスメントを証明することは難しい。会社で証拠を集めておくこともできず、梨香さんはやめるという選択肢しか残されておらず、しかし体調のせいで掃除洗濯食事の支度を最低限できる状態だった。それから5年。ハラスメントをきっかけとした心の病のせいで、夫婦の間に亀裂が入ってしまったというのだ。

最初は優しく支えてくれた夫

ハラスメントで辞職を余儀なくされたとき、梨香さんの夫は梨香さんを支えてくれました。しかし妊活や夫婦生活が満足にできないことにより、態度が冷たくなっていったのです。そして、1年前からは帰宅時間が遅くなったり、時々梨香さんを無視するような態度を取ることも。それで梨香さんは浮気を疑ったのです。

大きな衝突があったのは半年前です。夫は梨香さんに対して「5年近くも専業主婦したんだから、十分でしょう。就職活動をして、そろそろ自立して」と言います。心の健康状態に不安がある梨香さんは、「あなたが専業主婦になってほしいと言ったんじゃない」と言うと、「きちんと家事をして、子供を産んでいる場合の話だ。今のお前は、俺が家賃を払う家に住み、生活費も全額払って寝ているだけの役立たずだ」と怒鳴りつけられます。専業主婦を選んでしたのではなく、ハラスメントで心の病になったからなのだが、5年間という時間が、夫婦を疲れさせてしまったことが見えてきます。これももとは会社のハラスメントが原因なのに、梨香さんをかつて面罵した人はそんなことはつゆも思わないことでしょう。

この人はモテるだろうな

夫は平日の深夜帰り、朝帰りが多いのですが、ここ数年の写真がなく、自宅マンションから尾行を開始します。毎朝必ず6時53分に自宅を出て、毎日電車に乗って出勤するのです。

エントランスから出てきた夫は背が高く、ツーブロックにした白髪交じりの髪を1本に結んでおり、ブルーのシャツにカーゴパンツを合わせていておしゃれです。大手IT関連会社のエンジニアですが、カメラマンと言われれば、そう思えるほど自由な雰囲気をまとっていました。

まだ、通勤ラッシュは始まっていませんが、席は埋まっています。夫は人もまばらな電車のドアの横に立ち、文庫本を読み始めました。整った顔立ちに本がよく似合い、知的な雰囲気を漂わせています。「この人はモテるだろうな」と感じました。

レストランで待ち合わせをした人

都心のオフィスビルに8時に入って行き、17時に出てくるまで動きはありません。ビルから出てきた夫は、近くのジムに入っていき1時間後ほどで、さっぱりした顔で出てきました。再び会社に戻り、20時に退社すると、駅の反対側にあるアジアンレストランまで20分ほど歩いて入って行きました。

すると、依頼者・梨香さんに似ている、小柄でふっくらした体型の女性が、立ち上がって手を振ります。40代後半と思しき女性はテキパキと飲み物や食べ物を頼み、楽しそうに話し始めました。会話の内容から、久しぶりに会ったという感じはなく、仕事や共通の知人、映画や麻雀の話など多岐にわたっています。

2人は年末にかけて、旅行やイベント参加などが控えているようで、飛行機や新幹線の予約状況を確認しています。「まさか、こんなに趣味が合うとはね。同じ会社にいるとわかんないもんだね」と言っています。女性は夫の元同僚の様子です。

2人ともお酒が弱いらしく、ビール2本でかなり酔いが回っています。女性が甘えるように「うちにいると、いつも“しちゃう”から、こういうところで打ち合わせは外じゃないとダメだね」と言いつつ、夫の手を握っています。夫も手を握り返して女性の頬を撫でている。入店から1時間半ほどで、夫から「そろそろ行こうか」と店をでます。7000円ほどの会計は、夫が支払っていました。

店を出るとタクシーで、2キロほどのところにある、築20年くらいのマンションに入って行きます。女性が夫の手を引き、先導していたのが印象的でした。1時間半が経過した、23時45分に夫だけが出てくると、足早に地下鉄の駅に向かいます。自宅に帰る終電に乗るのでしょう。しかし、夫は階段の途中で立ち止まると、再びマンションに戻り、合鍵を使って中に入って行きました。

翌日の朝、夫は朝7時30分に出勤しましたが、女性は出てきませんでした。夫の服が変わっていたので、着替えも置いてあるのでしょう。その日、夫はジムの後に歩いてマンションに入って行き、終電で帰宅したのです。

証拠を見せられない理由

以上、梨香さんには「証拠は取れました」と連絡をしました。ただ、夫が女性と親密にしている動画や画像を見て、心の状態が悪化することが考えられます。梨香さんと事前に話をし、夫の行動を言葉で伝え、まずは相手の女性の顔写真のみをお渡しすることにしました。実際に離婚の交渉になるときまで、証拠をお預かりすることにしたのです。

梨香さんは、「やはり夫には女性がいたんですね」と涙を流しています。

「この女性は全く知りませんが、若く美人な女性じゃないことに、逆に傷つくというか……正直、子供が欲しいから浮気をしていると思っていました。目的が子供じゃないとわかると、この人がいいってことですよね。あと、夫は私からのLINEを17時から23時くらいまで未読無視します。それはこの女性との時間を大切にしているからなんですね」

梨香さんは「夫の気持ちはもう離れてしまったことがわかりました。どっちつかずの時は苦しかったのですが、浮気が確定し、さらに合鍵まで持たされている。もう離婚は確定です。私は捨てられるんです」と泣いています。そして「親にお金はなく、実家も狭いのですが、相談しようと思います」と電話し、神奈川県のはずれにある実家に帰って行きました。私は「何があっても梨香さんの味方です。そもそもの原因は会社のハラスメントですから、梨香さんが悪いわけではありません。なんでも相談してください」とお伝えしました。

離婚しないことになりました

それから2ヵ月後、梨香さんから「夫と離婚しないことになりました。相手の女性が既婚者だったのです」と連絡がありました。

相手の女性は、夫の大学時代の元彼女で、たまたま職場で一緒になり、4年ほど前から一緒に音楽イベントなどに一緒に行き、親しい友人関係が続いていました。半年前に女性は別の会社に転職しますが、そのとき夫に「元ダンナにマンションをもらって離婚した」と嘘をついて、夫を自宅に招き入れます。

夫は梨香さんのケアをすることによる心の疲れ、自分一人の収入で今後も家庭を支えることを不安に思っていたこともあり、女性の誘いに乗りました。夫は「梨香とのスキンシップが途絶え、親密さや安心感を得られなくなったから、誘いに乗ってしまった」と説明します。

夫は元彼女の明るさや、バリバリ仕事をしているところに惹かれると同時に、「この女性と結婚すれば、このマンションに住めるようになる」とも思ったそうです。

「ところが、女性は離婚などしておらず、女性の夫は海外赴任をしていただけでした。ある日、夫が女性宅でくつろいでいるときに、女性の夫が帰ってきたそうです。女性の夫は激怒し、大騒ぎになってしまった。ただ、夫が女性を完全に独身だと思っていたことがわかり、事なきを得たそうですが、既婚者だとわかっていたら、慰謝料どころの話ではなかったそうです」

ハラスメントの大きな影響

夫は、一人で自宅に帰り、誰もいない部屋の広さ、そしてさみしさを痛感します。さらに梨香さんの病気の原因を振り返り、ハラスメントによって体調が崩れたのに、自分が怒鳴ってしまったことに気づいてハッとしたそうです。

「夫は、2~3日1人で過ごして、どうしても耐えられないと、私の実家まで謝りに来ました。私も夫と離れてみて、感謝の気持ちを伝えなかったり、正直、甘えていた部分もあったので、謝りました。今後は夫に対して『ありがとう』と言ったり、夫の体調を気遣ったり、できるだけスキンシップをするなどして、夫婦関係を戻していくことにしたのです」

梨香さんが夫の浮気を許した背景には、経済的な問題もあるとは思いますが、やはり10年にわたって培った夫婦の関係があるのでしょう。この一件を機に、夫婦関係がいい方向に向かえば、これほど嬉しいことはありません。今回の事例は、ハラスメントが人の心にとても大きな影響を与えること、そしてそれが夫婦の亀裂にもつながることを改めて教えてくれました。もし浮気相手が既婚者でなかったら、ハラスメントを機にひとくみの夫婦の仲は壊れてしまっていたのです。

適応障害は改善するのにとても時間がかかることがあります。梨香さんのペースで安心できる環境がなにより大切です。梨香さんのメンタルの不調の改善も祈りつつ、梨香さん夫婦の未来が明るいことを祈りました。

今回の調査料金は30万円(経費別)です。

【前編】「給料泥棒!」と面罵され…42歳妻が働けなくなって起こった「夫婦の亀裂」